~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(12)~
「るー……る?」
それだけ聞いたのではよく分からない。
「面白い名前ね、“支配”なんて。一体どんな才能なのかしら」
鏑木さんは少し状況を楽しむような口ぶりだ。
流石魔女。
「面白がってる場合じゃない。俺も友達のつてとあの男から聞いた話でようやく判明した才能だ。それだけ知られていなかった才能。どんなものかと思って聞いたんだがな……。えぐいなんてもんじゃなかった」
すこし拳が震えながら、崩野がゆっくりと言う。
「名前から想像出来る通り、その才能は相手を支配することが出来る。心の底からな」
「……精神系の才能? その程度ならいないことは無いでしょう? 話に聞いたところじゃ、無条件で男女問わず魅了して恋させるなんて才能もあるらしいし。それに比べたら……」
「そこで終わればな」
鏑木さんの言葉を崩野が途中で止める。
「支配するモノに関しては、無条件だ。そして、才能を持った相手を完全に支配したとき――――――」
「その相手の才能すらも掌握し、支配し、自らのものとできる。つまりあの男、Mr.バッドエンドは相手の才能を奪うことが出来るということだ」
「は……、それ、本気で言ってるの……?」
鏑木さんから血の気が引く。
俺も才能のことは詳しくないけれど、それが異常だってことはわかる。
才能を、奪うことが出来る?
才能って、超能力の一種なんだろ?
そういうのって、奪う奪われるとかじゃないだろ?
一体何なんだよ、才能って。
「奴が今どれほどの才能を保持しているかはわからないが、百はくだらない」
「だからこそ最悪なのさ。さらに支配された者に自分が奪った才能を移す事まで出来る。支配した相手はMr.バッドエンドの言う事を何でも聞くわけだから、最強の軍隊だって作れる」
おそらく、とその先に付け足す。
「今回奴が動いた理由は、お前にあるだろう。鏑木絹」
「私?」
首をかしげて鏑木さんが聞く。
「お前の才能、“全年齢対象”はキング・オブ・レアだからな。奪うには輝いて見えるだろうよ」
その言葉を聞いて、鏑木さんは崩野のところへ歩いていく。
「アンタまさか、そのために私をあそこから出したわけ?」
いつ掴みかかってもおかしくないような怒気が、鏑木さんから滲み出ていた。
「すまない」
崩野は本当に申し訳なさそうに謝った。
「それですむなら――――」
鏑木さんが右手を振り上げる。
「だが、俺はあの男に復讐するためならどんな手だって使うつもりだ」
振り上げられた右手は、崩野の気迫で止められた。
「それに鏑木、お前も俺から離れれば困ることになるぞ? 俺ならある程度の攻撃は防げるが、お前一人ではすぐに身も心も支配されて終わりだとは、思うがな」
鏑木さんは右手を下ろして、フフッと笑った。
「復讐なんてしようとする人間はやっぱり、悪に堕ちるのかしらね? 今の口ぶり、完全に悪役よ? でも気に入ったわ。その度胸、他人を省みない無神経さ、それでも願いを叶えようとする貪欲さ」
フフフフ、と胸に手を当てて笑い出す鏑木さん。
「お、おい? いいのか? 俺はお前を危険に晒そうとしてるんだぞ?」
その挙動に一番慌てていたのは、崩野だった。
「いいわよ。どうせあの施設にいたって面白いことなんて無かったでしょうし。スリルを求めるのも悪くないわ。私はあなたの30倍弱は生きているのよ、この程度の些事どうってことないわ」
つまり、崩野に利用されたってことを含めて、鏑木さんは認めたってことか?
理解できない。
鏑木さんは、一体どういう人生を歩んできたんだろうか。800年強も。
「赤井君、そこで黙ってみているようだけれど、他人事じゃないんだよ」
「え?」
急に話の矛先がこちらに向く。
「悔しくは無いのか? あの男のせいで、君の人生はむちゃくちゃだろ?」
……そうだ。
知らない事件の指名手配なんかにされて。
一生無実の罪で逃げ続けなきゃならないのか?
ふざけるな。
「それに君の才能を借りる必要もあるかもしれないしな」
俺の才能?
そんなものあるわけが……。
「それは、“才能帰却”。君の才能だ」
ようやく、といったところでしょうか。
最悪の敵、Mr.バッドエンドの才能も公開されたというわけで。
赤井君はこの相手にどう立ち向かうのかっ!!