家族の絆と、新しい風
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
9月末の日曜日のこと。
世田谷ダンジョン13層攻略から2週間が経った。
あれからひよりは、一度も探索に出なかった。
2週間の間に失った20名の仲間を、再召集するためだ。
もう、誰も失いたくない。
目を閉じれば、影となって消えていった構成員たちの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
ひよりのジョブランクが「若頭」に上がったことで、スキル:召集の機能である「昇格」を使えば、今いる構成員たちを「ランク4:幹部構成員」へと強化することも可能だった。
だが、ひよりがまず選んだのは、自分や仲間を庇って散っていった「家族」を呼び戻すことだった。
今のMPでは、余裕を残して1回につき10名まで。
月末になり、ようやく全員を呼び戻し終えたのだった。
「涼、俺、みんなと話したいんだけど……。今俺が思ってること、みんなが思ってることを、ちゃんと話したいんだ」
ひよりの言葉に、涼は静かに頷いた。
「なら、隊ごとに呼び出しましょう。透、いいよな?」
「かまわないよ。今話さないとダメな気がする。この先、また同じことがあれば、ひよりんに何かあるかもしれない。不安の芽は摘んでおきたいからね」
………
ひより組のホーム。
リビングにはひより、涼、透、そして1番隊の10名が集まっていた。
主にデバフと攻撃を担う1番隊は、幸いにも今回の犠牲はいなかった。
「呼び出してごめんね。今の俺の気持ちを伝えたいのと、君たちの気持ちを聞きたいんだ。いいかな?」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
迷いのない返声が響く。
「お前ら、今日はリラックスしていい。ボスの話を聞いて、思ったことを素直に伝えろ」
涼の言葉を受け、ひよりは絞り出すように言葉を繋いだ。
「ボスって呼ばれてるけどさ……俺はそんな立派なものじゃなくて。君たちが倒れていったとき、怖くなってしまったんだ。俺のせいで辛い思いをさせてる。俺がもっと強ければ、君たちをボロボロにしなくて済んだのにって。……本当に、ごめん」
リビングに沈黙が流れる。
やがて、構成員の1人が一歩前へ出た。
「よろしいでしょうか。ボスがお優しいのは、身に染みて毎日感じております。俺たちは、システム上は『駒』かもしれません。ですが、そんな考えをボスは真っ先に否定されるはずです。――家族だから、と」
構成員はひよりの目を真っ直ぐに見つめた。
「俺たちは、そんなボスだからこそ守りたいんです。あなたのためだから、怖くない。それに、ボスはあいつらを呼び戻してくれました。散っていったあいつらの顔を見られましたか? 俺は、満足そうに、幸せそうに笑っていたと思います。それが俺でも同じです。家族を守れるなら、本望なんです」
「でも……!」
「ボス。俺たちは何回でも、ボスに呼び戻してもらって守り続けます。透の姉御も、隣にいるこいつも。家族を守るために、俺たちは何回でも蘇るんです」
別の構成員も堪らず割って入った。
「俺だってそうだ! お前も守る、みんなでみんなを守るんだ! 俺たちがなんなのかは分からねぇ。人間みたいなのに、ボスによって召喚されてる。だけどよ、この体で感謝してるんだ。朽ちることはねぇんだ!」
「そうだ!」と、周りからも次々に声が上がる。
「だから、お願いです。怖がらず、躊躇わず、これからも自分たちをお使いください。もちろん、簡単にやられないように精一杯努めます。……これからも、よろしくお願いします!!」
「「「「「お願いしますッ!!」」」」」
一斉に頭を下げる構成員たち。その背中は、主を支える誇りに満ちていた。
「……君たちの気持ち、受け取ったよ。ありがとう。わかった。君たちに何があっても、俺が必ず呼び戻すから。だけど、安全第一だ。俺は、君たちが大事なんだ。これからもよろしくね」
「俺も気持ちを入れ替えて、きっちりやっていく。お前ら、しっかりついてこい。いいな?」
「「「「「ハイッ!!!」」」」」
………
面談はこの後も続き、9番隊まで全員が同じ思いであることを確認した。
覚悟が決まっていなかったのは、自分だけだったのかもしれない――ひよりはそう感じ始めていた。
そして、最後に残ったのは10番隊。
守備に長け、臨機応変に動き回るテクニカルなタンク部隊だ。
その中には、あの日、ひよりを守って散った「金髪の青年」がいた。
最古参の一人である彼は、この隊のまとめ役でもあった。
「ボス、一言よろしいでしょうか」
「うん、お願い」
涼が10番隊の前に立った。
「この10番隊は、先の戦いでほぼ壊滅した。……タンクのお前らがぬるいことをやってたら誰が守るんだ? と言いたいところだがな。……よく守った。お前らが根性見せなかったら、もっと被害が出ていただろう。本当によくやった」
「カシラ……!」
あちこちから、鼻をすする音が聞こえる。
「お前ら、こうしてボスが呼び戻してくれたんだ。家族も、自分も守りきれ。死ぬな。わかったな?」
「「「「「ハイッ!!!」」」」」
「10番隊の活躍には、本当に感謝してる。一番厳しく、難しい役回りだと思ってるんだ。……ありがとう」
「私も助けられてるよ。ありがとう」
ひよりと透の言葉に、金髪の青年が照れくさそうに手を挙げた。
「すいません、いいっすか? いやぁ、俺は嬉しいんですよ。確かにアニキと一緒に呼んでもらって、古参としてやってきましたけど、実際はついていくのがやっとでした。師匠……ライさんに色々教えてもらって、フウの兄貴からはサポートの動き方を教わって、やっと今があります」
「えっ、ライくんとフウくんと話せるの?」
ひよりが驚いて聞き返すと、青年はニカッと笑った。
「話せますよ? 2人ともいかついのに、なかなかお茶目なところもあるんすよ!」
「ボス、すいません。こいつは口が達者なだけだと思ってました……」
涼が呆れたように言う横で、透も目を丸くしている。
「凄いわね。私でも意思疎通はできても、会話まではできないのに」
「いや、それで自分には何もできないと思ってたんですけどね。体を張って、大好きなボスや家族を守れる役なんて、最高じゃないっすか! なあ、みんな!?」
「おう、アニキの言う通りだ!」「あいつらが助かったときの顔が一番嬉しいんだよな」
構成員たちが口々に賛同する。
「だからボス。これからもこの役目をさせてください。俺たちは何回でも、何百回でも何千回でも立ち上がります。ボスを、天辺までお守りさせてください!」
「「「「「お願いします!!!!」」」」」
ひよりは深く息を吐き、微笑んだ。
「ありがとう……。俺は、覚悟が足りなかったかもしれない。だけど、みんなの気持ちを聞いて決めたよ。――天辺、獲ろう。みんなで行こう!」
その言葉に、室内は歓喜に包まれた。
その後。
ひよりは金髪の青年だけを残し、他の構成員たちを影へと戻した。
「ボス、あれ……俺、なんか余計なことしました?」
「お前はいつも余計なことをしてるからな」
「アニキ、すいませんっ!」
ヘラヘラと笑う青年を見つめ、ひよりは優しく切り出した。
「君に残ってもらったのは、説教とかじゃなくて……渡したいものがあって」
「ボス、いいんですか?」
涼の問いに、透が少し意地悪く笑う。
「涼兄、こいつはこんなんだけど優秀だよ。……言いたくないけどね」
「透ちゃん、今デレた? ねぇデレた!?」
「次の探索、背後から撃つからね?」
「こっわ!」
ひよりはコップにお茶を注ぎ、青年に手渡した。
「君は13層で俺を守ってくれたよね。それに、一番最初に涼と一緒に君を呼んでから、ここまでよくやってくれたと思ってる。最初は敵に『こっちに来るなー!』って叫んで、涼に怒られてたのにね」
「ボス……! それは言わないでくださいよ……!」
みんなの笑い声が響く。
「そんな君が、今では守備の要である10番隊のリーダーだ。これからも、力を貸してほしい。――そんな君に、名前をあげたいんだ。むしろ、遅くなってごめんね」
そう言ってひよりは恒例のコップに入ったお茶を差し出す。
「……いいんですか?」
ひよりは少年のように微笑み、真っ直ぐに告げた。
「もちろんだよ。これからもよろしく――鉄」
「鉄……。ありがとうございます!!」
グイっとお茶を飲み干す鉄。
『個体名:鉄を登録しました』
『スキル:盃を交わすが使用可能になりました。個体名:鉄を対象にできます』
ひよりが念じると同時に、鉄の体が眩い光に包まれる。
その光景を、涼は顔を押さえながら静かに見守っていた。
「涼兄は、本当に兄弟みたいなもんだもんな」
「あぁ……。ボス……ありがとうございます……」
光が収まった時、そこに立っていたのは少し背の伸びた鉄だった。
『個体名:鉄が「直参」に種族進化しました』
「あれ、あんまり変わってない……? ってか兄貴! 泣いてんすか!? え、可愛い!」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
「やっぱこいつバカだわ」
透が呆れ、涼が怒鳴り、ひよりが笑う。
身長が透を追い抜き、涼と同じくらいになった鉄は、意気揚々と拳を突き出した。
「ってことで、ボス!! これからもよろしくお願いしやす!!」
直参となった鉄。
この明るいムードメーカーが、ひより組に新しい風を吹かせてくれる。
ひよりは、確かな希望と共に、次なる高みを見据えた。
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