~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(34)~
文章は長めですが、過去編は完結です!!
「え、どうして!?」
「……何!?」
赤井とMr.バッドエンドが同時にそれに驚愕する。
赤井には傷一つ付いていない。
代わりに、その銃弾を受けた男がいた。
「俺は、何より、早いに決まってんだろ……」
「翅村さん!!」
その銃弾は、一瞬で目の前に現れた翅村の体の中に埋まっていた。
それは心臓の位置に直撃しており、とめどなく血が流れ続けている。
「な、んで、翅村さんが!!」
「翅村!!」
崩野も翅村さんに駆け寄った。
「民間、人に、危害は、出せねえよ……。残念、だぜ、アイツの最期を、見れねえ、ことが……」
「翅村、さん……」
「崩野、悪かったな、手前が、あんなことをできるとは、思えなかったが……」
「もういい、喋るな!! お前が俺を信じてくれていたのは分かっていた!!」
見る見るうちに、翅村の顔が青ざめていく。
「貴方のしたことは、とても、素晴らしいことだわ。貴方がいなければ、赤井君は死んでいた。名誉よ、誇りなさい」
鏑木さんもいつの間にか翅村さんのところへ来ていた。
「魔女に褒められる、なんて、光栄だ」
翅村さんは、ゆっくりと拳を天へと掲げていく。
「残念、だぜ。まったく、残念だ」
「残念、だな。心配するな、お前の後ろに、Mr.バッドエンドを連れて行ってやる」
その拳に、ゆっくりと崩野が拳をあわせた。
「残念ですよ、本当に!!」
赤井はボロボロと涙をこぼして翅村さんの拳に拳を合わせた。
「よく頑張ったわね、今は眠りなさい」
最期はその拳を鏑木が両手で包み込んだ。
その様子を見ていた、Mr.バッドエンドは。
「は、はは」
どういうことだ?
「ははは、ははっ」
余りの驚愕に。
「はははははっはははっはははっはっはっははははははなんだよそりゃあ!!」
笑い声を上げながら激昂していた。
「有り得ねえ、なんで、なんで俺がたかが民間人一人殺すことが出来ないんだよ!! どうしてだ!? 意味分かんねぇ!!」
「意味分からんのはそっちだ、この腐れ外道」
その雄叫びに崩野が静かに、それでいて全員に聞こえる低い声で呟いた。
「さっさと、死ね」
瞬間、バンと破裂音が響き崩野が瞬間的に加速する。
「今までで一番早いが、それでも俺は捕らえられないぜ?」
一直線にMr.バッドエンドまで飛んでいくが、瞬間移動によって避けられてしまう。
「だろうな、分かってるよ。だから――――――」
今度は連続的にバババババンと破裂音が響く。
「多段加速だ」
「それでも、瞬間移動をもってんだよ? 無理に決まってるだろ」
Mr.バッドエンドは空中のあらゆる場所に現れ、また消える。
「いや、詰みだ」
「あ―――――――――――」
そこから先の言葉が紡がれることは無かった。
「やろうと思えば、出来るもんなんだな。とはいえ、もう二度とこんな超絶技術出来る気はしねぇ」
Mr.バッドエンドは目を血走らせ、首元を押さえてもがき苦しんでいる。
俺と鏑木さんは、一体何が起きたのか分からなかった。
「俺も驚いた、酸素だけを圧縮できるなんてな。もう二度と出来る気もしないが」
崩野はMr.バッドエンドが瞬間移動するであろう空間の酸素をあらかじめ圧縮しておいた。
まんまとそこに瞬間移動したMr.バッドエンドは息が出来なくなったのだ。
「詰みだよ、お前」
そして思考能力の落ちたMr.バッドエンドに崩野は一気に近づいた。
その手には何かを握っており、Mr.バッドエンドの右腕に力任せに突き刺し、圧縮空気を破裂させて地面に叩きつけた。
「が、はぁ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ようやく呼吸を許され、犬のように息を始めたMr.バッドエンド。
だが、異変はすぐに訪れた。
「――――ぎぃっ!! う、ぐぅぅぅぅぁぁぁあぁっぁぁぁぁああああああああぁぁぁあああ!!!!」
Mr.バッドエンドは、崩野に何かを刺された右腕を押さえて、血管を浮かび上がらせて絶叫した。
「が、あぁぁぁぁあぁぁぁああああぁあ!!!! 抜ける、俺の全てが、消えうせ!? 何が、何を、何をっ……!! 何をしたぁぁぁァァァァ!!!! 崩野、響輔ぇぇぇぇぇェェェ!!!!」
その地獄の底から、いやそれよりも深く聞く者を狂わせる絶叫はビル中に広がる。
「俺が打ち込んだのは、赤井君の血液さ」
「え、俺の?」
崩野はなんてこと無いことかのように呟く。
「赤井君の血液にも才能を消す能力が確認されたからな。君とこのビルであったときに、色々調べてたのは覚えてるだろ? あの頃は魔弾を持った翅村と共闘するなんて思ってもいなかったからな」
「あれだけ苦しんでるって事は、血液型も違うみたいだな。拒絶反応だろ。それでも喋れているのは、血液だと赤井君の“才能帰却”の効力が薄いのか、Mr.バッドエンドの才能の保持量が多いのか、お前のその不老不死の力がせめぎあっているからなのかのどれかだろうが、死ぬことにかわりは無い」
虫けらでも見るかのような冷たい瞳で、崩野はMr.バッドエンドを見下ろしていた。
「て、めぇぇぇぇぇええぇぇぇ!!!! よくも、よくもぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
体を不規則にガクガクと痙攣させながら、Mr.バッドエンドは左手を剣状に変えた。
その剣となっている部分はひび割れボロボロになっていたが、それをなりふり構わず自分の右腕に振り下ろした。
「ぐ、ぅぅぅぅぅ!!」
「一体、何を……?」
斬られた右腕からは血が噴水のように噴き出していて、ただの自殺行為にしか見えなかった。
そしてふらふらとどこかへ歩いていく。
「………………まさか!!」
崩野がそれに気づいたのは、少し遅すぎた。
向かっていたのは、先ほど崩野が“エアブラスト”を撃ち、大穴を開けた所。
そしてMr.バッドエンドは一瞬だけこちらを見て、これまで見た中で最悪の歪んだ笑顔を見せると、そのまま大穴へとダイブした。
「待て!!」
崩野が急いで追い駆けるが、大穴の外、着地地点と思われるような場所にはもう誰もいなかった。
「……死んだ、か? いや、あれくらいの怪我じゃあ……。死体を確認できないのは、残念だ……」
崩野がとぼとぼと歩いて戻ってきた。
「どうなったの、かしら?」
「多分Mr.バッドエンドは死んだと思うぜ。才能を失えばそれだけで死ねる年齢なんだからな。とはいえ――――――」
そこで言葉を渋った。
その次を繋いだのは、鏑木さんだった。
「死んでいないかもしれない。というかそっちの方がありそうね。殺そうとしても死にそうに無い男だから」
「そ、そんな!?」
あれだけ犠牲を出したのに……。
「気にするなよ、赤井君」
俯いた俺の頭に手を載せて、崩野は言った。
「君は普通の生活に戻るといい。俺達はこれから、もしかしたら生きているかもしれないMr.バッドエンドを探しだす」
「何勝手に私を入れてるのよ。まぁいいけどね。することもなし、居場所もなし、それでも時間だけが恒久的に無限だから。貴方が地に伏してくたばるまで付き合ってあげるわ」
「おいおい、サクセスストーリーの間違いだろうが」
その会話を聞いていて。
俺は。
何だか二人が遠くなるように感じて。
「ちょ、ちょっと待ってよ!! 俺も―――――――――」
「来るな」
「来ないほうがいい」
即答された。
「な、何で!!」
「君には未来があるんだよ。赤井君のスキルは気になるところがあったけれど、関わりあわない方がいい」
「そう。深く暗い世界の暗部に足を踏み入れれば、二度と戻ってこられないわ。私達はそれを見てきた」
「で、でも、俺は二人と一緒に!!」
「そこまで、俺は堅気の人間に気に入られたのか。光栄だよ」
「ええ。私もあなたのことを気に入っていたのに、残念だわ」
「親の元へと帰るんだ、赤井君。幸せに暮らせよ? 翅村は、俺が連れて行っておく」
崩野は翅村さんに合掌した後、ゆっくりと抱えあげた。
「心配しなくても、ひと夏の思い出というやつよ。学生時代にはつき物でしょ? これも淡い夢へと消してしまいなさい」
鏑木さんはサッと俺の目の前に近づくと。
俺の頬にそっと口づけた。
「大人になりなさい。そうなったなら、もう一度会いに行ってあげるかもよ?」
顔中が赤くなった。
まだ頬には感触が残っている。
「それじゃあ、お別れだ」
「楽しかったわよー!!」
そう言い残して、鏑木さんと崩野はビルから飛び出して去って行った。
残ったのは、何も無い静けさだけだった。
次回からはまた時間軸がけいどろ大会に戻りますよー!!
思えば四ヶ月前か……。