~擬似戦争の説明と紅の異名に赤井は驚く。~
「騎馬戦は、擬似戦争と言っても過言ではありません」
HRが終わった後、相馬が俺に騎馬戦の説明をしに来てくれた。
「多分……、赤井君は外での騎馬戦を想像していたのでしょうが、ここの騎馬戦は普通のものとは少し違いますよ」
「どこがどう違うんだ?」
多少のローカルルールが入るって事だろうか。
「まず、四人一組となって作る騎馬と大将と呼ばれる騎馬がありますのは、外の世界でも一緒ですよね」
「というかそれがルールだろ」
「ですが、ここの騎馬戦はそれだけにとどまりません。歩兵と呼ばれる一人の兵士達と、指揮官と呼ばれる場を動かす役割のものがあり、更には本丸という本拠地まであるんですよ」
「……、そりゃ、本気で擬似ではあるが戦争じゃないのか? 合戦っていう感じの」
「えぇ。戦国の戦いと呼んで差し支えありません。馬はいませんが」
というか、歩兵制度って。
普通に喧嘩と同じレベルの話じゃないか。
「ここでいう歩兵には、大将や騎馬を守る部隊や、本丸を防ぐ部隊、遠距離から敵軍を攻撃する部隊、切り込み隊長としての部隊など、色々な使い方が出来るんです。ですからこの戦いは、指揮官がいかに有能であるかが勝敗の決め手になることもあります」
「あいつらが騒ぐわけだ……。こんな行事じゃ、絶対凄く燃えそうだもんな」
「ですね。心配せずとも、私もエントリーさせてもらいましたし、紅さんや他の皆もエントリーしてくれたではありませんか」
そう、あの後紅が自分の責任だと言い出して自分から手を挙げたのだ。
その様子を見ていた相馬も、やれやれといった顔をして手を挙げてくれた。
他にもクラスの数人が手を挙げてくれた。
「でも、染山や十島は出なかったんだな。絶対二人はこんなの楽しみそうだったんだが」
「あの二人は分かっているんですよ。二人とも強い才能ではあるんですが、いかんせん使い道を発見できなかったりするんです」
染山の才能は“体温自在”。体温をコントロールするが、それを使うと他のみんなに被害が出るかもしれない。
十島の才能は“閃”。見たものに対する答えを出してくれるが、見たものにしか出してくれないし、正しい答えしか出さない。
例えば、この戦いで絶対に負けるという予言が出れば、絶対に負けてしまうのだ。
それが十島にとっては嫌だそうだ。俺だってそんなのは嫌だ。
「心配せずとも大丈夫です。おそらく今年の指揮官及び大将には、あの人が選ばれるのでありましょうから」
「あの人?」
誰のことなんだろうか?
「しっかしまぁ、お前もいきなり凄いところ選ぶじゃんよ。赤井」
「驚きー」
「命知らずだなぁ」
「……勇者……、無謀な意味の方での……」
放課後、皆で集まって話をしていた。
「しゃーねーだろうが。俺は騎馬戦がそんな戦いだって知らなかったんだからよ」
「それもそうね」
クラスの中では間之スポに対する熱意で少し酔ったように浮かれ始めているやつらも多いのだが、篠崎は一人落ち着いていた。
「それに、なんだかんだで相馬と紅も出てるじゃん」
「紅さんはともかくー、相馬には驚いたー」
「紅は種目に出すぎよ」
「えへへー」
紅は照れ隠しのように笑う。
この学校の出場制度は、『出たけりゃ体力の余す限り出てよし』という、随分スパッとした制度である。
もちろん一人どれかに必ず出なければならないが、上限は無い。
紅は騎馬戦のほかにも徒競走、リレー、障害物競走など、色々な種目に出場していた。
出すぎだろ!!
そして走る種目多いな!!
と叫んだのは言うまでも無い。
「何せ紅さんはこの間之スポに置いてはかなりの有名人ですからね」
「そうなのか?」
「えへへー」
相馬からも褒められて(本当に褒めているかどうかは定かではないが)照れ笑いを続ける。
「ほら、紅の才能は“超跳躍”。身体能力を全体的には引き上げられないけれど、その代わり局所的にならそういう肉体強化系等の才能を軽く凌駕できるのよ。確か“赤き稲妻”とか、“紅の彗星”とか呼ばれてたりするのよ?」
「そうか、だから走る科目にはめっぽう強いのか。って、ネーミングセンス!!」
「みんなして褒めないでよ~」
珍しく紅の顔がふやけだした。
というかなかなか見れたものじゃないんだが!?
「しゃきっとしなさい。しゃきっと」
そんな紅に、喝を入れる篠崎。
「どんな相手でも油断しちゃ駄目なんだから」
「は、はーい」
厳しい篠崎の口調に、思わずしゅんとする紅。
だが、こういう空気はとても良いなと赤井は思った。
こんなこと考え出すから爺臭いんだろうが。
シャアザクっていうのは言わずもがなではありますが、ガンダムのシャアという人が乗る専用機のことです。
異名は赤い彗星と呼ばれています。