~赤井の過去、どうしても忘れられない記憶。(2)~
「……一体何が、どうやって!? 才能が、消された!? いや、今は――――」
顔を驚きに染めながらも、行動は簡単だった。
「“全年齢対象”!!」
そう叫ぶとともに、さっきと同じく白髪が黒く染まり、肌も戻っていく。
最初に見たような美人に元に戻り、髪をかき上げながら俺にその人は問いかける。
「貴方が何者かは、今はどうでもいいわ」
その人は凛とした佇まいで俺を見て、ゆっくりと俺の後ろに視線を送る。
「どうしてくれるのよ、貴方のせいで追い詰められちゃってるのよ?」
その口調はうらむようなものではなく、いたずらをした子供を叱るようなものだった。
俺も視線の方に目を向けると、白衣を着た男たちが拳銃を構えて立っていた。
「投降していただけませんか?」
その中のリーダーと思われる男が拳銃をしまって両手を広げて歩いてきた。
「嫌よ。もうめんどいもの。あの施設」
べー、と舌を出してこっちにまた振り返った。
「アンタ何歳?」
何の質問かわからないが、一応答えておく。
「……中一、ですが」
「私を助けなさい、男でしょ、中学生になったんでしょ?」
「何なんだアンタ!?」
状況がよくつかめないんだが。
「君には危害を加えないから、さっさとそこをどいてくれないかな?」
リーダーと思われる男の言葉は、外見こそ見繕って丁寧だが、有無を言わせない何かがあった。
思わず後ずさる。
「ほら、さっさといきなさいよ」
だが、下がった後ろにはあの美人がいる。
どうしろっていうんだよ!!
「やれ」
リーダーと思われる男が手をこちらに向けると、俺の方へ走ってくる。正確には俺の後ろのこの人を狙っているんだろうが。
「おいおい、やばい状況になってんじゃねぇか。何やってんだよ、“時騙しの魔女”」
探すの苦労したぜ。と続ける。
それはすぐ傍の家の屋根の上から聞こえた。
振り向くとそこには、一人の男が立っていた。
悠然と、何事も無いかのように。
男は白いTシャツに白いダボダボのズボンという、およそオシャレとはかけ離れた格好をしていた。
「や、奴は……!? 脱獄犯、崩野!! 鏑木は後回しだ、先にあの男を追い詰めろ!! 才能の使用を許可する!!」
『了解!!』
リーダーの言葉で、白衣が動く。
「おいおい、遅すぎだぜ? “エア・ガン”」
屋根の上の男、崩野は両手を銃の形にする。
「あれは!? まずい、避けろ!!」
リーダーはメンバー全員に呼びかけている。
何が起こるっていうんだ?
「主任、何を――――――!?」
その言葉は最後まで紡がれなかった。
声を上げていた白衣の一人が、いきなり弾きとんだ。
その時無風だったはずのこの空間に、一瞬だけそよ風のようなものが吹いた。
「ばーん」
崩野の手で作った銃がクイッと上を向く。
するとまたもう一人目の白衣が、本当に銃で撃たれたかのように頭を弾かせた。
実際には何も起きていない、はずだ。銃声も何も聞こえない。
「これは……、一体どういうことですか、主任!!」
「俺が、向かう」
白衣をたなびかせて、リーダーの男、主任が地面を思い切り踏み跳んで、一回の踏み切りで屋根まで辿り着いた。