~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(20)~
「という訳だ」
崩野さんから事情を聞いて、俺と翅村さんは一度建設途中のビル、本拠地まで戻っていた。
「それは、不味いな。お前の話を聞いて考えたが、何より痛いのは“時騙しの魔女”が人質に取られちまったところだな」
翅村さんが苦い顔をして俺達に言う。
「とりあえず赤井君、私が間違っていたことを謝っておく。君の疑いの件については私が何とかしておこう。お前達はいつもここにいるのだろう? 私は一度本部に戻っておく」
「おいおい、赤井君に対してはそんだけかよ」
からかうように崩野が言う。
「言っておくが、完全に疑いが晴れたわけではない。私一個人として、お前は違うと思っただけだからな」
その言葉にだが、と付け足して。
翅村さんは土下座した。
「え、えぇ!?」
額を地面に付けた本物の大人の土下座。
「ちょ、頭上げてくださいって!!」
その言葉で、ようやく翅村さんは頭を上げた。
「本当に、すまなかった」
翅村さんは俺にそう言って謝ると、ビルを出て行った。
「まったく、変な奴だろ?」
出て行った後で、崩野が話しかけた。
「アイツなりに、取り返しのつかないことをしたのを悔いてはいるんだ」
「いや、それは分かりましたけど……」
あそこまでされるとこっちが困る。
「そんなことより、お前にはやってもらうことがあるぞ」
「なんの、ことだ?」
言っている意味がよく分からないが。
「一ヵ月後、おそらくここは酷い戦場になるだろう。それには君の協力も必要になる。自分の身は自分で守れ。さぁ、時間は無いぞ。お前を一ヶ月で鍛え上げる!!」
「え、ええええぇぇぇぇぇ!!」
そして、無理やり特訓させられることになった。
「敵の攻撃をよく見ろ!! 自分の回避不可能な間合いに入るまでは逃げようとするな!! 速度と攻撃力を瞬時に感じて、どのタイミングで避けるか把握しろ!!」
「崩野も、あれだけ捕まっててよくそんなに体技が出来るもんだな」
翅村さんは大抵こちらの様子を見ながら何か考えごとをしているようだった。
「あ? そりゃお前暇だったからな。筋トレとイメトレしてた」
「それだけでなんで動けるんだよ」
はぁ、と溜息をつく翅村さん。
この二人、案外仲の良いようだ。
「よそ見してる暇は無いぜ!! ほら、じゃんじゃん避けろ!! そんな攻撃上半身だけで避けられるだろうが!!」
「無茶言うな!!」
そうして、Mr.バッドエンドを倒す策を練って。
倒せるだけの実力を付けて。
一ヶ月が経った。
そして、奴が現れた。
「お前ら、部屋の隅で泣いて叫んで絶望する準備はOK!?」
何で日本の漫画の名ゼリフに詳しいんだよ。