~考察、ご都合を能力と置き換えて。~
「何言ってるんだお前?」
こいつ、いよいよもって訳が分からない。
超能力ってのが才能だけじゃない?
じゃあ、他に何があるっていうんだ。
「ちょっとは耳を傾けて欲しいもんだね。君も感じたことがあるんじゃないのか? 自分の周りで起きる展開が、何故か良い方向に向かうなんて事を」
「はぁ? そんなの、たまたまじゃないのか?」
確かにこの男の事件のときも、“5.01事件”の時も、運がよかったとは思った。
だが、そんなことを超能力なんてもので説明できるわけが無い。
「他にも、例えば、高原衣の絶大な求心力、人望であったり、紅桜の尋常じゃない身体能力、パワーであったり」
……それは謎だが。
「大体本来なら俺とこんな平和な国で育った一介の少年である君に、負けるはずがないんだよ。俺は人のありとあらゆる暗部を見てきたし、戦略策略全てを見てきた」
「それなのに、お前に負けた」
「ここで俺は、一つの仮説を立てたわけだ」
Mr.バッドエンドが指を一本立てる。
「仮説?」
「そうだ。俺はそれを“生まれ持った非凡”と名づけた。“才能”とはまったく別の次元にある、別の効果を持つ力だ」
「なんていうか、突拍子も無い話だな」
急に変な名前を出されてもな。
「おいおい、君は歴史を学んでいるのか? 本来化学や物理学なんてものは仮説から始まっているんだぜ?」
「AをこうしたらBになった、何度繰り返してもこうなるのだからこれを公式として組み上げよう、それなら次の式もこういう風にできるんじゃないか、それの繰り返しさ。AをXという不動の物に置き換えて、活用していくってのがこれら理学系というの考え方だ。未だに重力が何故発生して、俺達の体を引っ張ってるのか原義的には分かっていないし、飛行機が飛ぶ理由も原子力を扱いこなす理由も、厳密には分かっていないのと同義。こんな形にしてこれくらいの力で飛ばせば飛ぶ、エネルギーはこういう割合で出来ているのでないか、そういうことを公式にすることはできるが、何故公式がそうであるのか、ということは今だ誰も、分かっちゃいない」
「随分と説明したが、結局“生まれ持った非凡”ってのはどういうものなんだよ」
「今から説明してやる。これも人によって、とはいえ俺が確認しているのは三人だけだが、バラバラの性質を持つんじゃないかと考えている。一番分かりやすい例は高原衣だろうな。あの求心力、人心掌握は究極と言ってもいい。そも、あそこまで学園が一人の男を支持するというのは、統計学的にも集団心理的にもおかしな話だ。俺はそれを“王”とした」
「次に、これはまだ判断は難しいところだが,紅桜だな。あの男の尋常ならざるパワーは、常軌を逸している。天才といえばそれまでだが、そこに俺は、何か別の力が働いているのではないかと考えた。ありとあらゆる事を壊すということに重きを置いた。だから俺はそれを“覇者”とした」
「最後に、君だ、赤井夢斗」
「……俺?」
さっきから説明を聞いていたが、まさか自分に回ってくるなんて想像もしていなかった。
「おそらくだが、一番厄介なものだと俺は思っている。どれだけの策を尽くしても、ひょいひょいと結果的に避けている。どんな危機にも仲間は助けに来るし、相手は手を抜くし、幸運なことが連発する。まさに、運命を操っているといっても過言じゃない。まさに反則だ。だからお前に、“主人公”って名をつけた」
「……で、それを俺に話して、何だってんだ。大体意味が分からないだろ。そんなもん、たまたまじゃないか。目に見えるもんでもないってのに」
訝しげな目をMr.バッドエンドに送る。
「いや、別に? 大体あくまでこれは仮説だ。とはいえ頭ごなしに否定できるものではないだろ。お前が気にするようなことでもない――――――――、が」
言葉を切って、Mr.バッドエンドはほくそ笑みながら言う。
「何故だろうな。俺はこの仮説が全く間違っていると思えない。もちろん、これから実験していくつもりだがな」
「実験!?」
ただでさえ不穏な単語。
それをMr.バッドエンドが言うのだ。警戒しないわけが無い。
「おいおい、殺気立つなよ。今日俺はお前に何かしようって気は無い。俺は今日、お前に、宣戦布告をしに来たのさ」
「俺が俺の持てる全力を行使して、使えるものは何でも利用して、お前をぶっ潰す。周りのモン全部巻き込んででも、な。仲間まで、こっちは用意してんだ。退屈なんでさせない」
この男が、周りを巻き込むということは。
間之崎学園の皆にも、手を出すって事か?
それだけじゃなく、廻家さんや、桜さん、他の一般の人にまで?
「分かったか?」
「今ここでお前を始末してやるってことならな!!」
赤井がMr.バッドエンドのいるところまで全力で駆ける。
だが、次の瞬間には赤井の目の前から消えていた。
「瞬間移動の才能を持ってないわけ無いだろ。全く、若いなぁ」
「他の人に迷惑かけたら、手前、骨も残さねぇぞ!!」
「威勢だけは一人前だな。そういうのは、実績が伴ってから――――――、いや、お前の場合は伴ってるのか、赤井夢斗。ともかくだ。俺はお前との戦いを通して、神になってみせる」
「……は?」
神?
何を口走ってるんだこいつ?
「ちょっと日本文化に毒されすぎてんじゃねえのか?」
「おいおい、二次元って文化はすごいものがあるだろ? 白黒から始まったものが、今やくっきりはっきりぬるぬる動いてるんだぜ? 人間の働きには感動を禁じえない。じゃなくて、さっきのは言葉通りの意味さ。まさに新世界の――――――、かどうかは分からんが、仮説から推測して実験すれば、分かることさ。神になる方法に、心当たりがある」
「頭までイカれたのか」
「……君は本当に物怖じしないね。普通なら俺の“支配圏”、要は俺の才能“支配”をオーラ上に一定空間に撒き散らすもの、を受けて腰を抜かすレベルなんだけど。面白いよ、敵対しがいがある。じゃあね、アディオス!!」
そこまで言って、Mr.バッドエンドは手を振りながら一瞬で消えてしまった。おそらく、瞬間移動を使ったのだろう。
「…………まさか、本当に」
悪夢だ。
あの男が帰ってきた。
しかもご丁寧に、他人まで使ってやると呪い言まで告げて。
崩野も、鏑木さんも。
翅村さんも、いない。
「俺が、何とかしないと……」
あんなやつの、好きにしてたまるか!!
やっと物語も半分を回ってきました。
ええ、半分です。
思い描いていたプロットの半分です。
おぉ、長い長い。