~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(8)~
「まず、鏑木と赤井君が見たって言う巨大な剣を落とした男についてだ。おそらくそこが、君の最悪の始まりだ」
「始まり……?」
「そう、その男が全ての元凶だろう。俺が知っていて、今このタイミングで現れる男なんて、一人に限られるからな」
「そ、そいつは……」
「俺も本名を知っているわけじゃない。ただ、そいつの異名なら知っている」
「Mr.バッドエンド。最悪の思考と最悪の才能を持った化物さ」
「Mr.バッドエンド?」
何だか芸名みたいな異名だが……?
それが、あの剣の上に立っていた人なんだろうか。
言われてみればなんか気持ち悪いようなオーラを放っていたような……。
「おいおい。そんなポカンとした顔するなよ。君をこんな状況、殺人鬼に陥れた張本人だぜ?」
「はぁ!?」
その人が、俺を殺人鬼に!?
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テレビニュースをくすんだ蒼い目で、どろりとへばりつくように見ていた一人の男がいた。
「へぇ、あの“時騙しの魔女”と一緒に走ってた子は赤井君っていうのか」
ほう、とすこし頷きながらその男は少し前のことを思い出していた。
少し前、夕方に遡る。
「おいおい、しっかりしてくれよ。“時騙しの魔女”が追い駆けられてるぜ」
赤井と“時騙しの魔女”が走り抜けていた道のかなり上空で、男が見張っていた。
「それにしても、あの一緒に走ってる子は何なんだろうねぇ。巻き込まれた一般人かな?」
頭を傾げて少し考えながら、両手で炎を出し追っていると、急にその男が頭を上げた。
「あぁ、良い事思いついた!! これはいいね、うん、最高だ。どうせあのまま普通に生きて普通に死ぬような少年だ。巻き込んであげよう」
両手を目の前に突き出して、それでもなお喋る。
「絶望にな」
次の瞬間巨大な剣が空中に現れる。
そしてそれを重力の赴くままに地面に落した。
(とはいっても微調整してっと)
巨大な剣は二人と白衣の連中が別れるように地面に突き刺さった。
どうやら少年がこっちを見ている。こっちとしては好都合だ、顔を覚えやすい。
右手を顔に一回被せて、少年がいなくなったのを確認してその剣から飛び降りる。
「楽しく、なってきたぜぇぇぇぇ!!!」
その顔は、少年、赤井夢斗そのものだった。
そして着地の少し前くらいから両手で炎を出し、速度を弱めてふわりと立った。
「お前、一体何者だ!? あいつらの仲間か?」
「んー? いいや違うぜ? 俺様はなぁ――――――」
名乗っとくべきだろうか。
ま、いいや。
どうせ一人瀕死にするのを除けば、全滅させるんだし。
「Mr.バッドエンドだ。遭っちまったのが、お前らの運の尽きだな」
何者なんだ?
白衣達は剣を落してきた男に動揺を隠し切れず、こんなとき翅村さんがいたらなぁ……と皆が思っていた。
「お前何者だ!!」
そんな時、一人が銃を構えて目の前のMr.バッドエンドと名乗った男に構える。
「折角名乗ったのに名前を理解されないとは、悲しいねぇ?」
オーバーなリアクションで残念がる男。
「どうする? この男」
「一応取り締まっておいた方がいいでしょう。こんな大剣を落とせるんだ。肉体強化系の才能者でしょう」
「その線で」
白衣の連中はカチャリと銃を構えた。
緊迫した空間がその場を包んだ。
ただ、その空間にはあまりにも不純物が多かった。
くすませ腐らせぐちゃどろに。
そのオーラは絶えず男から流れている。こちらは銃を大勢で構えているというのに、何の変わりも無い。
全員が理解していた。この男は、普通ではない。
「う、うわぁぁぁ!!」
その空間の異常さ、アンバランスさに耐え切れなくなった空気に敏感な白衣の一人が、叫びながら銃を構えて引き金を振り絞った。
バァンと音が鳴り響いて銃弾が男、Mr.バッドエンドの右太ももを貫いた。