~競技その一、障害物マラソン~ (7)
ようやく宴さんの才能が公開されました。
後、Skills Crossにレビューが書かれてました。
ありがとーございます。
紅に迫る宴の姿は、悪鬼のような様相だった。
宴は紅に迫ると、後ろから背中の首根っこを掴み、
「そぉい!!」
後ろに投げ飛ばした。
その飛距離は十メートル程だろうか。
投げ飛ばした瞬間の笑みは、狂的に歪んでいた。
「獲ったぁ!! 行くぜ、瀬々薙ぃ!!」
キャラが崩壊した!?
「よくやった!! 宴!!」
上級生の幾人かが叫ぶ。
「高原さん、これは一体どういう!?」
その光景は見ていたほとんどの人間が唖然とするものだった。
「あー、あれが“無令効”だよ」
周りを見ると、どうやらここの会話に皆が耳を傾けている。
「というよりは、あれが、あれこそが宴、というべきかな」
「あれこそが、宴、とは?」
答えたのは相馬。
「“無令効”ってのは、身体に掛かる一切の抵抗を令ちて無くす。つまり、風の抵抗、身体に掛かる重さ、そして、身体に掛かっている無意識的な抵抗ですら外す才能さ」
「身体に掛かっている無意識的な抵抗?」
聞いたことも無い。
「人間って言うのは自分の身体を守るために、自分の力で壊さないように、力をセーブしてるのさ。だから、それを開放すれば莫大な力が手に入る」
「でも、それは自分の身体を守るためにやってるんだよね? そんなものを開放したら……」
「そうさ。開放させすぎれば筋肉断裂は免れない。だけど、まぁ、ここで相馬君の問いに答えられそうなんだけどね。人間ってのは怠慢な生き物さ。脳ですら、実際に使っているのは50とか70%とか言われている」
「まさか……」
「そう、宴が“無令効”を発動している間は、脳ですら100%で使う。だから、あのモードの時は気が触れるっていうのかな、とにかく色々とぶっ飛ぶ」
「色々とぶっ飛ぶって……」
でも、今までの感じからは一線を画したように宴さんが変わっている。
「なるほど、才能がというよりは、宴先輩自身が変わるんですね」
相馬が締めくくった。
「そういうことさ。まぁ、ああなっちゃったら、ほとんどの人間は止められないよね」
ハッハッハー、と高笑いする。
正直言って似合わなかった。
さて、話題の宴先輩と瀬々薙はといういうと、空を物凄いスピードで疾走していた。
「一つ質問なんですが」
「なんでもどうぞ」
「先ほどの話を聞いた限りだと、明らかにこの競技で才能を使うのは不利じゃないですか? 短距離とかそういう競技ならともかく、連続使用は厳禁なんですよね」
「まぁね。だけど、宴の場合はちょっと違うんだよ。昔からそういうリミットを外してるから、筋肉がそれに合うように育ってる。強靭に、何度も何度も断裂を繰り返した筋肉は大きくなるよりも密度を増している。細マッチョってやつだね。そういう点では、あの紅桜さんに似てるね。彼は」
簡単に言うなら、ある程度長時間なら耐えられるような身体になっているってことかな?
周りの会話を聞いていた人たちは桜さんって聞いてもわからないと思うんだが。
「ほらほら、俺の会話に聞き入ってるんじゃなくて、ちゃんと試合を見なさい」
高原さんは映像のほうを指差した。
そこでは、第三障害の上空で闘いが繰り広げられていた。
第三障害:玩具箱
大きな積み木を模した四角やら三角やらの物体が山のように積まれていた。
これを乗り越えていくのが第三障害らしい。
第一障害の壁登りを連続で繰り返されるような感覚の上に、立体感覚まで必要とされるが、戦っている二組には関係ないのだろう。
「嵐槍:渦々!!」
「瀬々薙ぃ!! 盾!!」
「言われなくても!!」
おそらく空中で空気の槍を作ったのだろう。
巻き上げる砂がない分槍が見えないが、空気を操ることの出来る瀬々薙には分かるのか的確にどこかに壁を作って防いだのだろう。
何せ両者とも空気を使っているので、本当にしているのかどうか見えなかった。
「嵐槍:渦々、ツイン!!」
嵐山は両手を瀬々薙&宴のほうに向ける。
プシュウと音がしたので、おそらく槍を撃ったのだろう。
だから見えないんだって。
いくら高画質のハイビジョンテレビとはいえ、現場と映像は違う。
現場では風の流れや微妙な音の変化で槍の方向くらいは見えるのかもしれないが、見ている側は何が何やらわからない。
「瀬々薙!!」
「わかってるわようるさいな」
そして瀬々薙が前に手を出す。
おそらく壁を作ったのだろう。
――――――、と、表現しにくい戦いが繰り広げられていて、観客はいまいち騒ぐことも出来ずにいた。