~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(31)~
『鏑木!?』
その言葉に三人ともが反応する。
「あぁ、口が滑った。もういい、畜生。そうだよ、鏑木は今だ俺に“支配”されずにいる。だから、お前らの心をへし折ってから、アイツに絶望させてやろうと思った」
「でもお前、鏑木さんから俺の才能を聞いたって」
「あれ? あれは崩野たちの会話を盗聴して分かっただけだ。見てみるまで信じられなかったがな」
「まったく、裏でそんなことやっていたの? 相変わらず趣味が悪いわね」
全員がMr.バッドエンドの方を向いていて、最後に聞こえてきた声に反応が一瞬反応が遅れるが。
「って、え!?」
「かぶ、らぎ!?」
「捕まっていたのでは!?」
「何でお前が、ここに!?」
四人ともその声が聞こえてくるということに、衝撃を隠しきれない。
「あらあら、そんなに驚くことは無いんじゃない?」
階段の傍。
そこには。
鏑木絹が立っていた。
俺達が見ていた姿とは違う。
人を、男を惑わす魔女。
Mr.バッドエンドにとらわれたせいであろうか、ボロボロの布一枚を巻いたような出で立ちであるにもかかわらず、それですら美しく気高く見えてしまう不思議。
本能に直接アクセスしてくるような恐ろしい魔性の美しさがそこにあった。
「何故だ!? ロープで縛ってはり付けておいたはずだ!! 女の力であれが解けるとは思えない!!」
有り得ないものを見た、といった風な顔をしてMr.バッドエンドが問いかける。
「貴方、私の才能忘れてるでしょ。“全年齢対象”、肉体の年齢を変えることが出来る。肉体の年齢を変えられるってことは、体の大きさを変えられるのよ? 縛られた状態でも、体の年齢を落として六歳くらいにすれば、縄を抜けることくらい楽勝よ。私に気を使って、手荒な真似をしなかったこと、それと本拠地をこの周辺に構えたことが貴方のミスね。それでも、歩いてくるのは結構骨だったけど」
フフフ、と妖艶に口元に手を当てて笑う。
「それが、お前の本当の姿か?」
崩野もおそるおそるといった様子で話しかける。
「本当の姿って訳じゃないわよ。私にもこういう年代があったという話。真剣な戦いしているんでしょ? だったら私も、観客として相応しい姿になろうと思っただけ。私は何もする気は無い。事の顛末を見届けようと思っただけ」
全員が驚くのも無理は無い。
誰も鏑木のこんな姿を見たことが無かったのだ。
今まで鏑木が見せていたのは中から高校生くらいの年代のみであり、そのため可愛くは見えても人をかどわかすといった印象は持てなかった。
“時騙しの魔女”、その異名が今なら理解できる。
魔女だ。
時を忘れて見入ってしまう。
「そんなに私が綺麗だったかしら? 赤井君、顔がだらしなくなってるわよ?」
「ふえっ!? そ、そうですか!?」
話しかけられただけでどぎまぎする。
「落ち着いて戦えば、きっと勝てるはずよ。気持ちを引き締めなさい」
今完全にこの空間は、鏑木に掌握されていた。