再起の軍師の買い物、小林鍛冶店
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
透と盃を交わしてから、一週間が経った。
精密検査の結果を手に、透は信じられないといった様子で笑った。
「先生もびっくりしてたよ。悪い数値がすべて正常に戻ってたんだ。生まれてきて、こんなことは一度もなかった」
予測通り、盃の効果によって透の持病は改善していた。
それでも、再発の可能性が消えたわけではないし、病み上がりの彼女をいきなり過酷な階層に連れて行くわけにはいかないと考えていた。
これからは家、あるいはロビーからの指示が主になるだろう……が、本人はついて行きたがっていた。
ひよりは家族となった、透の退院祝いを提案した。
「退院祝い……ご飯でも行く?」
「ふふ、ひよりんはプロポーズをしたりデートに誘ったり、本当に忙しいやつだな」
「えっ、いや、そんなつもりじゃ……」
「冗談だよ。じゃあ、そのデートなら買い物に連れて行ってくれ。君のお気に入りの神楽坂周辺で構わない。……守ってくれるんだろう?」
楽しそうに首を傾げる彼女に、ひよりは首を縦に振るしかなかった。
.........
神楽坂方面へ向かう前、ひよりたちは新宿に立ち寄った。
保険としてではなく、透自身が「戦う意志」を持って装備を望んだからだ。
『強欲』によって、手に入れたレアドロップアイテムなどを売却して貯めた金額は、透の望むものくらいは購入出来るほどで、予算は充分だった。
店に着く前、俺は影の中から涼を呼び出した。
「ボス、何かありましたか?」
「涼、新しい家族を紹介するよ。透だ。君は指揮官、彼女は参謀だ。連携を取って攻略していこう」
「よろしく、透。涼だ」
「私は君をよく知っているよ、副官。透だ、よろしく」
互いに挨拶を交わす二人を見て、ひよりは相談を持ちかけた。
「涼、透の装備を揃えたいんだ。どんなのがいいかな?」
「ファミリーならボスと同じセットでどうですか? ちなみに透のステータスは?」
「知力、魔力、器用が400に届きそう。筋力、耐久、敏捷は26。運は85だよ。とんでもない数値だよね」
「それはまた……極端ですね。ならば武器は間違いなく魔銃でしょう。その器用さなら、どんな型でも使いこなせるはず。戦闘には向かないでしょうが、護身用として持っていてもいいと思います」
「だってさ、ひよりん! 魔銃を持つのか……ふふ、ワクワクしてきたよ」
クールな透が、子供のように目を輝かせてウキウキしている。
「魔銃は決定として、防具はどうする? 涼は俺と同じでいいって言ってたけど」
「私も家族だろ? 仲間外れにはしないでほしいよ」
「ボス。この機会にボスも新調されてはいかがですか? いい機会ですし」
「……そうだね。じゃあ、先に防具を見に行こうか」
ひよりたちは新宿の探索者防具専門店へ足を踏み入れた。
「さて、透様。退院祝いはどちらがよろしいでしょうか」
「なんだひよりん。今日は私をボス扱いしてくれるのか?」
「特別だよ」
「と、く、べ、つ……ふふっ」
「変な言い方しないで!」
冗談を言い合いながら店内を進む。
高級感あふれる店内で、スタッフの丁寧な案内を受け、要望を伝えて用意してもらったのがこのセットだ。
【三上ひより:魔銀シリーズ】
魔銀の防刃スーツ(耐久+20 / 敏捷+15 / 運+10)
魔銀のシャツ(耐久+15 / 筋力+5)
黄金のネクタイピン(知力+10 / 運+5)
支配者のネクタイ(器用+10 / 魔力+5)
不運避けのラペルピン(運+20)
【白鷺 透:黒金シリーズ】
黒金の防刃スーツ(耐久+10 / 魔力+5)
黒金の防刃シャツ(耐久+10 / 魔力+5)
黒金の片眼鏡(知力+10 / 器用+5)
黒金のタイピン(魔力+10 / 知力+5)
黒金のカフス(器用+10 / 耐久+5)
「透も魔銀にしたらよかったのに」
ひよりがそう言うと、透は鏡に映る黒金のスーツを満足げに眺めながら首を振った。
「序列とか格というのは大事にしたいんだよ。下がボスと全く同じというのは、美学に反するからね」
意外と古風なところがあるんだな、なんて感心してしまう。
バシッと決まったスーツ姿のひよりたちの横で、涼が満足そうに頷く。
「次は魔銃ですね。バレット・アームズに行きましょう」
一行は、あの愛銃を購入した銃器専門店へと向かった。
.........
「データとしては頭にあるんだけど、実際に並んでいるのを見るのは壮観だね」
銃器専門店『バレット・アームズ』。
愛銃・銀月のカスタマイズを依頼している傍らで、透は小さな子供のように目を輝かせていた。
ひよりと涼は、ああでもないこうでもないと透の装備を選んでいく。
「透、これはどう? 反動も少なくて扱いやすいみたいだけど」
「いやボス、こちらのモデルの方が魔力伝導率が高く、透の知力なら制御しきれるはずです」
スタッフがひよりたちのやり取りに苦笑いしていると、ふと透が一つの展示品の前で足を止めた。
「ひよりん、私これがいい」
透がキラキラした顔で見つめていたのは、銃というよりは「大砲」に近い代物だった。
全長1,800mm、重量15kg。装弾数5発。
化け物じみた存在感を放つ、魔力弾ライフル『Alligator』。
「……えっ、透。こんなの重いし扱えないでしょ!?」
「だめ? 副官、ひよりんに説明して」
「……ボス。スナイパーとは、戦場に物理的に出ずして戦局を掌握する存在です。扱えれば、後方支援と遠距離狙撃は、透のステータスとこの上なく相性がいい。指揮だけでは、彼女の才を持て余すでしょう」
ドヤ顔でこちらを見てくる透。ひよりは堪らず店員さんに助けを求めた。
「店員さん、どう思いますか……?」
「重量に関しては、持ち運びはマジックバッグがあれば…。背負っての移動も、長時間でなければ可能かと思います。反動については、魔力で軽減が可能ですが、膨大な魔力値と器用値が必要かと」
ここでスタッフが、失礼ではありますがと透のステータスを確認してきたので、伝えた。
「店長が誰も取り扱えないネタ…というか展示目的で仕入れた物になりますが、正直『ぴったり』という言葉以外見つかりませんね。」
知力・魔力・器用が400近いという異常な数値。
そこに高数値の運。
役割、ステータス、そして本人の意思。すべてがこの一撃必殺の巨銃に向いていた。
「……わかったよ。だけど無理はしないこと。前に出ないこと。俺は君の体が心配だし、本音を言えばダンジョンには来てほしくないと思っているからね」
「ありがとう、ひよりん。私の職業が参謀官であることも、病気が絶対に再発しないとは言えないこともわかってる。……でもね、やれる可能性があるなら試したいんだ。やっと届いた……私の夢なんだ」
その目を見た瞬間、言い返す言葉が消えた。
透の真剣な眼差しに、涼も静かに頭を下げた。
「ボス、お願いします」
涼も頭を下げてくる。
「……うん。何かあればすぐ言うんだよ? 家族なんだから、遠慮はしないで」
ぱあっと、透の顔に今日一番の笑顔が咲いた。
完全に予算オーバーだったが、その笑顔を見てまたこつこつ貯めようと決めたひよりだった。
………
カスタマイズを終えた銀月を受け取り銀月【朔】と命名した。愛銃を入れたマジックバッグを抱えた嬉しそうな透と一緒に店を出た。
談笑しながら散策がてら、神楽坂ダンジョン方面へ向かっていた最中、ふと小路の奥に古風な店舗を見つける。
「刀鍛冶……?」
ショーウィンドウには、一目で名刀とわかる美しい一振が飾られていた。
入店しても、主人は新聞を読んだまま「いらっしゃい」と短く言うだけだ。
「日本人だからといって刀に憧れる者は多いが、扱いは難しいし冷やかしが多くて困る」
独り言のようにぼやく店主に、ひよりはつい言葉を返した。
「俺も武器が刀なので、扱いの難しさは身に染みてわかります」
「ほう……今、持っているかい?」
促されるまま、ひよりはマジックバッグの鬼灯を差し出した。
店主の目が、新聞から刀へと移る。
その瞬間、空気が変わった。
「これは……良い一振だ。どこで手に入れた?」
「併設のショップに流れてきたものです。地味で癖があるから売れないと、店主さんが困っていて……」
「ははは! 確かに癖はあるが、滅多にお目にかかれない代物だぞ。こいつは持ち手を選ぶ……名は『鬼灯』か。何か困っていることはあるか?」
「正直、この刀を手放したくないんです。でも、攻略が進んで限界を感じ始めていて……」
「坊主、強化する気はないか? ここは鍛冶屋だ。販売もしているが、本職は打つ方でな」
「……! 性能を上げてほしいです。あと、俺には魔力がないので、属性攻撃が扱えればと」
店主は鬼灯をじっと見つめ、不敵に笑った。
「気に入った。今日はもう店を閉める。二日後に取りに来い。……何とかしてやる」
「えっ、よろしいんですか?」
「良い物を見せてくれた礼だ。代金はきっちりもらうがな。名は?」
「三上ひよりです」
「小林だ。今後メンテナンスはうちに来るといい。素材があればさらに上を目指せるぞ」
二日後の再会を約束して、ひよりたちは店を後にした。
「二日後、私も一緒に来るよ、ひよりん。新しい刀の性能、試したいだろう? 私も君のデータを取りたいしね」
透と次の予定を指切りして、ひよりたちはその日、解散した。
持てるのかと心配されている透ですが、ひよりがチンピラ以上構成員未満の筋力値はあります。
持って撃つわけではありません。
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