~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(9)~
「随分と、血の気の多い若者だなぁ……」
Mr.バッドエンドは撃たれた右の太ももを見ながら、特に焦るということも無く淡々と呟いていた。
撃たれた太ももは服に穴が開けられ、どす黒く赤い血がどくどくと流れていた。それは服を染め、地面に水玉模様を創り上げていた。
「馬鹿!! 何故威嚇射撃に留めておかなかった!!」
白衣の一人が、撃った男を咎めていた。
敵が正体不明の才能者とはいえ、ここは日本。そう簡単に銃を使えない。
「いくら気持ちの悪い男とはいえ―――――――ー、あ?」
それに気がついたのは、先ほど咎めていた男だった。
その声で白衣全員が、その異常に気がついた。
「さっき、銃弾で撃ちぬかれた、よな? よな?」
「俺も、見た、ぜ……?」
「血が、出てたよな?」
白衣全員がその光景を見て、いよいよ恐怖は最高潮へ達する。
相手が何をして、何をするのか分からない、未知への恐怖。
白衣たちの目の前には。
先ほどまで真っ赤に染まっていたはずの地面、ズボンが。
元の色を、取り戻していた。
穴が開いたズボンからは肌色が見えており、そこには銃痕のかけらも見受けられなかった。
「さて、これで正当防衛って事でいいよなぁ!!」
Mr.バッドエンドはそれを見た上で、顔を歪ませる。
それと同時に、今までMr.バッドエンドが発していたオーラが強烈になる。
雰囲気に呑み込まれる。
そして。
「俺の“支配”に呑み込まれれば、逃げられない」
両手を広げ、高らかに笑う。
「終わりだぜ」
その言葉で、Mr.バッドエンドが動き出す。ゆったりと、緩慢とした動きだが、確実に白衣たちへ向かっていた。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
先ほど撃った白衣の一人が、狂ったように叫びだし、銃を乱発する。
「無理無理」
だが、次の瞬間にはその白衣のすぐ上にいた。
そして着地するときに、二本の銀の煌きが白衣に収束したように見えた。その収束は首元に集まっている。
「じゃ、バイバイ」
その言葉が終わるか終わらないか、ブシュゥゥと何か溜めていたものから液体が抜けるような音が響く。
先ほど銃を撃った白衣は、一瞬びくりと身体を動かすと首元から血を噴出させ、後ろへ倒れた。
「次はどいつだよ」
返り血をもろに全身に受け、赤黒く染めた男は、それでも嗤う。
「て、手前ぇぇ!!」
「何やってくれてんだ!!」
白衣全員が銃を構えて、Mr.バッドエンドに向けて一斉射撃する。
「ハハハハハハッ!? ハッ!!」
一斉射撃され、Mr.バッドエンドは銃の衝撃で体中をビクビクと震わせ、倒れることも許されず身体を穴だらけにされる。
だが、そんな状況にもかかわらず嗤っていた。
嗤い声は高らかに響いていたが、それは途中で途切れた。
銃弾が途切れ、Mr.バッドエンドが倒れたのだ。
「ど、どうだ、これで……」
何故か息を切らしながら、白衣たちがぼそりと呟いた。
おそらくその言葉は、全員が思っていたのだろう。
そう思わなければ、やっていけなかったのだ。
しかしその希望的観測は、一つ残らず砕かれる。
「あーあー、ためらいがないね」
倒れたMr.バッドエンドは、ゆっくりと立ち上がった。
服は銃弾で穴だらけになっている、が。
その穴からのぞく皮膚は肌色を保っており、撃たれた後なんてどこにもなかった。