~Mr.バッドエンドの本領。~(1)
そして、時間は今に戻る。
「いやいや、思い出せば思い出すほどむかつく話だなぁ。まさか俺が齢13の子に手玉に取られたんだから」
「手前、二人も殺しておいて……!!」
「そんなにショックなことだったのかい? ……あぁ、そういえば赤井夢斗、『残念だ』なんて口癖で言ってたみたいだけれど。あれは翅村への何かかい?」
「お前に何が分かる。そんなことより、どうしてお前、そんな風に元気でいられるんだよ」
赤井には、一番それが不思議でならなかった。
「それには深くも浅はかな話があってだな……」
「早く言えよ」
「深いのか浅いのかどっちやねんってツッコんで!!」
面食らったMr.バッドエンドは一度仕切りなおして言う。
「結構胸糞悪い話だぜ?」
「お前に関する話で心が洗われるような話なんて聞いたことが無い」
「全くだ。じゃあ簡潔に話そう。まず、俺はあの後も生きていたってのは分かるよな?」
「じゃなけりゃいないだろうしな。崩野と鏑木さんもそれで旅に出たわけだし」
「あの時、赤井君の“才能帰却”にも耐えて残った才能ってのがあってね。一つはもちろん不老不死性をもつ才能、“原点回帰”。もう一つは使いどころなんてほとんど無い“痛み分け”って才能。最後は弱体化に弱体化を重ねた“支配”さ」
「次に、“還らぬ修復”という才能を知っているか?」
「知ってるわけ無いだろ」
「これは何であれ壊れたものをある一定の水準まで元に戻すという才能だ。完全でこそ無いが、使用し、活用できる程度にはな。そういう才能があることを覚えとけ。ところで、都市伝説“悪魔の誘拐”って知っているかい?」
「何だそりゃ、おちょくってるのか?」
「随分喧嘩腰だなぁ。とにかく三年前にこの“都市”において連続誘拐事件が起きていた。それを利用させてもらったのさ」
「利用? どういう意味だ?」
Mr.バッドエンドの言っている意味が分からない。
「そりゃもちろん全盛期なら誘拐ぐらい簡単なものさ。でも君にボロボロにされた才能のせいでそんなことは不可能になった。だからこその利用さ。都市伝説なんていっているが、この手の噂ってのは事実に基づいて尾ひれがついたものが多いからな。誘拐事件そのものは発生していると見てたし、そういう奴が潜んでいそうなところも見当はついた」
「伊達にウン百年も生きてねえわけか、老獪」
「褒め言葉にしといてやるよ。ともかく、その後の話だ。三年前に遡る」
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三年前、都市某所。
「“悪魔の誘拐”って知ってる?」
「えー、何それー?」
「何か金曜日の午前零時きっかりにある場所にいると影に飲み込まれたようにいなくなっちゃうらしいよ」
「まっさかー」
「だよねー」
目の前で女子高生たちが話している。
「……使えるな、それ」
Mr.バッドエンドはその様子を見ながら、あることを考えていた。
先日ある学校に潜入したとき、面白いものを発見していたのだ。
何でも直すことの出来る才能、“還らぬ修復”というものがあるということを。
それを持っている生徒の名前も覚えた。
「探すか」
誘拐犯を、いやむしろこれは愉快犯だろうな。
「ここを巡っている間にある程度の目星はついているからな。ちゃっちゃと回るか」
都会の闇とも呼べるようなところを回っていて、三つ目のところだった。
「……ここだな」
それは長年の勘であり、確信。
そしてその入り口を発見した。
注視しなければ気づけないような、周りとは違う黒く丸い影がある。
「入ってみるか」
Mr.バッドエンドはその黒く丸い影に飛び込んだ。
そうして辿り着いた場所は、ある少し大きめなホテルの部屋のような場所だった。
ざっと見ておかしなところといえば、窓という窓に木が打ちつけられており、床や壁には亀裂が走っている部分。
そこで聞こえたのは。
「お願い、家に帰してよぉ!!」
「ハハハッ、何言ってんだこの小娘。手前はここでそこにいる人形みたいにくたばるだけだっての!! ヒィハハハァ!!!」
なんというか、俺が言うのもなんだが。
「いかにもすぎるだろうがよぉ」
「誰だ!!」
思わず呟いた声で姿がばれた。
「……流石にちょっと驚きすぎた。思わず声が出ちまったぜ」
「手前、どうしてここが……!! ぶっ殺してやる!!」
男はナイフを振り回しながら顔を真っ赤にして襲い掛かってくる。
「はぁ……、もう少し時間と力がありゃ俺みたいになれたかもな。一つ言っといてやる」
「ごちゃごちゃうっせぇ!!」
「ただの悪党が、害悪で最悪の俺に勝てるわけ無いだろ。わきまえろ」
男がナイフを突き出したが、Mr.バッドエンドは自らナイフに向かって右手を突き出し、わざと刺された。
「あぁ?」
男は逆上したのも忘れて一瞬あっけに取られる。
その隙を縫って、男の頭を左手で鷲づかみ地面に叩きつけて、組み伏した。
「が、あぁ?」
男は未だに自分の状況が理解できないようだ。
Mr.バッドエンドは深々と突き刺さっているナイフを男からもぎ取って遠くへ投げる。
「おいおい、何だよこれ、どういうこと、なんだよ? 俺が、負けてる、だと?」
「見てろ」
Mr.バッドエンドは血をだらだらと流している右手を男の目の前に掲げる。
「何をやって……、って、そりゃいったい何が? どういうことだよ!?」
すると、ゆっくりと流れ出た血が逆流し始め、体に戻っていく。
そして十秒くらい経った頃には全て治っていた。
「三流の悪党なら悪党らしく、自分が地面に叩きつけられ汚泥塗れになることを覚悟しとけ」
俺もこのことを矜持としていながら、あの時赤井に負けて激昂したんだがな。
「も、もしかして、私を助けに来てくれたんですか!?」
先ほど捕まっていた女子高生が、希望の声を上げる。
「ハハハハッ、何言ってんだお嬢ちゃん。お前はそこで見てろよ」
Mr.バッドエンドは最高に邪悪な笑みを男と女子高生に惜しげなく振り撒き散らし。
「最悪の絶望の与え方ってのは、こうやるんだよ。俺が今から見せてやる」
約二十日ぶりですね。
このけいどろ大会編(もはやけいどろはどこにいったのか)が終了して、Skills Cross~Another Life~が完結するわけなんですが。
その続きでもあり、すべての真相が明かされるSkills Cross~After Story~はしばらく作れそうもありません。
具体的には一年半弱ほど、おそらくPCに触れないかと。
詳しくは活動報告をご覧ください。
作者の事情でこうなってしまったこと、この小説を待っている皆さんに本当に申し訳なく思っています。
でも、必ず帰って来ます!!
ということを、先に言っておきます。