東京遠征、女帝の密かな休日と出会い
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
探索庁での退屈な会議を終え、志乃は庁舎の廊下を颯爽と歩いていた。
背後には「八咫」のメンバー三人が、心酔しきった表情で控えている。
「流石です、姉御! 東京の幹部連中も、姉御の威圧に気圧されてましたね!」
「……ああ。規律を乱す者には、相応の態度で接するのが礼儀だ」
志乃は低く、凛とした声で応える。
だが、その内面(脳内)は悲鳴を上げていた。
(はぁぁぁ……! やっと終わったぁぁ! 難しい話ばっかりで頭痛いよぉ。もう会議なんていいから、早く原宿と秋葉原に行きたい! 甘いもの食べたい! )
「私はこの後、単独で調査したい場所がある。お前たちは先に宿へ戻り、休んでおけ」
「調査ですか! 流石は姉御、休む間も惜しまず……!」
「邪魔はしません! お気をつけて!」
勢いよく頭を下げるメンバーを見送り、一人になった瞬間。
志乃は物陰に滑り込み、深く、深ーく溜息をついた。
「……やっと一人になれた……。よし、志乃ちゃん、変身!」
手早くポニーテールを解き、用意していた伊達メガネとキャスケット帽を装着。
タクティカル和装の上から、ふわりとしたシルエットの和モダンなコートを羽織る。
鏡代わりにスマホの画面で確認。
よし、これならどこから見ても「少しお洒落に気合を入れた普通の女の子」だ。
………
「……ふぇぇ、可愛い……! 何これ、食べるのがもったいないよぉ……」
原宿の路地裏。
志乃は、色とりどりのフルーツが盛られたデコラティブなクレープを手に、頬を緩ませていた。
周囲の女子高生たちに紛れ、彼女は今、人生の幸福を噛み締めている。
可愛い服を眺め、マジックバッグには「八咫」の連中には絶対に見せられない、ファンシーな雑貨やアクセサリーが着々と収納されていった。
(あぁ、幸せ……。顔を隠してればバレないし、やりたいこと全部やっちゃおう! 次は秋葉原だ!)
………
秋葉原に到着した志乃は、迷うことなく目当てのショップへ直行した。
「……あったぁ! 限定のアクリルスタンド……! 売り切れてなくてよかったぁ……!」
棚に残った最後の一つを手に取り、志乃は心の中でガッツポーズを決める。
レジで会計を済ませ、ウキウキとした足取りで店を出た。
(グッズも買えたし、完璧な休日だわ。……さて、Currentで『適当なダンジョンに足を運ぶ』ってキャストしちゃったし、一応秋葉原ダンジョンを覗いてから帰ろうかな。アリバイ作り、アリバイ作り!)
気持ちを切り替え、志乃は「女帝」の仮面を被り直す。
帽子を深く被り直し、凛とした歩調で秋葉原ダンジョンのエントランスへと向かった。
受付カウンターで、志乃は事務的に免許証を提示する。
「ここは初めてなんだが、これでいいか?。……片倉志乃だ」
「か、片倉様!? 仙台の、あの『女帝』……百傑の!?」
受付嬢が声を上げた瞬間、ロビーに緊張が走った。
「おい、今の聞いたか?」
「片倉志乃って、Currentで言ってた……」
「本物かよ、威圧感がヤバすぎる……」
志乃は内心で(あぁぁ、こんなはずじゃないのにぃぃぃぃぃいい!)と悶絶しながらも、表向きは三白眼を鋭く光らせ、微動だにしない。
だがその時、背後から別の、それも「恐怖」というよりは「驚嘆」に近い、凄まじいざわつきが沸き起こった。
「おい、見ろよ……」
「あれ、中野を落とした……」
「ひより組の……」
(……? ひより組……? どこかで聞いたような気が……)
志乃が反射的に振り返る。
そこには、黒スーツを着た者たちに囲まれ、周囲の喧騒などどこ吹く風といった様子で、首を傾げている一人の天使がいた。
「……あ。透、やっぱりここ、人が多いね?」
ふわふわとした髪。透き通るような瞳。
暴力的なまでの可憐さを纏いながら、その背後には圧倒的な「影」を従えた人物。
志乃の時が止まった。
(……え。何あの可愛い子。天使……? 天使がいる……! 嘘、あれが『闇王』……三上ひより? 冗談でしょ、男子大学生ってみたことあるけど……)
志乃の「可愛いものセンサー」が、過去最高値で振り切れた。
先ほど買った限定グッズのことなど一瞬で吹き飛び、彼女の心は目の前の「三上ひより」に完全に射抜かれてしまったのである。
………
11月に入った最初の日曜日。
抜けるような青空の下、三上ひよりは涼、透、鉄の三人を連れて、散歩がてら飯田橋駅へと向かっていた。
「やっと秋葉原だね。昨日、新しく10名を幹部構成員に昇格させたし、新しい連携も試してみたいし」
ひよりが隣を歩く透に話しかけると、透は手元の端末を操作しながら頷いた。
「うん。これで幹部は50名、構成員も50名。軍団の質が均等になったことで、より複雑な陣形が組めるね。あとはレベル64のひよりんの出力を、どれだけ効率化できるか見ものだね」
そんな話を後ろで聞いていた鉄が、不思議そうに首を傾げた。
「なあ透ちゃん。秋葉原ってどんな街なの?」
「電気街、あとはサブカルチャーの街だね。テッちゃん、あそこには可愛い子がたくさんいるぞ」
「へぇ! それって透ちゃんやボスより可愛いの?」
その言葉に、ひよりが足を止めて頬を膨らませた。
「テツ! 何回言ったらわかるんだよ。俺は可愛くない、男だぞ!」
「ご、ごめんっすボス! つい!」
直後、涼の拳が鉄の頭にクリーンヒットする。
「……アホが」
「いってぇ! アニキ、今日もキレキレっすね……」
その様子を見て、透がクスクスと楽しそうに笑い声を上げた。
………
秋葉原駅に降り立つと、そこは別世界だった。
巨大なビル群に掲げられたアニメの看板、行き交う多国籍な人々。
「うわぁ、すげぇ……!」
目を輝かせる鉄に、涼も珍しく感心したように周囲を見渡す。
「……外国人も多いな。独特の熱気だ」
「少し散策してみようか」
ひよりの提案で歩き出すと、一人のメイド服を着た少女がビラを持って駆け寄ってきた。
「あの…! よろしければ……ひぇっ!」
ビラを配ろうとしたメイドの手が止まる。
彼女の目の前には、圧倒的な美形パーティが揃っていた。
(な、なんなのこの4人組……ビジュが強すぎる! この可愛い子の逆ハーレムデートかなにか!?)
メイドが内心でパニックを起こしていると、透がひよりに耳打ちした。
「ひよりん、せっかくだし行ってみる? メイドカフェ」
「俺、行ったことないんだよなぁ。……行ってみるか。涼、鉄はどう?」
(えっ、俺っ娘!? ギャップが凄すぎて動悸が……っ)
メイドが胸を押さえて悶絶する中、涼は静かに頭を下げた。
「ボスが望むところなら、どこへでも」
(ボス!? 何その呼び方、カオスすぎるんですけど!)
「ボス! 俺、行ってみたいっす!」
鉄の元気な返事に、ひよりはメイドに向き直り、花が咲くような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、お願いします」
(……この子に給仕されたい。一生推せる)
メイドは自らの使命を忘れ、骨抜きにされたまま一行を案内した。
………
「おかえりなさいませ、ご主人様! お嬢様!」
店内に響く声に、鉄が顔を輝かせる。
「えっ、俺、ご主人様になったんすか!? ワクワクするっす!」
「……バカテツ。そういう設定だろう」
呆れる涼と透を余所に、注文を取りに来たメイドがひよりに問いかけた。
「お嬢様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、俺、ご主人様の方です……」
その瞬間、店内が凍りついた。
「……嘘だろ?」
「あんな可愛い子が男……?」
「うーん…逆に良い」
ざわつく客席を余所に、楽しむ一行。
運ばれてきたオムライスに「おいしくなーれ」と魔法をかける鉄、それを観察する透、涼と談笑しながらパフェを食べるひより。
一時の休息を楽しんだ4人は、予定の時間になると席を立ち、次の目的地へと向かった。
………
「ボス、俺、家であのオムライス作るっす! 愛情、たっぷり込めますね!」
「あはは、鉄のご飯はいつも美味しくて愛情こもってるの知ってるよ」
「ボスぅぅ……!」
感激した鉄がひよりに抱きつこうとし、再び涼に頭を叩かれる。
「ふぅ……ご主人様、か。なんか不思議な気分だったな」
ひよりが苦笑しながらも、家族の思い出が出来たとうれしくなった。
透が「次はあっちだね」と路地裏のビルを指差した。
そこは、最新の魔導デバイスや中古の魔銃パーツが所狭しと並ぶ、秋葉原特有の武器屋街だった。
「うわ、すごい……。中野とはまた雰囲気が違うね」
ひよりが感嘆の声を上げる。
店頭には、機械系モンスターからドロップした歯車や基板を再利用したカスタムパーツが山積みになっていた。
「ここは魔銃の聖地だからね。ハンドガンに合う拡張バレルや、色々な強化する触媒もあるはずだよ」
透の言葉に、鉄は吸い込まれるように店内のジャンクパーツ売り場へ。
涼も無言ながら、鋭い目つきで魔力を帯びた漆黒の砥石を吟味し始めた。
「……ボス、これ」
涼が手に取ったのは、吟味していた砥石のうちの一つだった。
「使えると思うんですが……購入してもよろしいですか?」
「もちろんだよ。みんなが強くなるのは嬉しいし」
ひよりが笑うと、店内にいた他の探索者たちが一斉に息を呑んだ。
黒スーツの威圧感あふれる者たちを引き連れながら、無邪気にカスタムパーツを眺める可憐な少年。
その異様な光景に、周囲のざわめきが大きくなっていく。
「おい、あれって……まさか『闇王』か?」
「隣の眼鏡、百傑のマエストロだろ……。やばい…初めてみたよ」
そんな視線を気にも留めず、ひよりはショーケースの隅にあった「猫の形をした防護チャーム」を見つけ、目を輝かせていた。
「これ、可愛い……。小春のお土産にちょうどいいかも」
最凶の軍団を率いる「ボス」が、秋葉原の片隅で妹へのお土産を選んでいる。
そのあまりのギャップに、店内の空気は恐怖から「困惑」と「尊さ」へと変わっていった。
「よし、色々見終わったし、お土産も買えた。……そろそろ、本番に行こうか」
………
「よし、ここだね」
透が指差したエントランス。
しかし、自動ドアを抜けた瞬間、4人は異様な空気を感じ取った。
やけに中が騒がしい。
「おい、見ろよ……」
「あれ、百傑……」
「ひより組の…」
自分たちに向けられる視線。
だが、その喧騒の中心には、もう一人の「主役」がいた。
受付カウンターで手続きをしていた、高く結い上げられたポニーテールが印象的な女性が、ゆっくりとこちらを振り返る。
透がその姿を見て、眼鏡の縁を上げた。
「……あれは、仙台の……」
鋭く綺麗な瞳と、ひよりの澄んだ瞳が、秋葉原の喧騒の中で真っ向から重なった。
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