~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(32)~
鏑木絹がここに来てから、Mr.バッドエンドは考えていた。
ここ最近、ずっと違和感を感じていた。頭の片隅に何か引っかかる、という風な小さな感覚だったが。
何かに邪魔をされているような。
いつも他人の人生を、選択肢を、運命でさえ、操れていたはずなのに。
それを最初に抱いたのは、鏑木の心を“支配”しようと画策していたとき。
(あの目、誰かを信じているような目だった)
信じるものがある人間というのは、人心支配という点において非常に厄介だ。
支配とは、その人間の主人だと深層心理の部分から刷り込むこと。
信じるものが無ければ、深層心理の部分に何もおらず、そこに入り込むだけで完成する。
だが信じるものがあるということは、深層心理の部分に既に主人、それに足る何かが置いてあるという事だ。
それを追い出すという作業が必要な分、厄介なのだ。
(俺はてっきり、崩野のことかと思っていたが)
崩野はこの中で一番戦闘力を持っているだろう。
だからこそ、助けに来てくれると信じていたのではないか、と俺は思っていた。
(俺の策が失敗したのは、どこだ? 誰が傍に居た!?)
(まさか、まさかとは思うが)
翅村の部下は惨殺できた。
崩野には過去の事件でも、そして今でもアイツの鼻を明かすことが出来ていたはずだ。俺が鏑木を攫ってきていたときは、上手くあしらえたしな。
では、赤井君は?
確かに翅村の部下を惨殺した罪を擦り付けることは出来た。
しかしその濡れ衣は合流した翅村によって晴らされた。
だったら、どうして翅村が合流できた?
鏑木を囮にして尾行していたとき、崩野だけだったなら翅村に見つかっていただろうか?
それよりもっと前だ。俺が赤井君に見せかけて翅村の部下を惨殺したとき。
あれが無ければ翅村は赤井君という接点を持たなかった。
いや、まだ足りない。
そもそも鏑木が赤井君と出会ったという事。それが原点だ。
出会わなければ?
出会わなければ、翅村が赤井君を認識することも無く、翅村と崩野が手を組むなんて事は有り得なかったはずだ。
崩野は、俺が不老不死であるということに気づいても、俺を倒す手段が無くなる。翅村の魔弾を手に入れられないんだから。赤井君の“才能帰却”も手に入れられない。
いくら崩れているとはいえ、崩野の精神を完膚なきまでに破壊することなんて、簡単じゃなかったのか?
この状況を生み出しているのは?
赤井、夢斗……?
あの男が、あのただの少年が、運命を捻じ曲げている?
kljav;jkjg;kjviokhv;ijpjraihrvaorjhv@aojvrjpjgp:akfjvbp:jafkbvp:j:apfkjvb:apfjv:pajfv:j。
そこまで至ったとき、脳をかき回すような頭痛とテレビの砂嵐のようなノイズが走った。
「ああああぁぁぁぁ、むしゃくしゃする!! 意味が分かんねぇ!! 俺は一体何を考えてんだ!? 俺はMr.バッドエンド、最悪の存在ぃ!! 誰にも倒すことも出来ない災害の一つ!! それ以外の何者でもないはずなんだよぉぉ!!」
頭を両手で押さえて縦横無尽に振りながら、鬼気迫ったような表情でMr.バッドエンドは赤井を睨みつけた。
その狂乱めいたさけびは、この空間の支配権を取り戻すには十分だった。
「何か手前みてると頭の中をぐちゃぐちゃにされる感じがするんだよ!! 気持ち悪いんだよ!! 運命を捻じ曲げるのは、他人の人生を滅茶苦茶にするのは俺だけで十分なんだよ!! 何勝手に俺の領域に入ってきてんだ糞野郎!!」
そして。
「手前だけは、今ここで、殺しとかなきゃな」
その目に浮かんでいたのは、愉悦でも狂気でもなく。
「赤井夢斗」
人外、気持ち悪いものでも見たかのような忌避の色だった。