08
短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
待ち望んでいた秋が訪れ、松尾アヤが在籍する高校の文化祭の日がやってきた。
制服姿の俺は郵送されてきた招待チケットをバッグに忍ばせ、はやる気持ちを抑えながら隣県まで電車で向かう。
三年間の禁欲生活が終わるのかと思うと、それだけで体温が上昇するような気になった。
さすがに学校側の警戒は厳重だった。チケットの確認や持ち物検査はもちろんのこと、門の周りだけでも十数名の警官が詰めている。
その中で一際目立ったのが、十文字槍をその手に携えた陸上自衛隊の天使隊員が二名、門の左右に立っている姿だった。
着ている制服は陸上自衛隊員の常装冬服と基本同じで、濃紺のジャケットにネクタイ、膝丈のタイトスカートにパンプスを履いている。
特異なのは二メートルを超す長尺の槍を手にしていることと、黒い布で目隠しをしていることだ。
俺はまるで歴史書の挿絵を見ているような気分になった。はるか昔、まだ神魔戦争の余波が地上に影響を及ぼしていた頃、天使をその身に受肉させた乙女は目隠しをして悪魔の残党と戦ったという。
現代においては忘れられた風習のはずだった。一体あれでどうやって戦うというのだろうか。
しかし天使隊員の配置には肝が冷える。俺は天使の目をかいくぐり、堕天使受肉を成功させられるだろうか。
いいや、ここまで来て諦める道理はない。突き進むのみだ。
俺はチケット確認と手荷物検査を無事に終え、天使隊員の前を通過する。その際、片方の隊員が俺をじっと見つめている気がした。
目隠しの奥から視線を感じる。目隠し布はブラフで、本当は見えているのだろうか?しかし声をかけられるでもなく、心中の動揺をよそに俺はなんなく学内へと入ることに成功した。
バッグからサングラスを取り出して装着する。
回収されなくてよかった。これでうかつに女子生徒と目を合わさないよう、視線を泳がせていても怪しまれずに済む。まあサングラス姿の高校生など充分怪しいかも知れないが。
松尾アヤからのメッセージによると、オカ研の部室は校舎の別棟にある部室棟の三階にあるということだった。
高校の中に部室棟があるだけで、俺には驚きだった。さすが、教育に力を入れる私立高は資本が違う。
高い金を払ってそんな学校に子供を行かせる親が、我が子が校内で堕天儀式チャレンジを行うと知ったらどんな顔をするだろうか。まして、遊びと思ってやった儀式がまかり間違って成功してしまったら。
俺は、想像できない。想像はしない。
俺は俺の青春を謳歌したいだけだ。
そして命を賭けている。
秋野ユウヒのときは運よく生き残ったが、生き残ったのなら俺は生に従って生きなければならないんだ。生が死を迎え入れるそのときまで。
俺は部室棟の三階に階段で上がり、オカルト研究会と記された札が挿されたドアをノックした。
中から「どうぞ」と声が聞こえ、俺はドアを開ける。
部室は十畳程度の広さがあり、両側には本棚、中央スペースには本来テーブルと椅子が置かれるのだろうが、今はどかされて床に円陣が描かれている。
円陣には見たことのない象形文字が描かれ、等間隔にロウソクが並び、ゆらめく炎が黒魔術的な雰囲気を演出していた。
「連絡した、中野です」
カーテンが閉められ薄暗くなっている室内には、三人の女子生徒が間隔をとって椅子に座っていた。
さしあたり中央に座るメガネをかけた生徒に挨拶をする。メガネ女子が椅子から立ち上がった。
「松尾アヤです。遠いところ、ありがとうございます」
正面に座していたのは、部長その人で間違いなかった。
残る二人も立ち上がり、軽い会釈とともに自己紹介をした。二人は臼井モカ、山野レイ、と名乗った。
三人は俺がサングラスをしているのを見るや、暗くてごめんなさい、とカーテンを開けようとするが、堕天を目撃した日から虹彩の色が薄まっただけなので、暗くても問題ないと嘘をつくと、ため息をつき同情する素振りを見せた。お嬢様だな。
椅子を勧められ、まずは他愛もない座談会が始まる。三人とも、俺が三年前の事件を語ることを期待していた。
俺は核心をはぐらかしながら、堕天に遭遇した経緯を語りはじめた。
09 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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