新しい家族ができたよ
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
大学の講義を終えたひよりは、足早に指定された病院へと向かっていた。
凛から聞いた「考察勢さんは入院している」という言葉が、胸に小さな棘のように刺さっている。
(……どんな人なんだろう。いつもスレで助けてくれる、優しくて頭の良い人。何かお礼をしたいけど……)
考えながら歩く道すがら、ふと目に留まった花屋へ立ち寄る。
店内に並ぶ色とりどりの花。
ひよりの脳裏に、なぜか鮮やかな「オレンジ色」が浮かんだ。
「お困りですか?」と声をかけてくれた店員に、ひよりはイメージを伝えた。
「これはマリーゴールドといいます。花言葉は『真心』、そして……『予言』。イメージの贈り物にはぴったりですよ」
(真心、そして予言……。本当に、考察勢さんそのものだ)
ひよりはそのオレンジの花束を大切に抱え、病院の静かな廊下を進んだ。
………
指定された個室の前。ひよりは一度深呼吸をして、ノックをした。
「……どうぞ」
中から聞こえたのは、鈴のように澄んだ、けれどどこか中性的な響きの声。
ドアを開けると、そこには柔らかな陽光を背に、ベッドに腰掛けた一人の人物がいた。
短く切り揃えられた黒髪に、陶器のように白い肌。
男性のようにも、女性のようにも見えるその人は、ひよりを見た瞬間、ふっと目元を和らげた。
「ひよりん。……会いたかったよ」
その一言に、ひよりの視界が突如として滲んだ。
初めて会ったはずなのに、その声にはスレで交わした幾つもの「絆」が宿っていた。
理由もわからず溢れる涙。
「ごめん、なんだかわからないけど……」
「いいよ。とりあえず、こっちに来て座って。……マリーゴールドか。私の好きな花なんだ。ありがとう、ひよりん」
透の笑みは、ひよりの涙を優しく溶かしていくようだった。
………
透は静かに、自分の身の上を話し始めた。
恵まれた才能を持ちながら、自由を奪った病のこと。
自分の命を削ってでも立ちたかった「理論士」としての夢のこと。
「やり残したことはあるけどね。……自分の描いた戦術で、生で、あんなデカいモンスターを倒すところを見たかったな。画面越しじゃなくてね」
自嘲気味に笑う透。
その瞳には、諦めきれない未練が、深い澱のように沈んでいた。
ひよりは、彼女の細い手を見つめ、静かに、けれど力強く告げた。
「……透さん。それ、僕が叶えられるかもしれない」
「えっ?」
「透さんなら、僕のスキル……わかるよね?」
透の鋭い眼差しが一点を見つめる。
数秒の沈黙。その知能が導き出した結論は――。
「……『盃』かい?」
「うん。涼や風雷コンビにしか使ったことがないから、人間にどう影響するかはわからない。でも、種族は問わないんだ」
「……私の推測が正しければ、盃を交わすことで君のレベルやステータスと同期し、私の体は君の眷属……『家族』として再構築される。本当に推測でしかないけどね」
透の瞳に、初めて「希望」という名の光が灯る。
「透さんは、どうしたい? 僕の眷属……『直参』という形になるんだけど」
「それを聞くのかい? 私は、自分の夢も力も、すべて君に全ベットするつもりでここに呼んだんだよ」
………
ひよりは、持ってきたお見舞いの袋から、まだ封の開いていないペットボトルのお茶を取り出した。
「あ、えっと……お酒じゃなくて、お茶でもいいかな?」
照れ臭そうに頭をかくひよりに、透は声を上げて笑った。
「ははは! いいじゃないか。君はマフィアのボスじゃない、大学生だ。それに、私はお茶が好きだしね」
「……わかった。じゃあ……」
ひよりは透の真っ直ぐな瞳を見つめ、心からの言葉を紡いだ。
「透、君が必要なんだ。……僕の家族になってほしい」
透は少しだけ目を見開き、いたずらっぽく微笑んだ。
「……いいよ、喜んで。ただ、今の……プロポーズみたいで少しドキドキしたよ」
「な……っ!?」
狼狽えるひよりと重なるように、無機質なシステムメッセージが響き渡る。
『スキル【盃を交わす】を発動。対象:白鷺 透を登録』
『個体進化を開始します――』
透の体が淡い光を放ち、熱を帯びる。
病に蝕まれていた細胞が、ひよりの魔素を取り込み、「直参」へと塗り替えられていく。
『個体名:白鷺 透が「直参」に種族進化しました』
『Lv.51 参謀官としての能力を再構築。全ステータスを同期・統合します』
………
「はっ……!?」
光が収まった後、透は自分の手を見つめ、驚愕の声を漏らした。
体内の重苦しい倦怠感が消え、視界はこれまでにないほど澄み渡っている。
「……信じられない。このステータス……知力390。これが、君の背負っている世界なのか」
ひよりと同期したことで、透はもはや「病弱な一般人」ではなくなった。
戦場には立たずとも、その知能はその場を俯瞰し得るほどに研ぎ澄まされている。
「一度、体を検査してもらってね。異常がないといいんだけど……」
「大丈夫。……今ならわかるよ、ひよりん。私が成すべきことが」
透は誇らしげに、けれどどこか甘えるように微笑んだ。
「透は夢のことあるのはわかるけど、なるべく遠隔で指示して。でも、もし戦いを見たいなら、僕やライくんの後ろにいてね。絶対に守るから」
「それもプロポーズかい?」
「違うってば!」
病室に響く二人の笑い声。
オレンジ色のマリーゴールドが、新しく生まれた「家族」を祝福するように鮮やかに咲いていた。
■ 白鷺 透(参謀 / 直参) Lv.51 職業: 参謀官
HP: 240 / MP: 680
筋力: 26 / 器用: 375 / 耐久: 26
敏捷: 26 / 魔力: 380 / 知力: 390 / 運: 85
透ジョブツリー
Lv.1|理論士(ランク1)
Lv.10|戦術士(ランク2)
Lv.20|戦略士(ランク3)
Lv.40|参謀官(ランク4)
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