~競技その一、障害物マラソン~ (6)
最近文法が荒れてきています。
うーん……。
立ちはだかった宴は紅に掌底を放つ。
が。
紅はその跳躍力を生かして宴の横をすり抜け、颯爽と先へ進んでいく。
「せっかくの一対一の決闘を逃げる気かよ!?」
走り去っていく紅の姿を見て、宴は驚いた。
「三十六計逃げるにしかず、でしょ!!」
未確認の才能相手に、戦う必要は無い。
危険な相手からは逃げる、常套手段だった。
「瀬々薙!! 逃げられた!!」
宴が紅が翔けて行く上空を見て叫ぶ。
そこには空中を走る小柄な少女の姿が。
「あれってさっき宴先輩と一緒に降りてきてた……、瀬々薙さん?」
「おぉっと!? これは、瀬々薙選手の才能“辟易する空気”か!?」
はーでんえあ?
赤井は実況の説明が分からない。
おそらく周りの人もそうだろう。
こんなことを言っちゃあ悪いが、紅のここでのスター性が高すぎて注目されて無かったっていうのがほとんどだろうから。
「先ほども説明しましたが、“辟易する空気”とは簡単に説明すると、空気を固めることの出来る才能です。おそらく瀬々薙選手は空気を固めて足場を作っているのだと思われます」
赤井の気持ちを代弁してくれたのか、解説の人が説明してくれた。
「固め方によってはこういうことも出来る」
瀬々薙がそういった瞬間、紅が猛スピードで。
盛大にこけた。
余りにも速かったので四回転ほどして、今度は何か透明な壁に当たったように。
「?」
体操服がぼろぼろになりながら、紅は自分の右足と前を眺めていた。
「なるほどね。瀬々薙ちゃん、なかなかの使い手だよ」
赤井達が観戦しているなか、後ろに生徒会長、高原先輩が出てきた。
「一体どういうことですか?」
「彼女の才能、聞いてなかったのかい? 空気を固められるんだよ。空気ってのは透明だろ? あのこけ方からして、何かにつまずいたんだろう。多分、紅さんの足元の空気を固めてブロックみたいにして置いたんだろう。それに勢いよく突っ込んでこけたと。そのあと転がるのが止まったのも、空気で壁を作ったから」
「流石“観察眼”じゃ……、ですね」
染山は高原に一礼する。
「ってことは、瀬々薙って人はある程度の距離で固めることが出来るってことなんですかね。大抵その手の才能ってのは自分が触れている範囲からあまり離れられないのに」
大抵の才能は、自分に触れているか、ごく身近な空間でしか才能を発揮できない。
赤井の才能“才能帰却”も触れないと発動できないし、染山の“体温自在”だって自分の温度しか変えられないように。
「だから驚いてるんだよ。どういう手を使ったかは分からないけど、あれはダークホースだね」
うんうんとうなずく高原。
「でも、嵐山みたいに空気を操れるとは言っても、そんな才能じゃ紅さんに追いつけるような速度が出ないと思うんですが」
「そーだよー。今までの障害、壁や穴なら空気で足場を作れば突破こそ出来るけどー、体力は一般の女子と同じなんじゃないんですかー」
相馬と十島が同じ質問を口にする。
「あぁ、お前達は宴の才能を知らないんだよな。上級生の間じゃ、結構有名だったりするんだけどな」
宴先輩の才能?
「それって、“無令効”ってやつですか?」
宴先輩が降ってきたときに言ってた……。
「そ。機動力って面。というよりは馬鹿力、というよりは体力なのかな?」
「一体どんな才能なんだ……?」
「もう見れると思うよ」
高原先輩が画面を指差すと、宴先輩が紅に迫っていた。