~十島に訪れるはずの残酷な運命。~ (1)
3年前の7月5日(土)、十島の寮。
「今日は、どこにも出ないことにしよう」
十島は朝から部屋にこもっていた。
やるべきことは全てやった。
後は座して待つのみ。
「意外と当日まで来ると焦らないもんだねー」
そうして時計の針が午前10時を回った辺りだった。
鍵を閉めていたはずの玄関のドアが開いた音がした。
「あれ?」
紫瀬には来るなって言っといたのに。
そう思って玄関まで向かったときだった。
「動くな。茶仁、十島で間違いないか?」
後頭部にひんやりと冷たい金属が当てられた。
そして後ろから低い声が掛けられた。
「うん。僕が十島だけど?」
これって銃なのかなー、やっぱり。
うすうす後ろから感じる突き刺すような気配も感じたことがある。
堅気じゃないよ絶対。
「ならば、お前の才能は“閃”で間違いないのだな」
「やっぱりそれが目的かー」
十島は自分の才能のために、今までもこういう組織的なところに誘拐されたりしたことがある。
見たものに対する答えをどんなものにでも返せる、なんて才能はそういう裏の世界ではほぼ最強の力を誇っているからだ。
とすると、誘拐されてる間に他の組織との抗争に巻き込まれたとか、誘拐された後に僕が才能を使わないって言いはって、それで殺されるとかかな?
と、ここまで考えて十島は自分が空恐ろしく感じた。
別に自分が死ぬ未来を考えたからではない。
今日中に死ぬことが分かっているのに、冷静に自分の死因を考えている自分に空恐ろしく感じたのだ。
幼い頃に恐怖を感じすぎちゃったのかなー。
十島は幼い頃から才能目当てであらゆる裏の組織に狙われ恐怖を感じすぎたのか、恐怖という感情がほとんと抜け落ちているといっても過言ではない。
そのためそれに連なる感情、緊張感や焦りなどを全く感じなくなってしまった。
また、場の空気の把握もあまりできず、喋り方ものんびりしたものになった。
「抵抗とかしたら後ろのそれが火を吹くんですかー?」
「まぁ、それは一番避けたい事態ではある。だが、随分とこういう状況に慣れているようだな」
「おかげさまでねー。それに今日は、ちょっと別の事情もあるのですー」
「そうか。ではついてきてもらおうか」
そう言って男が玄関の扉を開けたそのときだった。
「ぐぁぁ!!」
そんな断末魔のような声が聞こえ、男が開けたドアに外で待っていた他の男が倒れこんできた。
「!? 何があった!!」
思わず男も警戒する。
「よく分からんが、これってぜってー大変な状況じゃん?」
まさか。
この口調は。
「お前、何者だ」
男は懐に手を突っ込んで言う。
「名乗るほどのもんでも無いじゃん。染山紫瀬。ただの十島の友達だ!」
最後の口調だけは普段の軽薄さの無い真剣なものだった。