二度目の襲来と、ドッキリ
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
9月のある朝のこと。
神楽坂の新拠点の静寂は、控えめながらも芯の通ったチャイムの音によって破られた。
「はいはい、誰かな……って、えっ、凛さん!?」
玄関を開けたひよりは、思わず声を上げた。そこに立っていたのは、「世田谷の剣姫」こと赤城凛。
今日の彼女は、清楚なワンピースに身を包み、非の打ち所がないほどクールでおしとやかな「深窓の令嬢」といった風情で佇んでいた。
「ごきげんよう、ひよりさん。昨日透さんからお誘いをいただいて……急にお邪魔してしまって、ごめんなさい」
ひよりは、背後で「計画通り」とばかりに不敵な笑みを浮かべている透を振り返った。
だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。
「凛ちゃんから連絡をもらってね、今日ひよりの家に行くって言うから、私たちも来ちゃったわ!」
凛の後ろから、母・華世、父・慶一郎、そして妹の小春がひょっこりと顔を出したのだ。
「お父さんが涼兄ちゃんと飲みたいって言うから、今日は電車で来たよ!」
小春の元気な声に、リビングで待機していた涼が飛び出してきた。
「お、お父様……! 小春様……!」
「涼くん、今日は積もる話があるんだ。息子と酒を酌み交わすのが私の夢でね。ひよりは酒を飲まないが、君という『もう一人の息子』が付き合ってくれるなら、これほど嬉しいことはない」
慶一郎が優しく涼の肩を叩く。
その「息子」という言葉の重みに、涼の我慢は限界に達した。強面の頬を大粒の涙が伝い、彼はその場に崩れ落ちんばかりに号泣した。
「お、お父様……!! 今日は……今日は、命に代えても飲み明かしましょう!!」
「ははは、命まで懸けなくていいさ。さあ、入った入った」
微笑む慶一郎に、嗚咽を漏らす涼。
それを三上家の女性陣が温かく見守るという、なんとも不思議で幸せな光景がそこにはあった。
………
午後のひととき。
ひよりと透、そして母の華世は夕食の買い出しに出かけ、拠点には留守番の面々が残った。
涼と凛は、慶一郎から熱心な質問を受けていた。
「世田谷の攻略はどうなっているんだ?」「ひよりの戦いぶりは、専門家の目から見てどうだ?」
小春も興味津々で、二人の武勇伝に耳を傾けている。凛はひよりの家族の前で「完璧な探索者」としての顔を保ちつつも、小春に「ひよりさんの寝顔の写真とかない?」とこっそりプライベートを探るのを忘れなかった。
夕方になり、買い出し組が帰宅。
キッチンで華世が腕を振るい、リビングでは慶一郎と涼がフライング気味に早めの乾杯を始めていた。
涼は慶一郎に肩を組まれて「お前は最高だ、涼くん!」と熱い言葉を受け、また泣いていた。
そこへ、再びチャイムが鳴る。
「ここは私が出るよ。ひよりんは座ってて」
透がニヤリと笑って立ち上がる。
ひよりは嫌な予感しかせず、思わず身構えた。
「こんばんわ……お仕事が終わって、スマホを見たら透さんから連絡があったので……って、えっ!!?」
現れたのは、神楽坂ダンジョンの受付嬢、西川妃那だった。
彼女はリビングのあまりの人口密度と、そこに「世田谷の剣姫」がいることに腰を抜かさんばかりに驚いている。
「妃那さん!? どうしてここに!」
「ひよりん、妃那嬢もご家族に紹介しないといけないと思ってね。名アシストだろ?」
「透! そういうのは先に言えよ! なんでいつもドッキリなんだよ!」
顔を真っ赤にするひよりを他所に、妃那はおどおどしながら挨拶をした。
「あ、あの……凛さんはお久しぶりです! ええと、こちらがひよりさんのご家族……?」
「うん、両親と妹の小春だよ。みんな、こちらは神楽坂でお世話になってる西川妃那さん。お姉さんも世田谷の受付をされていて、いつも二人には助けてもらってるんだ」
ひよりが紹介すると、慶一郎が近づいてきた。
「いつもひよりがお世話になっています」
慶一郎は妃那をじっと見つめ、小声で「……可愛い子じゃないか」
とボソッと呟くと、満足げに涼の隣へ戻っていった。
「もう、パパったら酔っ払いなんだから! ごめんなさいね妃那ちゃん」
華世が笑いながら妃那の手を取る。
「それにしても、ひよりの周りはどうなってるの! 凛ちゃんに透ちゃんに妃那ちゃん。みんな可愛いんだから! 全員お嫁に来てほしいくらいだわ。妃那ちゃん、これからもひよりをお願いね」
「お、お母様……! はい、精一杯サポートさせていただきます!」
妃那は顔を上気させ、力強く頷いた。
そこに、小春がまたもや爆弾を投下する。
「んで、ひよちゃん! 結局誰が彼女なの? また『家族』って逃げるの? ねぇ、透お姉ちゃんとの買い物もまだ行けてないから、妃那お姉ちゃんも一緒に行こうよ!」
妃那は「お姉ちゃん」という言葉に反応し、口をポカンと開けて顔を紅潮させた。
「妃那さん……? 大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。私、自分自身が末っ子で妹だから……お姉ちゃんって呼ばれるのが、ずっと憧れで……。小春ちゃん、連絡先教えるからいつでも連絡してね! お姉ちゃんが、なんでもしてあげるから!」
「やったー!」
小春の無邪気な喜びように、それまで「深窓の令嬢」を演じていた凛が、たまらず身を乗り出した。
「えっ、あ、私も! 私も『お姉ちゃん』がいい!」
しかし、小春の答えは無情だった。
「凛ちゃんは、凛ちゃんなの。もう小春の『友達』だもん!」
「あ、うん……そうだよね! それも、いいよね!(妹の友達ルート……チャンスはあるわ!)」
凛は一瞬ショックを受けつつも、ポジティブに脳内で攻略チャートを書き換えていた。
こうして、新拠点の夜は賑やかに更けていった。
酒に酔い、絆を深める男たち。 買い物や美容の話で盛り上がる女性陣。
そして、そんな騒がしくも愛おしい「家族」の光景を眺めながら、ひよりは心から思った。
(……夏休みの最後に、最高にいい思い出ができたな)
これからはまた、大学とダンジョン攻略の生活が待っている。
けれど、この家を、この笑顔を守るためなら、どんな階層だって突破できる。
ひよりの決意は、家族と仲間の笑い声の中で、より強く固まるのだった。
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