~競技その一、障害物マラソン~ (3)
「現在嵐山が一人トップを独走、第二の障害落とし穴で躓いている紅さんのところには後続がどんどんと追いすがってきたー!!」
実況も熱がこもる。
「……まずい、わね。さっさと出ましょうか」
紅は穴の中で一人呟くと、両手を後ろに回してしゃがみこむ。
「さっきみたいに走っていたエネルギーこそ無いけど、これくらいの高さなら、十っ分!!」
そして溜めに溜めたバネを一気に開放する。
「おぉっと、紅さんが落とし穴からロケットのように飛び出してきたー!! まだ勝負は分からないぞ!!」
紅が穴から飛び出してきた。
そして、おもむろに下がりだした。
「一体何をする気なのか!!」
そんな紅を尻目にどんどん後続は紅を追い抜いていく。
「これ位で良いかしら」
ある程度第二の障害から距離をとったところで、紅がかがむ。
いや、かがむというよりも、あれは。
「クラウチングスタートか?」
両手を前におき、足を後ろに。補助の金具こそ無いものの。
「よーい」
小声で紅の口がそう動いた気がした。
「ドンッ!!」
いきなり紅は叫ぶと、猛スピードで走り出した。
そして、第二障害手前で踏み切る。
「せーのっ!!」
跳んだ。
むしろ翔けるといったところか。
紅は走り幅跳びの要領で、第二障害のところごと跳び切った。
長さは10メートルはくだらなかっただろう。
「おおぉぉぉ!!」
実況と周りからの歓声がシンクロする。
「さて、追い翔けるよ!!」
前を見据え、また翔け出した。
「このレースは、先輩方二人の独壇場じゃないんですよー」
第二障害落とし穴に辿り着いた小柄な女の子が一度立ち止まって前を見て言う。
「それを言うなら、後輩にここまで負けてるようじゃ、宴が泣くってもんよ」
同じく第二障害落とし穴に辿り着いた背が高く、背中に赤い大きな旗を背負った男が言う。
二人は互いに目を合わせ、また正面の障害物を見る。
「赤旗先輩は、闇雲に向こうには突っ込まないんですね」
「それを言うなら後輩。お前もな。名前は?」
「中等部2ーA、瀬々薙一理です。赤旗先輩は?」
「俺は高等部3-A、宴宗十郎。俺を知らなくて中等部の2-Aってことは、白色か?」
「野暮なことは言いっこなしですよ、宴先輩。このレースは楽しむためのもの。点数すら出ないのですから」
「そうだな。いや、そうだったそうだった。面白い後輩だな。瀬々薙。いっちょ、組んでみるか?」
宴は瀬々薙の肩を叩く。
「いいでしょう。宴先輩」
瀬々薙は宴の方に振り向く。
「赤旗先輩で構わねえ」
そこで二人は握手を交わした。