~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(7)~
俺は脱獄犯という崩野という男と鏑木という女が今住んでいる、ビルの中にいた。
「現在、脱獄犯及び残忍な殺人鬼について全力で捜査しておりますので、国民の皆さんは心配することはありません。怪しい人を見かけたら、警察へお知らせください」
「聞いたか? またやってるぜ。これで何度目だ?」
「五度目ね。流石に有名になるわよ」
ずっと音楽やトークを流していたラジオではまた、俺達を捕まえようとする警察のニュースが行われた。
「さて、少年。聞きたいことは色々あるんだが――――――」
つばを飲み込み、次の言葉にそなえる。
「お前、何だ?」
――――――――――――――――何?
俺が、何か?
そんなもの、分かるわけがない。人間ってだけだ。
「あーもう。口下手ね。こいつが聞きたいのは、貴方のその摩訶不思議な力のことよ」
「不思議な力……」
あるわけが無い、俺は普通の凡人だ。
「じゃあ、あの忌々しい手錠のような力をもってるのはどういうことだ?」
「て、手錠?」
また分からない単語に俺が首をかしげていると、鏑木が答えてくれた。
「だーかーら、崩野。自分の知ってることを相手も知ってると思わないの。あのね、赤井君。簡単に説明すると、君には才能を無効化する力があるようなんだよ」
「才能を、無効化……? そんな馬鹿な!? 聞いたことも無い!!」
「そいつはこっちのセリフだ。お前に触るとあの手錠と同じ感覚がするんだよ」
指を銃の形にして男がこちらを指差す。
「どうやら触れてなけりゃ才能は使えるみたいだぜ? “時騙しの魔女”」
「何故私に振った。後、名前で呼べ。それあいつらが勝手に付けたあだ名じゃないか」
「あぁ、そうだな。悪い悪い、こっちの方が聞きなれていてな。そうだ、順番がおかしくなったが、自己紹介でもしようぜ? 名前はニュースとかで知ってるだろうが、一応こういうのはしといた方がいいだろ。俺は崩野響輔。絶賛脱獄犯エンジョイ中だ。もちろん才能持ち、後で説明してやるよ」
崩野はそこまで言って手を鏑木の方へ向けた。
「そうね、私は鏑木絹。私も才能を持ってはいるけれど、戦闘向きではないわ。脱獄できたのはこの男に連れ出してもらったからね。君は?」
鏑木が今度は俺の方に手を向けた。
「お、俺ですか? 赤井夢斗って言います」
あんまり言うこともなかった。
というか、二人が濃すぎるんだよ。
「そして、何だかよくわからないままに殺人犯に祭り上げられたと。OK、時騙し――――鏑木の話も聞いて、俺にはなんとなく事情が読めてきてる。ま、おそらく事態は俺にとっては最高で――――――――」
また、崩野は俺を指差して言う。
「君にとっては最悪だ」