~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(11)~
「そう、流石魔女。伊達に何百年も生きてないぜ。それの説明もしなきゃならない」
崩野はパン、と手を鳴らして指を向け、軽い感嘆の言葉を述べる。
だが、その言葉の中に取っ掛かりを感じた。
「何百年?」
崩野のさっきの言葉は、明らかに鏑木さんに対してのものだった。
「あー、それも説明しなきゃならないのか。面倒だな。じゃ、鏑木。そっから説明してやれよ」
「そうね」
どうやら何か理由があるようだが……。
「私の実年齢は、826歳よ」
……。
なんだろう、新手のギャグか何かだろうか。
目の前にいるのは、美人で清楚なお姉さんである。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
「そうよね、ポカンとするわよね。これは私の才能、“全年齢対象”によるものなのよ」
「おーる、えーじ?」
聞きなれない単語だった。
「あーそうね。才能にも慣れてないか? 私の才能の名前よ。正確につけたのは40年前くらいだけどね。この力は私の年齢を操ることが出来る」
「年齢、を?」
「そ。肉体年齢を偽る力。例え80歳になってしまったとしても、肉体を20代に戻してしまえばずっと生きていることが出来る。だからかれこれ800年近く生きてるのよ」
つまり、不死ではないが不老。
老いることなく自らが一番美しいと思える年代で常にいられる。
だからこそ“時騙しの魔女”。
「そ、そんなこと、有り得るんですか……」
信じられない。
目の前にそんな人がいるという現実が。
「見せてあげるわ。“全年齢対象”」
その言葉と共に、鏑木の背が一回り小さくなり、髪も肩くらいのショートカットになる。
顔も童顔顔になり、小悪魔的な雰囲気になる。
「これが13歳」
言葉が終わるや否や、今度は黒髪が腰の辺りまで伸び、最初に出会った息を呑むような美人の姿になる。
「これが、19歳ね。この時代が一番だと思うから、しばらくはこれでいるわ」
目の前でまじまじと見せ付けられてしまえば、認めざるを得ない。
ただ口をパクパクと動かすしかできなかった。
「じゃ、驚きついでに俺の才能も軽く説明しとくか」
俺が驚いている中、崩野さんが会話の間に入ってきた。
「身構える必要は無いから心配すんな。俺の才能なんてこいつに比べたら大したもんじゃねえ」
「アンタの才能も十分異常よ」
ほらな!! やっぱりそうなんだよ!!
誰も信じられないよ!!
「すっごく単純なんだぜ? 俺は“圧力”を自在にすることが出来る。ただそんだけさ。昔はこの才能の苗字を取って“崩壊”とかも呼ばれてたな」
「あつ、りょく……」
「そ。中学生じゃ習わないか? 大気圧とか水圧とかそういう、圧迫というか、周囲を押す力ってやつさ。名前もあだ名とそのまんま、“圧壊”っていう」
「へぇ……」
聞いただけではいまいちよく分からない。
「さらっといってるけど、化物みたいな力だからね、それ」
鏑木さんが崩野に何か言っているようだけれど、鏑木さんの方が化物です。
「さて、ここまで説明して分かる通り、基本的に才能は一人に一つ。稀に二つ持つ、という程度だ」
それは聞いたことがある。
ん、あれ?
確か現場を見てきた話だと、炎で焼かれた跡とか物凄く鋭いナイフの跡とか悉く破壊された跡とかあったはずだけど……。
「そこでさっきの話が出てくるわけだ。じゃあどうやってそいつ、Mr.バッドエンドはそんなに不可思議な力を多く持っているのか」
「それこそが、奴の最深。奴が最悪と言われる所以の一つだ」
苦虫を噛み潰したような顔をして、苦しいように崩野が言葉を吐き出す。
「何を隠そう、俺もアイツに翻弄され、人生をめちゃくちゃにされた一人だからな」
その時の崩野の顔は、懐かしい過去を思い出すように遠いどこかを見ていた。
「その才能の名は“支配”。全てを支配するという、文字通りの最悪の才能だ」
崩野響輔の才能ですが。
才能名:“圧壊”であり、
あだ名:“崩壊”なのです。
分かりにくいかと思って説明を入れておきます。
簡単に言うならあだ名はコードネームみたいなものだと思っていてください。