02
短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
俺が人生で初めて堕天をこの目で見たのは、三年前の中学二年の秋、友人に連れられて行った隣町の女子高の文化祭でのことだ。
それまでの俺といえば、異性交友にピントが合わず、恋人を作るよりも積ん読の本を読み漁りたいと思うような低ソシャ男子だった。
外見も自他ともに褒められるような特異性はなく平々凡々としていたため、女子から愛の告白を受けるといったことも皆無だった。
そんな俺が、天使教育を実践するような女子高に行って何を楽しめばいいのか甚だ疑問だったが、やっとの思いで招待チケットを入手した友人の顔を立て、重い腰を上げたことを記憶している。
その文化祭で、何の気なしに入った模擬店のカフェでオーダーを取りにきた女子生徒と目が合ったとき、俺から見てもあからさまに、メイド服の女子は様子をおかしくした。
俺や友人が注文をしても上の空で、はっと我に返ったかと思うと、オーダーも取らずにツインテールを揺らしながら奥に引っ込んでしまう。今思えば、その時から堕天は始まっていたのだろう。
別の女子生徒にオーダーを済ませた後、先ほどの生徒が注文の品をトレイに乗せてやってきた。
慣れない給仕のせいか、先ほどの動揺を引きずってかは不明だが、ぎこちない動きでドリンクをテーブルに並べていく。
最後に俺が注文したクリームソーダを置いて女子生徒が去った後、俺は自分のクリームソーダのグラスの底から、メモがはみ出していることに気づいた。
友人に悟られぬようメモをそっと開くと、そこには「一時間後に体育館裏まで来てください」とだけ記されていた。
俺の心は上ずった。俺とて年頃のチェリーボーイであったのだ。自分に年上女子を一目惚れさせる魅力が備わっていることなど信じ難かったが、女子生徒からの突然の申し出を無碍にできようはずがない。
俺は模擬店を出た後、時間を見計らって友人に体調を崩したと嘘をつき、その場を離れて体育館裏へと向かった。友人たちは「クリームソーダに当たったか」とからかったが、むしろ当たったのはドリンクではなく給仕係の方だ。
メモを受け取ってからおおよそ一時間後、人気のない体育館裏に先ほどの女子生徒はいた。量販店で売られているような安物メイド服にツインテール、間違いない。女子生徒は俺に気づくと、片手を上げて笑顔を見せた。
模擬店ではじっくりとその尊顔を拝むことができなかったが、改めて見るその顔は、大きめの二重まぶたにツンと上向いた鼻先、形も血色も良い唇と、美人の要素が一通り揃っていた。
こんな清麗極まる女子が凡夫たる俺なんかに興味を持つなんて、思い上がりだったのではと急に心配になる。
そこから堕天の瞬間までの会話は、なるべく記憶に忠実に記していこうと思う。
「あの、お待たせ、しました」
俺は緊張から、脳から発声器官までの伝達にディレイがかかってしまっている。女子生徒はツインテールを振り回すように首を横に振った。
「ううん。こちらこそ、急に呼び出したりして、ごめんなさい」
「別に、ぜんぜん」
数秒の沈黙が、この後の展開に対する期待と不安を同時にかきたてる。
「実は、呼び出したのは、わけがあって」
「はい」
「さっき、お店であなたを見たとき、あっ、ごめんなさい。わたし秋野っていいます。秋野ユウヒです」
秋野ユウヒは深々と頭を下げた。
「俺は中野。中野カズハです。一つの春って書くんで、友達にはカズハルってからかわれます」
「中野、カズハ君」
自らの名を噛みしめるように復唱する女子生徒を見、俺の心臓は鼓動を速くする。
秋野ユウヒは両手の指を組んだり外したりを繰り返していたが、意を決したように俺を見た。
「あの、私、あなたのことが好きです」
よもや、そんなド直球が飛んでくるなんて誰が想像できるだろう。
データの揃わない初対戦のピッチャーが、バッターボックスで構える前の俺に心臓直撃の危険球を投げ込んできたようなものだ。避ける間もなくデッドボールである。
死球を受けた心臓は早鐘を打ち鳴らし、血流が体内を遡上して頭部で渦を巻き始めた。
03 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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