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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
黒光の玉は校庭に巨大なクレーターを作り、校舎を半壊させた。
この攻撃によって死者行方不明者は百人に迫り、重軽傷者を現場から運び出すのに深夜までかかったという。
俺は脳震盪で病院に運ばれ、病室で目を覚ました。一緒にいた友人たちも軽症で済んでいたと知った。
俺は事件後、ドローンで空撮された惨状を写真で見たが、それよりも目を引いたのは、負傷者のスマホによって堕天使をとらえた写真だ。
望遠でただでさえ画質は荒かったが、拡大された堕天使の表情は憎悪に歪んでいるように見える。まるで、憎しみを学校そのものに向けているようだった。
黒光の玉を落とした後、堕天使はその身を翻して現場から飛び去ったという。
向かった先は近隣の自衛隊駐屯地だった。そこには天使隊が配属されており、スクランブル発進した自衛隊機に足止めされた堕天使は、天使隊員数名の槍によって串刺しにされ、活動を止めて地に堕ちた。
ネットニュースの記事でその一文を読んだとき、俺は思考が停止して先を読み続けられなくなった。
活動を止めた?永遠に?
秋野ユウヒは死んだのだという事実が脳髄を貫く。
ちょっと待てよ。堕天した天使は殺すしかないのか。そもそも、天使が実体化してしまったら、身体を元に戻すことは不可能なのか。
助けられる方法があったのに、自衛隊の怠慢で堕天使が処理されたと信じたかった。そうでなくては、俺は間接的に秋野ユウヒを殺してしまったことになる。
堕天使の攻撃で犠牲者が出たと知っても何の感慨も湧かなかったのに、秋野ユウヒの死に相当なショックを受けている自分は、今にしてみればかなりサイコパスみがあったと思う。
ファーストキスの相手をこの手にかけたことが、百名近い人々の罪のない命よりも重かったのである。
この頃から俺は、本当にどうかしてしまっていた。
事件の甚大さからは些事であるとしてあまり注目されないが、なぜ天使がむざむざ天使隊のいる駐屯地に向かっていったのかは、様々な憶測を呼んだ。
堕天した天使は自らを葬ってくれる者を探していたとか、駐屯地内には堕天使が求める神の遺物が隠されているだとか。SNSは局所的に盛り上がりを見せていた。
とにもかくにも、戦後最大の犠牲者を出した堕天騒ぎは、日本中の識者を浮き足立たせた。堕天という前時代的な事象など、この百年間世界のどこでも起きていなかったのに、突如として日本で起きたのだ。これには世界も好奇の目を向けた。
秋野ユウヒが通っていた学校は高等部を閉鎖し、解体した跡地には慰霊碑を建立すると発表。学長は引責辞任した。
警察の天使課も捜査したが、何しろ堕天使がヒトを依り代にして暴れるなど前代未聞の事件だったのもあり、捜査は難航していた。
俺だけが知る事実として、まず秋野ユウヒに天使が受肉し、それが堕天したというプロセスだったのだが、現場検証だけでは堕天使が直接受肉したという説がもっぱら通っていたらしい。
俺はこの秘密を墓まで持ち込むつもりで口をつぐんだ。幸い、体育館裏で俺と秋野ユウヒが密会していたという目撃証言は上がっていないようだった。
堕天使が直接少女に受肉したという公式見解は、女子生徒を持つ世の親たちを刺激した。
天使教育を修了させてはじめて、天使受肉の儀式を受けるべく素養が育つと信じていた親たちは、堕天使受肉を看過した天使教育そのものへの不信感を爆発させる。
だが関係省庁は、数百年に一度の悲劇的なレアケースということで事態を収めようと躍起になった。
もし、ヒトに受肉した天使が堕天する危険性をはらむなどという説を認めれば、現代日本社会に浸透しきった、天使による恩恵で成り立っているシステムはすべて瓦解してしまうからだ。
07 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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