静寂の終わり、家族の灯
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
12層の守護者を撃破し、今日だけで4階層もの踏破を成し遂げたひより組。
ひよりと透は、10層の転移石に探索者免許をかざした。ゲートを潜り、空間が歪む感覚のあと、二人の足は世田谷支所ロビーの硬い床を踏みしめていた。
「帰ってきたね……」
ひよりが呟く。 ロビーに向かうと、そこにはいつも温かく見守ってくれている受付の那奈の姿があった。
ひよりは真っ先に彼女の元へ駆け寄り、攻略の完了を報告する。
「那奈さん、ただいま戻りました! 12層、突破しました!」
「おかえりなさい、三上くん! ……えっ、12層!? すごい、本当におめでとう!」
那奈は自分のことのように顔を輝かせると、弾んだ足取りで操作パネルへと向かった。
彼女が嬉しそうに端末を叩くと、ロビーに設置された巨大なリーダーボードが音を立てて書き換えられていく。
【12層:踏破成功 パーティ名:ひより組】
その文字が最上段近くに躍った瞬間、ロビーにいた多くの探索者たちの動きが止まり、次いで爆発的なざわめきが広がった。
「おい、マジかよ。今日だけで4層……12層を抜いたってのか!?」 「佐藤さんの言ってた『ゴミジョブ』って話、デマだったんじゃねえか?」
そんな疑惑と驚愕が入り混じる中、ひよりは事務的な手続きを終える。
周囲には相変わらず、「どうせ寄生だろ」と吐き捨てるアンチの声も混ざっていた。
俯きがちに歩くひよりの前に、一人の大柄な探索者が立ちはだかった。
ひよりが反射的に身構える。
だが、その男が口にしたのは、予想だにしない言葉だった。
「……こんな外野の声なんて、気にするな。俺たち『家族』がついてる。……よく頑張ったな、イッチ」
ひよりの動きが止まった。
見上げれば、男の瞳は温かく、掲示板のあの「スレ民」特有の、身内を愛でるような光を湛えていた。
「あ……ありがとうございます……っ」
堰を切ったように、ひよりの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
掲示板という匿名の世界で支えてくれていた「家族」が、現実の肉声として自分の味方でいてくれた。
その事実に、これまでのアウェイ感で張り詰めていた心が解けていく。
横でそれを見ていた透は、ひよりを傷つけていた周囲の空気に冷静な苛立ちを隠せないでいたが、スレ民の男がひよりを見て、「いやぁ、まさか考察勢がこんなに綺麗な女の子だなんて想像もしてなかったよ。ずっと男だと思ってレスしてたわ、がんばれよ!」とガハハと笑い飛ばしたのを見て、思わず毒気を抜かれたように笑みを零した。
そこへ、ロビーの喧騒を割って、圧倒的な威風を纏った四人が歩み寄ってくる。
世田谷の頂点、日本百傑目前と称されるパーティ「不動剣陣」――龍崎剛、赤城凛、白石恒一、早乙女澪だ。
「12層攻略おめでとうございます、ひよりさん!」
頭のリボンを揺らしながら、凛が真っ先に声をかける。
「私のレベルは抜かされてしまいましたが、攻略階層までもうすぐ抜かれるかもしれないなんて。……正直、複雑な気持ちもありますが、友達として、そしてファンとしては、これほど嬉しいことはありません」
「凛さん……ありがとうございます」
ひよりが涙を拭いながら微笑むと、隣から龍崎が不器用な手つきでひよりの頭をごしごしと撫でた。
「本当によく頑張ってるな、イッチ。……あぁ、三上。凛の言う通り、俺も一人の探索者としては悔しいが……『家族』として、これほど誇らしいことはないぞ」
その横では、他のメンバーが驚きの表情で透を見つめていた。
彼らはオンライン会議での「透の声」しか知らなかったのだ。
「……まさか、これほど美しい女性だったとは。白鷺さん、驚いたよ」
魔算師・白石恒一が、感心したように眼鏡の奥の目を細める。
「初めまして、白石さん。……それと早乙女さんも」
ひよりが自己紹介をすると、白紋・早乙女澪が「いつも凛ちゃんがお世話になってます。これからも仲良くしてあげてね」と、包容力のある姉のような微笑みでひよりの手を取った。
白石は視線を透の背負った愛魔銃へと移し、親しげに語りかけた。
「13層の攻略のアドバイスは助かったよ。私は魔法職は魔法で、という固定観念に取り憑かれていたが、君の柔軟な発想には教えられた。……それに、魔銃というものはいいな。効率的で、実に合理的だ」
「白石さんも、魔銃の魅力がわかりましたか? 私もこれにハマってしまってね。いつか戦略設計について語り合いたいところだ」
透が愛銃を指差し、知性派同士、和やかに談笑する。
別れの際、龍崎が真剣な表情でひよりの肩を叩いた。
「三上、13層の蟻どもは、今のお前なら余裕で対応できるだろう。だが、油断はするな。気を引き締めて頑張れよ」
「また、華世さんに連絡してお邪魔させていただきますね」
凛が少し照れながら付け加えると、龍崎も心配そうに、しかし信頼を込めた眼差しで頷いた。
「ありがとうございます! これからも協力して頑張りましょう!」
ひよりが元気に答えると、不動剣陣の面々は満足げに去っていった。
ロビーを出て、夕焼けに染まる帰路をひよりと透は歩く。
「……さて、ひよりん。拠点の準備は私の方でも進めておくが、ひよりんの方でも、一度ご両親に話してみてくれ」
「わかったよ、透。俺、ちゃんと話してみる」
「ああ。また報告を待ってるよ」
二人は笑顔で別れ、それぞれの家路についた。
世田谷という「ホーム」で感じていた孤独は、まだ残されている。
だが、ひよりの背中には現実の仲間と、姿は見えずとも繋がっている「家族」の温もりが、確かに灯っていた。
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