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Skills Cross ~Another Life~  作者: 敷儀式四季
間之スポ編
140/144

~Mr.バッドエンドの本領。~(3)

「心配しなくても、ここからは俺と君との気合の勝負だ。平等にしてやるから、俺と闘って勝って見せろ?」


 Mr.バッドエンドは右腕をナイフで刺したまま、何もおきていないかのように飄々と話し続ける。


 右腕からは刺さっているナイフにせき止められてはいるものの、どろどろと血が流れている。


 この男は一体何がしたいのだろう―――――――――――。


 そう思った矢先だった。


「――――――痛っ、い、いたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 急に千里は右腕を押さえて苦しみだした。


「あ、ああぁ!! ひ、ぎぃぃ!!」

 そのまま床を転がって悲鳴を叫び続ける。


 右腕からは血が滲み出しており、まるで何かに刺されたようだった。


「おいおい嬢ちゃん、どうしたんだ? 随分と痛そうじゃ、ねぇか!!」


 Mr.バッドエンドは思いっきり自分に突き刺さっていたナイフを引き抜くと、今度は自分の右足に突き刺した。


 その勢いで右腕からは血が噴き出す。


「い、ぎぃぃぃあああぁぁぁぁぁぁ!!!! なん、なんで、何でぇぇ!!」


 今度は右足を押さえて苦しみだした千里。


 右腕からはとめどなく血が流れ続けており、その傷は右足にも出来上がっていた。


 そうして数秒後。

 千里にとっては人生で一番長い激痛の嵐の中での数秒がすぎた後、右腕の感覚がふっとなくなっていることに気がついた。


「あ、あれ?」

 そう思っているうちに、右足の感覚もなくなってくる。


 その光景を見ていて、千里は絶句した。


「え、な、何これ!!」

 

 先ほど流れ出した自分の血液が、自分の足へと戻っていくのだ。


 親の元へ変えるように、ギュルギュルと逆再生のビデオを見るかのように。

 そして傷が跡形もなく消え去っていた。


 目の前のMr.バッドエンドを見ると、同じように刺し傷など最初から無かったようにすべて元通りになっていた。


 辺りは血で汚れたはずなのに、全て元の色を取り戻している。


「さーて、嬢ちゃんの体には今何が起きているんでしょーか?」


 分からない。


 分からない分からない何がどうなってさっきの痛みは本物でもいま傷は治ってそもそもなんで私が傷だらけになってというか血が戻るってなにあいつの幻覚なのこれは一体――――――――?


「分からないってのは、怖いよなぁ。未知ってのは、恐ろしいよなぁ」


「だからこそ俺達人間は、その未知に対応できるように今を生きているんだよなぁ」


「あぁ、そうだよ、その顔だよ。自分に何が起きてるのか分からない、ひょっとしたらもう取り返しのつかないことになっているんじゃないか、そういう顔。本当、長らく見てなかった気がするぜ」


 赤井夢斗。


 お前のせいで、この愉悦を味わえないんだよ。


「いい顔だ。もっと歪ませたくなる」


 

 Mr.バッドエンドが使いどころが無いと断じた才能、“痛み分け(罪と罰)”。


 その能力は、『自分と相手が全く同じ傷を負う』というもの。


 それはつまり、Mr.バッドエンド自体がダメージを必ず被らなければならないものであり、それはMr.バッドエンドにとって屈辱的なものだった。


 Mr.バッドエンドは本来、裏で人を操り、ありとあらゆる友情、愛情を引き裂いてきた。

 小さなひずみを作り出し、それを急速に広げていく。


 だが、今回に限っては別だった。


 赤井に屈辱を負わされたこと。


 “支配”の才能自体が弱体化していたこと。


 そしてこの才能に欠陥があったこと。


 それらによって、なりふり構わなくなっていた。




 活用することは簡単だった。


 Mr.バッドエンドには不老不死の才能があるため、全く同じ傷を負うという才能のために相手も勝手に体が再生するため、何度でも相手に傷を負わせ続けられ、精神を破壊するのにこれほど物理的で、これほど合理的なものも無いだろう。


 まさに、生き地獄。


 確かにMr.バッドエンドも同様のダメージを受けているが、今まで生きてきた年数、経験が桁違いなのである。

 そんな相手に精神で勝負を挑めるはずが無い。



 一時間後。


「じゃあ、その才能を俺に寄越せ」

「…………ぁい」


 目の焦点はあっておらず、ふらふらと体を揺らしながらMr.バッドエンドの声に答える。


 そして事切れたのか、少女はふっと倒れた。


「は、は、あはははははははははははははははははははははぁ!!! 戻った、戻ったぞ、俺の、才能スキルがぁ!!」


 一瞬で空間の重みが変わったように感じた。


 今までも邪悪な気は感じていたが、ここまでじゃない。


 鳥肌が立って心なしか手も震えている。


「師匠、アンタって本当にすげぇやつだったんだな!!」


 冷や汗が止まらない。


 畏怖、というよりも感動だ。


 この世に、ここまで邪悪な人間が存在するなんて。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「という訳だ。どうだ、俺の話は?」

「聞いてて胸糞悪くなったよ糞野郎」

「おいおい、俺のする話でほろりと泣けるような感動小話があると思ってんのか?」

「有り得ねえな」

 

 赤井は歯を食いしばり、怒りに堪えていた。


「君が怒ることは無いと思うんだけどね。いや、あるのかな? 君が余計なちょっかいをしなければ、彼女は俺に狙われることも無かっただろうからね。えーと、名前は何だったかな。珍しい名前だから覚えてたはずなんだけど。何たら薙何たらだった気がする」

「お前教える気ねぇだろ」


 一文字だけじゃねぇか。


「お前今年で600歳になる男に記憶力強要すんなよ。ったく、君は随分と俺につんけんした態度をとるんだねぇ。今日は穏便に、俺の知るある程度の小話を繰り広げてやろうと思ってたんだよ?」

「手前の話を聞く気は無い」

「そう言わずに、聞けよ。これは赤井夢斗に話さないと意味が無い」

「はぁ?」




「俺は、この世にある超能力ってのは、“才能”だけじゃないと思ってる」

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