~赤井の予感は強まり、見知らぬ男は話しかける。~
紅が高原と戦い終わり、藤崎が捕まった頃。
けいどろ大会か。
赤井は街中を歩きながら、泥棒を探していた。
今まで捕まえた泥棒は一人。
(範囲かなり広いもんな……)
あまり出会わない上に、全員が才能持ちのせいで捕まえ辛かったのだ。
それに歩いていくほどに、人を見かけなくなっていく。
ついには一人で歩いていた。
しかし、けいどろ大会が始まってから嫌な予感というものはますます高まっている。
何だってんだ。
こんな感覚、今まで味わったことが――――――。
無いわけじゃ、無いか。
もっと濃密で、吐き気を催すような。
まさか、あの男が?
死んだはず、だが。
あの男が簡単に死ぬとは思えない。
潰しても潰しても、平然と生き返る男だ。
いや、こんなところにくるはずが無い、気のせいだ。
その時、ざっと靴とコンクリートが擦れる音がした。
「誰だ!!」
緊張していたせいか、思わずきつい口調で反応してしまった。
「う、うわっ!! いきなりそんな反応しないでくれよ!!」
どうやらその声は間之崎の普通の生徒のようだった。
ビーコンが鳴っていないところを見ると、どうやら同じ警察のようだ。
「ああ、済まない。つい考え事をしてたんでな」
「びっくりしちまったじゃないか、赤井夢斗」
あれ?
目の前にいるのは見も知らない誰かだ。どこにいるといっては失礼だが、普通の生徒生徒した生徒だ。
なのに、俺のことをフルネームで知っている?
……俺も転校生だからな、仕方ないのかもしれない。
にしてもフルネームで呼ぶやつなんて……。
「ひっさしぶりだなぁ、赤井夢斗! 元気してたかぁ!!」
何故か古くからの友人のように話しかけられた。
駄目だ、思い出せない。
こんな顔見たこと無い。
どうしよう、どうすればいいんだろう。
「ん? どうした変な顔して。そうか、俺に会えたのがそんなに嬉しい、じゃなくて嫌なのか?」
何だか言葉の選択がおかしいんだが。
これだけの口調なんだから、同年代、もしくは先輩なんだろうか。
でも俺の幼馴染とかでも、こんな“都市”に来るようなのはいなかったと思うんだがな……。
このまま後で面倒なことになるよりも、今誰なのか聞いておいたほうがいいのかもしれない。
「あのー、失礼ですが、どなたなんでしょうか?」
そう尋ねると、ポカンとした顔をして。
「おいおいマジかよ、神経図太すぎんじゃねぇか。俺だぜ俺。いくらなんでも忘れるなんてありえないだろうが」
心底驚いたように目を見開いて、冗談かどうか確かめてきた。
なんとなく、なんとなくだが、どこかで感じたことのある感覚はしている。
何というか、この明るい口調の奥に何か嫌な感じのものが含まれている。初対面の人に失礼だが、その感覚をどこかで感じたことがあるのだ。
それにこの人が纏っているオーラ、のような気配も、何だか記憶に引っ掛かりを生む。
胸騒ぎは大きくなり、何故か冷や汗が出る。
俺が無言で答えると、その人は頭を抑えた。
「あれだけのことがあって、よく忘れられるもんだな、この気配、この声、この顔――――――――」
そこまで言ってその生徒は、あー!! と叫んで納得したようにうんうんと何度も頷く。
「そうだそうだよそうだよねえ。そりゃ分かるわけないよ。お前に会ったときは、全然違ったんだから」
これを見れば、絶対に思い出せるぜ。
その生徒は、断言した。
何だろう、開けちゃいけない扉を開けようとしている。
とにかく目の前の男が気持ち悪い。
あの男を、彷彿とさせてしまう。
やめろ。
違う、はずだろ。
なぁ、そう言ってくれ、誰でも良い!!
生徒は自分の顔に右手をかざして、見えないようにした。
それは一瞬、通り過ぎらせただけである。
だが、赤井には時が止まって見えた。
目の前の生徒の顔が、別人のものへと変化していたのだ。
そして、その顔には、見覚えがあった。いや、思い出すまでも無い。ずっと覚え続けていた。
「Mr.バッドエンド……」
赤井は驚愕した顔で、震えながらその男の名前を吐き出した。
やっと、やっと出てきましたねー。
何せSkills Cross終了からもう1年弱ほど経ってますから。