~ない扉の向こう側での話し合い。~
意外と長くなりそうですねー。
警察署内に入った二人は、通路をどんどん奥へと進んでいった。
「警察署にいるんですか? 刑務所や拘置所じゃなく」
相馬が当然のことを聞いた。
「聞くことが多すぎてな。面倒なんで俺が直々に出向いて話を聞いているんだ。それにもしもあの男が暴走でもしたら、甚大な被害が出かねん」
そう焔はこともなげに答えると、通路が行き止まった。
「おや? この先は無いように思えますが」
目の前には壁。
「あるんだよ、実はな」
焔はおもむろにポケットから何かのカードを取り出すと、それを壁の右端に走っていた小さな溝に通らせた。
カードで何かを読み取らせるように。
すると、何の予備動作も無くいきなり壁が上に動き出した。
その向こうには階段が続いている。
「からくり屋敷のようですね、警察署は」
「心配するな、ここだけだ」
その奥にある階段を降りていくと、独房のようなものが見えてきた。
「お待ちかねの、“鳥”とやらだぞ。俺は30分したらもう一度ここに戻ってくるからな。言っておくが、俺は何も見ていないし、“鳥”の様子をたまたま見に来ただけだ」
そんな三文芝居をし、焔はここから出て行った。
「まったく、面白いやつやなぁ。法に縛られすぎっちゅうか。なぁ、そう思わんか?」
意外なことに、向こうから話しかけてきた。
「元気そうだな、“鳥”」
実際“鳥”は手錠をされてはいるものの、笑顔でこちらへと振り返っていた。
「やっぱり兄ちゃんはわいと話すときだけ口調がかわるんやなぁ。まぁええけど。それより、わざわざここにきた理由はなんじゃ?」
「分かっているくせに。御託を並べるな」
相馬の目が鋭くなる。
「おーおー、怖いのぉ。ま、さしずめわいがちょびっと血を飲ませてもらったお嬢ちゃんのことじゃろ? どうなったんじゃ?」
“鳥”はからかうような口調をやめない。
「その通りだ。お前、知っていたな?」
「そりゃそうさ。何年吸血鬼やってきたと思っとる」
カッカッカと快活に笑う。
「まったく、お主があそこで止めんかったらあの少女は吸血鬼になんか成らんかったんじゃぞ?」
「それは、お前が篠崎さんを殺すって意味だろ」
その言葉を聞いて“鳥”は「ほぉ」と感嘆の声を漏らす。
「なんじゃ、知っとったんかい」
「それくらい、調べてきた」
「なら話が早いんじゃないのか? もうその篠崎って子は限界だろ? もう実質的な被害でも出てきたか?」
「何とか、止めた」
「驚きだ。吸血鬼の膂力は相当のもんなんだが。なら、どうしてわしのところへ?」
「今の解決方法じゃ駄目だ。お前の、その吸血鬼をコントロールする方法を聞きに来たんだ。お前は今だって平然と俺と話をしているじゃないか」
「まぁ、無いわけじゃないがかなりきついとは思うぜ? 実質的な被害を出してないって事は、まったく吸血鬼になってから血を飲んでないってことだろ? 相当にやばいはずだがな」
「お前がしているものと同じ手錠を掛けている。だが、いつまでも手錠のままとはいけないだろう」
「納得だな。それなら解決方法に文句があるのも頷ける。教えてやろう」
気前の良い発言だった。
「また、随分と簡単に教えてくれるんだな」
「お前は個人的に気に入ったんだよ。吸血鬼に寿命はほとんど無いに等しいてのは知ってるだろ? わいもこう見えてかなり歳はいっとる。で、長年生きているとな、顔を見ただけでそいつがどれくらいの業を背負って生きているのかってのが分かるんだよ。お前さんは、そういう点で面白い」
「人のことを知ったように語るな」
「別にお前の過去なんて知る由も無いけどな。しかしお前が普段級友に見せているその表情、その口調は、偽物だろ?」
“鳥”の瞳の奥がキラリと光る。
「それが意識的なのか無意識的なのかは分からない。だが、一体何があって、どれくらいお前が捻じ曲がっちまったのか、多少興味はあるし、それにお前自体が面白い」
「人のことを分かった風に言うな」
その相馬の口調は怒りに満ちていた。
だが“鳥”はそんな視線を意にもかいせず続ける。
「お前みたいな奴といえば、最近だと“創造主”だな。まったく、アイツも何をあんなに生き急いでるのか。他にも何かありそうな奴はいたが、お前みたいな特異体は“創造主”を除いて居なかったよ」
「……今話すのはそんなことじゃ無いだろう。さっさと話せ、時間が無いんだ。解決法を、さっさと話せ」
「だから生き急ぐなって。とはいえ、ぼちぼち話すか。じゃあお前も急いでるようだし、とりあえず結論だけ簡単に言っとくぞ」
“鳥”はそこで少しだけ間を置いた。
「人間をもう辞める事だ」
何か相馬君大活躍のような……。