浮気はダメ絶対
短編です
カフェでコーヒーを飲みながら、小説を読む。仕事が休みの日の私のルーティーンのような物だ。家の近所にある、ちょっと古い、純喫茶風のカフェの、奥の一人用の小さな丸テーブルが私のお気に入りの席だ。
「ちょっといいかしら」
小説をバッグから取り出そうとしたら、声をかけられた。身長の高い、綺麗なお姉さんだった。
「はい、なんでしょうか」
「あなた、コウキと付き合ってる?」
急にそう聞かれ、私は目を見開いてしまった。これはまさか、彼氏の浮気から始まる修羅場というやつだろうか!!私にもそんなイベントが発生するなんて、思ってもいなかった。
「えっと、はい、そうですね、コウキとは付き合っています」
「やっぱり、あ、アタシはミサキ、アンタは?」
「あ、ユリです」
「そう、ユリさん、単刀直入に言うけど、コウキ浮気してるから」
「あー、はい、いまなんとなく理解しました」
「は?なにそれ」
「いや、なんとなく私もそうじゃないかな~?とは思ってたんですよね、最近会う頻度減ってたし、何か隠してる風だったし」
「結構ドライね」
そう言いながらミサキさんは、隣の席から勝手に椅子を持って来て、同じテーブルに座った。結構図々しい人だな。私とはタイプが全然違う。でも、昔読んだ本では、浮気は付き合っている人より、少し不細工な人と付き合うって書いてあったけど、コウキこんなきれいなお姉さん捕まえてたのか。
いや、待てよ?もしかしてこれ、私の方が浮気相手じゃん。こんなきれいな人と付き合っておきながら、私みたいなのにも手を出して・・・・。って誰がブスじゃい。
「浮気は自分よりブスな相手とするなんて、全然嘘だったわね」
ミサキさんが、私も読んだことのある本を取り出した。
「え、私もそれ持ってます!で、いま私同じこと思いました・・・コウキがこんなきれいな人と付き合えるなんて、どんなマジックだよって・・・」
「えぇ!?なに、ありがとう」
なんだか話しやすい人かもしれない。彼氏の浮気=修羅場、とか殺伐とした風景を思い浮かべてしまったけど、ミサキさんはとっても話しやすい。
突然始まった女子会で、初対面の私たちは意気投合してしまって、二人で別れを切り出してやろう、という話になった。
「コウキびっくりするだろうね」
「ですね」
私たちは画面を見せ合って、同時に「話があるから今からきて」と送りあった。
ほどなくして、ミサキさんの方に返事が来た。やっぱり私は浮気相手なんだな、と少しがっかりした。ミサキさんがその返事を送った後、少し遅れて私の方にも返事が来た。うん、別れる判断をしてよかったかもしれない。
「すぐ来るって」
「私の方にもそう来ました。なんだか不思議ですね、コウキはまだ、私たちが一緒にいるって思ってないですもんね」
「だね」
二人でクスクスと笑う。彼氏に浮気をされたって言うのに、なんだかこの時間が妙に楽しい。
ほどなくしてコウキが来た。
「あ、コッチコッチ」
手を振って呼び寄せると、ミサキさんはきょとんとした顔をしていた。
「え、誰」
「え?コウキですよ」
「?初めまして・・・」
コウキも困惑の表情を浮かべている。
「おー、いい店!」
困惑する私たちの後ろから、そう言って入ってきた男が、ミサキさんに笑顔を向けた。
「ん?」
「ん?」
「んん~?」
——じゃぁ、浮気相手は誰なの?——
コウキ違いかよ!




