~十島に訪れるはずの残酷な運命。~ (4)
「待てや」
染山は走り出した十島の腕を掴んだ。
「離して!!」
十島は必死に振りほどこうとするが、離れない。
「絶対に離さないじゃん。大体、昨日からのお前が変すぎるんじゃん。まるで、今から死ぬみたいな」
「……。そう、だよ。今日、どこかでいつか僕は死ぬ。そう、“天啓”が下った」
「お前、まさか自分の寿命でも見たってのか」
「その通りー」
「なっ!? おい、本気で言ってんのか!!」
「紫瀬は知ってるでしょー。僕は恐怖を感じないー」
「ふざけるなや!! ちったぁ死にたくないとでも思わないのかよ!!」
染山は十島の襟元を掴みあげた。
「僕だって思ってるさ!!」
十島はその掴まれた襟を振りほどく。
「でも、しょうがないんだよ。“天啓”の命中率は100%。外れることはない」
「それは、今までの話だろ? なら、今回は外させてやる」
染山は強い口調でそう言い切る。
「ようは今日一日を乗り切りゃいいんじゃん。元気出して行こうじゃん」
「で、でも……」
「俺はお前がどこに行こうが必ず守る。だからお前も自分の身を守ってくれ」
「し、紫瀬……」
かくして、染山のボディーガードが始まった。
「おいおいおいおい兄ちゃんよぉ。うちの兄貴にぶつかっといてすいませんじゃないわボケがぁ!!」
「そうじゃそうじゃ!! 謝らんかいわれぇ!!」
いきなりからまれたー!!
今時こういう風な人も珍しい気がするんだが!?
「まったく、現代にも生き残ってたんじゃん」
「あぁん!?」
こういうチンピラは、一発脅しとけば良いのか?
「溶かすぞ」
染山が足を思い切り振り下ろす。
すると、足元のコンクリートが見る見るうちにドロドロと溶けていき、染山の足は地面にめり込んでいく。
「ひ、ひぇ!!」
チンピラの一人が素っ頓狂な声を出す。
「お前ら、こんな事で驚くんじゃねぇ!!」
兄貴(笑)が大きな声を上げてチンピラを叱る。
「そ、そうだぜ兄貴!! 兄貴の才能を見せてやってくださいよ」
チンピラ(声を出さなかった方)がいかにもなセリフを吐く。
「ざっと、こんなもんかのぉ!!」
兄貴(笑)は拳を握り締めると、裏拳を思い切り横のコンクリートの壁にぶつける。
ドン!! と爆音のような音がして、横の壁は丸くえぐれていた。
「どうだ!! 兄貴は肉体強化系のレベル3なんだぜ!!」
チンピラも急に胸を張る。
「そうか、俺はレベル5だ」
染山は飛び散った破片を集めると、一気に溶かし始めた。
「まったく、お前達修理する気とか毛頭ないじゃん?」
そして、壁へと塗りこんでいく。
「よし、これで元通り。じゃあ、お前らはこれで良いよな」
染山はそういうと手に持っていたドロッとした何かを兄貴(笑)に投げつけた。
それは弁慶の泣き所辺りにベチャリと張り付いた。
「じゃ、行くじゃん十島」
「うんー」
何食わぬ顔でその場を去ろうとする二人。
「お、おい待――――――――」
「がぁぁぁ!! 熱っつぅぅーーーーーー!!」
二人を止めようとしたチンピラの声は、兄貴(笑)の声に遮られた。
弁慶にへばりついていたコンクリート色した物は、服を燃やしながら兄貴(笑)の肌を見せ始めていた。
「早めに水で冷やさないと服と皮膚がひっついちまうじゃん」
「ごめんなさいー」
二人は颯爽とその場を離れた。
「ってか、ああいう面倒なトラブルから本気で死の危険を感じるものまで今日はおおすぎじゃん!!」
二人はこれまでにチンピラに絡まれること5回看板が落ちてくること4回マンホールに落ちかけること2回目の前で強盗が現れること1回を経験していた。
「やっぱりー、僕のせいー」
「気にするな。俺が好きでやってるだけじゃん」
「でもー、やっぱり駄目だ!!」
また十島は走り出した。
交差点へ。
ブーと野太いブザーのような音が鳴り響く。
そう、十島にトラックが迫っていた。