~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(22)~
「何で、知ってやがる」
翅村は不快そうに言う。
「それくらい分からないわけないだろ。日本って国は本当に変な才能ばっかり生み出しやがる。さっきの”自爆上等”だってそうだがな。“早い者勝ち”、『場にいる人間の中で一番早い速度を持つものの一段上を行く』、だったっけ」
「そうだよ。わざわざ説明どうも。そしてそいつが、お前を倒す才能の名だがな」
「全くだよ。今この場の最速は俺の瞬間移動。それより早いなんて事が有り得るのか?」
「あぁ。俺は今お前が一回瞬間移動する速度で二回瞬間移動できる」
これを、狙っていたのだ。
Mr.バッドエンドの攻撃を崩野が防御し、目をくらませて。
Mr.バッドエンドの移動を翅村が対処し、追いすがって。
「そして、バァン、だ。残念だろ?」
「そう簡単にいくと思っているのか? 瞬間移動ってのはただの加速じゃないんだぜ」
言葉が終わると同時に、見えない戦いが始まった。
Mr.バッドエンドが空中に瞬間移動するのを見て、翅村もほぼ同時にその地点へと瞬間移動した。
だがその瞬間にはMr.バッドエンドはおらず、他のところへと瞬間移動している。
そこからは、崩野の目では追いきれないほどの移動速度だった。
確かに性能、速度上では翅村の方が速いのだが、それを何十年、何百年ものMr.バッドエンドの経験がそれを埋めている。
むしろ、Mr.バッドエンドの方がもてあそんでいるようだ。
瞬間移動は、自分のいる座標から飛ぶ予定の座標の位置を演算し、その場所へ飛ぶ。
単純にするなら、あそこに行きたい、と考えて自分のいる位置と飛びたい場所への位置関係を把握して飛ぶのだ。
その演算を翅村は目を使って行っているのだが、Mr.バッドエンドの飛ぶ位置というのが、翅村の死角になるような場所ばかりなのだ。
もちろん瞬間移動後にMr.バッドエンドの姿が見えないとなると、首を振って探すわけだが、それにタイムラグが掛かるのだ。
結果、翅村はチャンスをつかめずにいた。
その上、翅村は元々は瞬間移動才能者ではないので、瞬間移動に慣れていない。
移動座標にもムラがあるところも、追いつけない一因だろう。
かといって、崩野はその戦いに手を出せない。
下手に攻撃して翅村に当たってしまう可能性が高かったからだ。
しばらくはどちらも決定打に欠け、そういうぎりぎりの部分でつりあっていた。
だが、そのバランスは急に崩れることとなった。
ドォン、と大きな音を立てて、何かが壁にぶつかった音だった。
「っつ、しくじった……」
壁に当たったそれはゆっくりと地面に落ちる。
「おい、どうしたんだよ。翅村」
いきなり壁に直撃した翅村は、頭を横に振りながら座り込んでいた。
「いや、ちょっとジャンプに失敗しただ……、け?」
翅村が立ち上がろうとすると、足元がふらついて倒れこんだ。
「ん? どうしたんだよ?」
思わず崩野も不思議そうに聞く。
「何か変な感じで、立てねえ」
体がふらついて地面がぐにゃぐにゃ動くような感覚だ。
それに体が重い。
何を、された?