~頼ること。~
久々投稿。
「あれが師匠を貶めた赤井って奴ですか。何か普通の学生ですけどねぇ」
「油断すると死ぬぞ。冗談じゃなくな」
Mr.バッドエンドが瞬間移動した先はビルの屋上。そこに数人が立って双眼鏡を覗いていた。
その中の一人がMr.バッドエンドに話しかける。
「というより、彼に牙をむかれる条件は“彼に否定されること”だろうな。全く傲慢な能力だぜ」
「それが師匠の言っていた“生まれ持った非凡”ですか? 本当、説明聞いてもよくわからないんですけど」
「証明する。俺の仮説を、アイツの全てを、暴く」
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赤井はその場で立ち尽くしていたが、しばらくすると走り出した。
動いていないと、恐怖で頭がどうにかなってしまいそうだったからだ。
「どうすれば……」
どうすればいいんだ。
過去の亡霊は生きていた。
最悪の言葉を告げて、俺の目の前に現れやがった。
言葉を、うわ言をただ呟く。
取りとめも無く、ただ。
「どうすれば……」
「どうしたの?」
返ってこないと思っていた声に、返事が。
「そんなに青ざめて、汗びっしょりじゃない。体調悪いの?」
足を止め顔を上げると、目の前に紅が立っていた。
「あ……、紅……」
紅を見て一瞬安堵するが、すぐに頭の中に一つのイメージが浮かぶ。
Mr.バッドエンドに無残に殺される。
何のかかわりも無い彼女が、掃き捨てるように。
それが、どうしても頭から離れなくなる。
「うわ、うわあああっぁぁぁ!!」
そして、意識を失った。
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気がつくと、普段の2-Aの教室に居た。
周りの皆も思い思いのことを話している。
だが、ふと右手にどろりとした湿り気を感じる。
恐る恐る目の前に晒してみると――――――――――――――。
「あ、あああぁぁぁぁ!!!」
赤。
血に、染まっている。
瞬間空間が暗転し、周りの状況が一変する。
辺りで話していた生徒達が皆血だらけとなり、傷を負い、倒れている。
「言ったろうが。周りも全部巻き込むって。君のせいで、君がいるために、彼らは傷つき、地に伏し、君を妬んで恨んで死んでいくんだろうよ」
赤のセカイで喋る、幻影。
Mr.バッドエンドだ。
近くを見ると、藤崎や天音、相馬に篠崎や十島、染山の姿も見える。
皆、赤井を恨むような表情で。
「やめろ、やめてくれ!!」
叫びと共に、赤井は白いベッドから飛び起きた。
「はぁっ、はぁ、はぁ、夢……、か?」
少し落ち着いた後で辺りを見ると、どうやら学校の保健室のようだ。
と、視界の隅に転げ落ちている影を見つける。
「そんなところで、何やってるんだ、紅」
高くなっているベッドの横で、何がしたいのか倒れこんでいる。
「アンタが急に起き上がってくるからでしょうが!!」
どうやら紅は俺を見ていてくれたらしいのだが、俺が飛び起きた頭に直撃してベッドの横に倒れたらしい。
「済まないな。ところで、けいどろ大会は?」
「もう終わったわよ。結構接戦だったんだけど、泥棒側の勝ち。流石は高原さんね」
「そうか、出れなくて少し残念だ」
「そうね、アンタがいれば少しは変わっていたでしょうしね」
どうやら俺は意識を失った後、紅に救護用のテントへ運ばれたようだ。
先生の話だと、極度のストレス、緊張による失神に近いものだと判断された。
外を見ると夜になっていることから、それなりの時間寝ていたようだ。
「それはそうと、うなされてたけど大丈夫なの? 何かあった?」
「あ、あぁ、それは……」
流石に、紅には、話せないだろうか。
「私に話せないようなことが、けいどろ大会の裏であったって事なのね」
紅もどうやら察してくれたらしい。
「本当に話せないの? 話せば楽になることもあるわよ。私と赤井の仲じゃない」
紅は気にかけてくれている。
俺も相談してしまいたい。
だが、話すことで巻き込んでしまうのではないか。
大事だから。大事な人だからこそ。
遠ざけたいのだ。
「赤井、ちょっとこっち向け」
俺が顔を伏せていると、紅から少し強めの声をかけられる。
何となく語尾おかしくない? と思いながら上を向くと。
「しゃんとしなさいよ!!」
パシン、と乾いた音が立った。
最初、何が起きたが分からなかったが、どうやら左手ではたかれたようだ。
「どうして赤井はそうやって一人で抱え込むのよ!! 少しは私を頼りなさいよ!!」
紅の目には涙が浮かんでいた。
「赤井はそんな顔したこと一度も無いじゃない!! それなのに、ずっと顔も青ざめて、悪い夢も見てるみたいだし……、私にも教えなさいよ!!」
「私は赤井に救われてばかりなんで嫌なの!! 出会った時も、“創造主”のときも!!」
そうか。
遠ざけることで、守れたような気になっていた。
でも、そのこと自体が彼女を傷つけていたのだ。
「私にも、赤井を、救わせてよぉ……」
最後のほうの言葉は泣きじゃくっていたのか聞き取れなかった。
その姿を見て、決心する。
「……、ごめん、紅。分かった。これから話すことは、俺の昔話だ。残念なことに脚色無しの、な」
そして、長い時間をかけて紅に全てを話した。