~赤井の不安は的中し、最悪は平然と降臨する。~
「赤井夢斗、久しぶりだな!!」
「な、なんで、お前が、生きてやがるんだよ……」
いきなり赤井の前に現れた男はにこやかに手を挙げていた。
というよりも、いつも顔をにやつかせている。
髪は金髪でショートカット、ともすればさわやかな青年とも取られかねない。
だが、滲み出る雰囲気と喋り方と表情が、全てを台無しにしている。
「最初に目の前に現れて気づかなかったのには驚いたよ。まぁあれは俺が顔を変えてたからいけなかったんだけど」
「俺達のあの時の努力は、一体なんだったんだよ……!?」
「いや、無駄ではないと思うぜ? 何せあの時俺は持っていた才能のほとんどを失って、ゼロからのスタートになったんだから」
二人にしか分からないような話を続ける。
「大体お前全然一人にならないから、こっちとしても大変だったんだぜ? ようやくチャンス見つけて、こうして才能で人払いしてんだから。お前が来るのを待ってたのさ。お前だけは才能が効かないから。とはいえ、すごい速さで引っかかってくれたな」
「それで人がいない訳か。お前のことだからカメラとかも全部何とかしてんだろ?」
「そりゃもちろん。ここでの会話は、お前も聞かれたくないだろうしね。というか、君に会えたし、こんな気持ち悪い口調も直さないとな。“声調変化”」
目の前の男はそう言うと、のどに手を当てた。
「あーあー、直ったか。これがお前に会ったときの俺の口調で、今の俺の口調だ。ちなみに今の才能は俺の口調と声のトーンを強制的にどんなものにでも変えることが出来る才能だ。三年前くらいに奪いなおした」
口調と声の音質、トーンが変わった。
その声は、身体にべっとりと纏わりつくような、あの男のオーラをそのままぶつけてきているような気持ち悪い感覚を催す声。
忘れもしない。ありとあらゆる行動が気持ち悪く、そしてありとあらゆる者に不幸を振りまく男。
「知ってるだろ? 俺の才能」
そして赤井に問いかけた。
「“支配”……」
「やっぱり覚えていてくれたか!!」
ハハハハハ、と笑いながら踊るようにくるくると回って両手を挙げる。
「だが、お前の才能は俺が完全に――――――」
「不完全だよ馬鹿者。俺を逃がしちまったお前のミスは大きいぜ? 一つ目は俺に才能を元に、とまではいかないが普通に使わせるように策を練れる時間をやったこと。二つ目は、俺をお前に対して本気にさせたことだ」
男、Mr.バッドエンドは口角を引き攣らせるようにして上げ、壊れた笑みをこちらに向ける。
「懐かしいよな、もう四、五年になるんだぜ?」
「思い出させるな」
結局、ほとんど守れなかった。
後味の悪い結果しか残らなかったじゃないか。
「それでも、お前は俺に勝っている!!」
次の瞬間、Mr.バッドエンドのオーラが膨れ上がるように感じた。
その中に飲み込まれる。
「そのままの結末で進んでいたなら、お前はもう立ち直るどころか、一生精神病棟送りにしていたところだ!!」
先ほど笑っていた表情とは一変、顔に怒気を貼っている。
「そもそも赤井夢斗、お前に会ってしまったことがそもそもの、そして一番の間違いだったのだ」
ふざけるな。
それを言うなら、俺の方こそ、お前に会ってしまったことが人生において最大の間違いだ。
「あれは――――」
「中一の頃さ、手前のせいで、訳分からない運命に巻き込まれたのはな」
赤井は珍しく過去を、思い出していた。
いや、思い出させられていた。
さて、次の話からは赤井君の過去話!!