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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
『文化祭のさなか、様子のおかしい秋野ユウヒとすれ違った俺は、胸騒ぎがして後をつけた。
聞き慣れない呪文のようなものを繰り返す彼女は、人を避けるように体育館裏へ移動し、そこで悶絶するようにしてヒトの姿を失っていった』、と怪談師のような語り口で話す。
「やはり、悪魔の呪文が堕天の鍵になっている可能性が高いですね」
「でも部長、きっと彼女、堕天を感じ取ってわざと人気のない場所に移動したんじゃ」
「もしかして、堕天を押さえこもうと必死で呪文を唱えてたかも。泣けるゥ」
三人は想像を豊かに膨らませながら盛り上がっている。
俺は松尾アヤが呪文に傾倒していることを事前に知って、まことしやかに話に盛り込んだのだ。案の定、食らいついてくれた。
部員たちは、やれ呪文を書き換えるだ、やれあの書物が参考になるだなどと、俺をほったらかして儀式の準備に没頭している。
俺はというと、エサを前にして待てをされた犬のように焦れていた。心の底で澱のように溜まった欲望が、ぐらぐらと沸騰しはじめているのを感じる。
花街の遊郭で、目当ての女郎が来るのを今か今かと待ちながらキセルをふかす客の姿が自分と重なる。待つことも楽しみのひとつ、などと粋なことを考える余裕などない。
俺は品定めをするように三人の女子生徒を見比べた。
部長の松尾アヤは、唯一のメガネっ娘だ。顔の輪郭は少しふっくらとしているが、制服から覗かせる手足は標準体型か、どちらかと言えば痩せ型だ。
いつから切ってないのか長く伸ばした後ろ髪は大きなひとつの三つ編みで束ねられ背中で踊っている。
臼井モカは一番の小柄だ。まん丸の丸顔につぶらな瞳、丸みを帯びた小さい鼻、おちょぼ口と、顔パーツの小ささが丸顔を引き立てている。
加えておかっぱに近いショートヘアは、彼女の小動物的な可愛らしさを存分に演出していた。
山野レイは端的に言えばチャラめだ。顔立ちは整っている方で、眉の形などもしっかり手入れされている。ばっちりメイクして街なかを歩けば声をかけられるレベルだろう。
髪型も触覚ヘアのショートボブでフェミニン要素は強い。どうしてオカ研に?という質問を投げかけられるのは必定であろう。
堕落した姿を拝んでみたいのは、やはり部長の松尾アヤだろうか。文化系清楚お嬢様の手本のような彼女だ。落下地点が高ければ高いほど、着地の衝撃は大きくなると言えよう。
臼井モカもいい。引っ込み思案なオカルト少女。開花の時を決めあぐねて、ひたすら膨み続ける蕾を連想させる。爆発的に咲いた瞬間をぜひ見てみたい。
山野レイは、オカ研所属ということを知らなければ恐らく食指は動かなかったろう。自己顕示欲が強めな反面、オタク指向も強く同好の士との絆を重んじていそうだ。チープではあるがギャップ萌えと表現してもいい。
三人ともそれぞれ、存分に「美」をその身に内包していることが窺える。
こうして分析している俺を客観的に見つめると、俺は女性に対しての審美眼があるように思う。審美眼と書くとおこがましいが、美を発見する能力だ。
どんな外見をしていようとも、じっくりと観察をすれば必ず美は見つかる。それは往々にして時間をかけて見えてくるものだった。ルッキズムとは正反対の境地である。
「お待たせしました」
ひとり脳内で女性審美首脳会談を繰り広げていた俺に、松尾アヤが声をかける。ようやく準備が整ったか。
見ると、三人はお揃いのローブを羽織っていた。どこで買ったか手作りか、何事も形からと言うが、全身を黒で包んで闇の一員に徹しようとするオタク心とその連帯感に、青春を感じてしまう。
「中野さんには今回、儀式の触媒になっていただきます」
椅子から立ち上がった俺に、松尾アヤは容赦なく専門用語を投げかける。筋金入りのオタクだな。
10 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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