~五人は馬鹿なことをし、一人は生贄となる。~
「ほう、どういう意味だい?」
高原先輩は笑っている、まるでよくそこに辿り着いた、とでも言わんばかりに。
「今貴方と戦う必要は全く無かったんです。私は何もしなくても、貴方から何もされません、と言うか警察ですから、何も出来ないでしょう?」
「貴方の目的は私の疲労、時間稼ぎ、と言ったところでしょう。泥棒は逃げ切ることこそすれ、警察に戦いを挑む必要は無いのだから」
それが私の考えた答えだ。
「正解だ、で、どうするつもりだい?」
「高原先輩達は、他の先輩が何とかしてくれる。私は――――」
「逃げる!!」
紅はその場から飛び立った。一跳びで。
「……五分と、体力を少し削る程度か。意外に引っかからなかったな」
戻るぜ。
その一言で高原先輩×2は消え去った。
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その頃、間之崎学園からは遠く離れた某所。
「おいおい相馬何とかしてくれ、お前頭良いんじゃん!!」
「私の才能は、私しか守れないですからね。残念ですが……」
「僕のも無理ー」
「……あわわ……」
「大体染山がー!!」
『待てー!!』
染山、相馬、十島、天音、藤崎は大量の警察から逃げていた。
ゲームが始まって少し時間が経った頃のことだった。
「なー、ちょっと暇じゃんー!!」
染山がいきなり叫びだした。
「何言ってるのー?」
「けいどろってさ、もっと熱く走って逃げたりするもんじゃんか!!」
あまりの退屈さか、染山が叫びだした。
「ちょ、あいつ馬鹿か!?」
「……何やってる、の……」
「おやおや」
染山の行動に、全員がはぁ、と呆れた声を上げる。
だが、それだけで終わらなかった。
ピコン、ピコン、ピコン――――。
ウォッチャーのアラームがいきなり反応し始めた。
「げ、これって――――」
「この展開を待ってたじゃん!! さぁ、来い!!」
染山が嬉々とした顔を向ける。
すると、向こうの方からドドドドドと地響きのような勢いで大勢の影が近づいてくる。
「ちょ、これは……」
「多すぎだろぉ!!」
そして、今に至った。
「大体なんで大勢が固まって行動してんじゃん!!」
「先ほどから言おうかとは思っていたのですが、ここら一体の赤い点――――つまり泥棒がほとんど無くなっています。警察の方はかなり優秀なようです。そのせいで私達にかける割合が増えたのでしょう」
「もっと早く言え!! しょうがないなお前ら、俺が何とかする!!」
声を上げたのは、藤崎だった。
「俺の才能、見せてやる!! 地面よ!!」
藤崎が立ち止まって、地面に片手で触れる。
「“値上昇”、能力付与、“軟化”」
その瞬間、全員がこけるようにして倒れこむ。
藤崎のついていた手が、ずぶずぶとコンクリートのはずの地面にめり込んでいく。
“値上昇”によってコンクリートをケーキのごとく柔らかくし、足元を崩したのだ。
「今のうちに逃げて――――、っていねぇ!!」
藤崎が皆に合図を送ろうとすると、後ろの四人は既に逃げ切ったようだ。
「ったくあいつら薄情な……、俺も」
そう思って走り出そうとしたときだった。
「貴方は逃がせませんよ」
がちっ、と金属同士の触れ合う音が鳴った。
まさかと思ってウォッチャーを見ると、誰かの物が当てられていた。
「すごいですね、先輩。私の才能もなかなかだと思いません? 足場が必要じゃないですし」
そこに立っていたのは、一回り小さい少女で、透明の地面の少し浮いた空中に立っていた。
「そういや、宴先輩と一緒にいた……」
「瀬々薙一理です、覚えなくて結構ですよ」
凛とした表情で何事も無かったかのように、また走り出した。