~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(13)~
「“才能帰却”? 聞いたことも無い名ね」
鏑木さんは見慣れない単語に首をかしげていた。
「よく分かりませんけど、俺に才能なんてありませんって!!」
ずっと生まれてからこの方、普通に過ごしてきた。
もちろん、自分の分ぐらいわきまえている。
「いや、君のその触れられたときの感じからしてまず間違いない。君の才能は、触れたものの才能を消すという才能だ。無効化、使用不可にする」
崩野はいたって真面目に言っている、嘘のつもりも無い。
「どうしてそんなことを言い切れるのかしら? さっきも言ったけれど、そんな才能この人生で聞いたことが無いわ」
鏑木さんが言うと人生という言葉が重い。
「俺も普通なら信じることも出来ないだろうが、親友――――――向こうは俺のことを心底憎んでるんだろうが、その男の才能もそうなんだよ」
昔を思い返しているのだろうか、崩野の声のトーンが少し落ちる。
「でだ。君のその“才能帰却”はどこまで通じるものなのか。色々調べさせてもらう」
崩野はそう言って、右手で赤井の肩に触れる。
「うん、やっぱり使えない」
そして左手を空へ向けているようだが、何も起こらない。
ただ、いまいち才能を使っている感覚が無い。
「じゃ、次は――――――」
数時間後。
崩野から今日はもう遅いから寝ろ、といわれて即席で作っていたベッドのようなコンクリート塊にシーツをつけたものに横になる。
崩野のいたところからはまだ光が漏れており、俺の才能のことについて考えているんだろう。
とりあえず今日はさっさと寝よう。
「よくもま、あんだけのことがあって寝てられるわね?」
「いくら疲れていたとはいえ、落ち着きすぎなのよね」
「自分で思ってるところよりもっと深いところでは、自覚していないだけ? そうじゃないでしょう? 流石に理解せざるを得ないはず」
「まさかこんな程度、問題じゃないとでも思っているつもりではないでしょうね? ――――ただ、あの感じは普通の人間とは違う。致命的な、何かが」
「とても中一の器とは思えない」
「すっごく、気に入ったわ」
鏑木は寝ている赤井の頬に唇をほんの少しつけた。
ただその瞬間、一気に鏑木の髪が白髪へ戻る。
「か、老けたぁ!!」
ぜいぜいと息も絶え絶えに呼吸しながら、高校生の姿に戻っていった。