~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(28)~
Mr.バッドエンドがその声の方向へ振り返る。
「あぁ、翅村? よくここまで来れたな、治ったのか?」
翅村が、大穴のふちのとこで立っている。
さっきまで誰も居なかった空間に、いきなり。
「瞬間移動かい? もうそんなに回復できるとは、対したもんだ」
パチパチ、とゆっくり手を鳴らすMr.バッドエンド。
「俺のことはどうでもいい。そんなことより、今ので状況はあらかた掴めたぞ。残念なことにな」
翅村の顔は、よく見えなかった。
「お前、二人を騙してるだろ?」
「騙すのなんて日常茶飯事だが?」
「お前にとって、残念な事実が浮かび上がったんだぜ、こっちは」
翅村が、ゆっくりとこっちに振り返った。
「鏑木絹は、生きている!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
十分程前、二階。
「これは、誰だ?」
瓦礫から人を発見したが、その顔は何かの衝撃でぐしゃぐしゃにつぶれていて誰だか分からない状況だった。
その上体はありとあらゆるところに穴が開いており、見ただけで死体だと判断できた。
「…………。よし」
数秒両手を合わせて冥福を祈り、身元の確認を始める。
こんなところに一般人がいるとは思えなかったからだ。
「しかし、酷い状態だな……。いくら荒事専門の部署だからなれているとはいえ。ただ瓦礫に潰されたわけでもないだろうし」
その女性を調べている間、翅村には何か頭の中で引っかかっているものがあった。
会った事があるとか、ではない。(というかこんな状況では気づけない)
でも、何か。
既知感?
そしてその既知感の正体に、翅村が気づく。
「これは、ペンダントか?」
中が開くようになっており、懐中時計のようだ。
ペンダント自体には身分を示すものなどもちろん無い。
しかし。
「まさか、嵯峨小百合?」
翅村は両手を広げ、女性の身長を測り始めた。
「やはり……。でもなんで、行方不明の女が?」
それは一週間ほど前。
「翅村さん、なんかこの辺で行方不明になった女性の話が上がってるんですけど」
男がパソコンに向かいながら淡々と話しかけてきた。
この男は俺の同僚で、特化刑務所から来ている上本という変人だ。
今まで俺はこの男がパソコンの前から離れたところを見たことが無い。
ちなみにこの男にはMr.バッドエンドの件については話しており、数少ない事情をしる人物の一人だ。
「そんな話どうでもいいだろ。家出かなんかじゃないのか?」
「捜索願を家族の方から出してきてるんだぜ? 近所の人からの話じゃ仲のいい家族だったそうだし、その女も別に思いつめたような顔とかして無かったってさ」
「いずれにせよ、今は行方不明なんざどうでもいいんだよ。ひょっこり帰って来るんじゃないのか?」
一週間後にはMr.バッドエンドと戦うんだぞ。
「そうやって焦る気持ちも分かりますがね。お前の話だとMr.バッドエンドって奴、軽犯罪でも重犯罪でもわけ隔てなく行う素晴らしい外道じゃないか。だったら、こういうのもからみがあるのかもしれないぜ?」
「いや、たまだまじゃないのか?」
「ま、情報ぐらい聞いとけ。その嵯峨小百合っていう人な、身長は160cmくらいで長い黒髪のストレート、胸に懐中時計のペンダントつけてるらしい。二日前から連絡とれず行方知れず、だってよ」
「はぁん」
上本の話がこんなところで役に立つとは思わなかった。特徴が似ている。こんな所に来ている事からも、可能性は高いだろう。
しかし謎は残る。どうしてこんなところにいるんだ?
その時上から声が聞こえてきた。
「滑稽なものだな。お前ら、守りたいものも守れず、その命を無駄に散らすだけだぜ? 鏑木のように、変に関わっちまうからあんな風になっちまうのさ」
「何よりも鏑木がかわいそうだなぁ。お前らのせいで、俺に惨たらしく精神的苦痛を味わされた上に殺され、いまや見る影も無く瓦礫の下に埋もれてるんだからなぁ」
それはMr.バッドエンドの声。
(鏑木絹が死んだ? 瓦礫の下に埋もれている?)
どうみたって瓦礫とはこれだ。
俺が助け出したこの女性は、行方不明の嵯峨小百合ではあっても、鏑木ではないだろう。
こんなペンダントなんて持っていない、というか特化刑務所時代から持つことを禁じられてるからな。
だとすれば――――――――――――。
そこで全てに気づき、急いで伝えなければと思って瞬間移動を行い三階へと向かった。
ここから先は、調子に乗って文字数が3500越えしてたので分けたやつになってます。