銀色の咆哮、そして強欲
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
神楽坂ダンジョン、10層。
薄暗い大空洞に、湿り気を帯びた冷気が満ちている。
昨日、この場所で味わった敗北感――物理攻撃を無効化した『キング・メルトスライム』の姿を思い出し、ひよりは静かに自身のステータス画面を見つめた。
Lv.50への到達。
それは、組織の長としての権能を一段階上のステージへと押し上げていた。
最大MPは380。
ひよりは迷うことなく、『招集』の真髄である「昇格」のコマンドを叩いた。
「……リベンジのためには、もっと盤石な『厚み』が欲しいよね」
ひよりが指を鳴らすと、影から漏れ出した黒い霧が、待機していたチンピラたちを包み込んだ。
消費MPは240。
特に実戦経験を積み、精鋭として頭角を現していた6名が、眩い光の中で柄物のジャケットを脱ぎ捨てた。
光が収まった時、そこには一回り体格を増し、高級感漂う黒スーツに身を包んだ新たな『構成員』たちが跪いていた。
これにより「ひより組」は、副官・涼、エリートの構成員13名、そして気鋭のチンピラ6名。
計20名という、中規模ギルドに匹敵する、それでいて個々の練度が異常なまでに高い精鋭軍団へと進化したのだ。
残りのMPは、腰に差した新たな相棒――魔銃『銀月』の弾丸用として温存する。
「今日こそリベンジだよ。みんな、準備はいい?」
「「「オウッ!!!!」」」
迷いのない、地を這うような咆哮。
再挑戦となる10層への進軍は、前回とは比較にならないほどスムーズだった。
道中に立ち塞がるスライムの群れは、ライの纏う紫電の衝撃波と、フウが放つ風刃の乱舞によって、ひよりが手を下すまでもなく瞬時に霧散していく。
そして、ついに辿り着いた。
あの広大な空洞の主、『キング・メルトスライム』の御前である。
巨大な粘液の塊が波打ち、無数の触手を蠢かせる絶望的な光景。
だが、今のひよりの瞳に宿るのは恐怖ではない。
「……ねえ、涼。俺さぁ、あいつに舐められてると思うんだよね。前回の戦い方、あいつ俺たちが手も足も出ないのを楽しんでたみたいでさ」
ひよりが静かに告げた瞬間、その華奢な体から、制御しきれない『覇気』が周囲へと漏れ出した。
空間の密度が急激に跳ね上がり、背後に控える構成員たちですら背筋を凍らせるほどのプレッシャー。
フウとライは主の怒りを鋭敏に感じ取り、殺気を剥き出しにしてボスを見据えた。
「わからせてやろうよ。前回の俺たちじゃないってさ。……遠慮はいらない。すぐに終わらそう。――涼、始めて」
「お前ら、聞いたか! ボスが『遠慮はいらねえ』と仰った! 作戦なんか要らねえ、今あるもんをすべてぶちかませ。――突撃ッッッ!!!!!」
涼の開戦の号令と共に、フウが視認不可能な残像となって飛び出した。
その後方で、チンピラたちが一斉に『メンチ切り』を発動し、ボスやスライム達の反応速度を強制的に低下させる。
その隙を逃さず、大量のスライムを削るフウと、それに続けと構成員たちが的確に粘液の薄い箇所から核を狙って武器を突き立てる。
ライは『威圧の構え』でキングのヘイトを自身に固定し、巨大な盾と肉体でボスの進撃を正面から食い止めた。
「……邪魔だよ、下がってな」
涼が自身の魔銃マグナムを放ち、キングの巨体を豪快に削り取る。
一瞬で再生しようとするキングだが、光弾によって焼失した体積は、確実に以前のような回復を見せていない。
「涼、ここは俺がやるからいいよ。周りを掃除してきて」
「承知いたしました」
残されたのは、キングと対峙するひより、そして不動の盾・ライ。
ひよりを飲み込もうと飛びかかる巨大な粘液に対し、ライが『帯雷の構え』を発動した。
全身に迸る紫電が粘液を内側から焼き、爆発的な雷の衝撃がキングの巨躯を強引に後退させる。
「ライくん、ありがとう。……ここらへんで終わらせるね」
ひよりが、銀色に輝く『銀月』を抜いた。
――ズドンッ! ズドンッ!! ズドンッ!!!
それは、もはや「魔銃」と呼ぶにはあまりに過剰で、圧倒的な暴力の音だった。
MPを込めた一発一発が、大砲のような破壊力を伴ってキングの肉体を穿つ。
本来なら使い手の腕が付け根から吹き飛びそうになる程の反動を、ひよりは驚異的な『器用さ』で力技でねじ伏せ、そして『豪運』がその魔弾を意思を持つかのように急所へ吸い寄せた。
あえて一撃で核は狙わない。
ただ、その傲慢な巨体を完膚なきまでに四散させ、存在そのものを削り取っていく。
数分後。山のようにそびえ立っていたキング・メルトスライムは、見る影もなく、足元でプルプルと震える「通常スライムサイズ」まで萎みきっていた。
「……俺らを舐めたらどうなるか、身をもってわかってもらわないとね」
ひよりが、震える小さな粘液に手をかざす。
「『強欲』」
もはや死を待つまでもない。存在そのものを概念から奪い去る。
キングの体は絶叫を上げる暇もなく霧消し、膨大な魔素とアイテムの奔流が、光となってひよりの身体へと流れ込んだ。
昨日の苦戦が嘘のような、あっけないほどのスピード討伐。
ひよりはドロップした希少な魔核をマジックバッグへ放り込み、満足げに『銀月』を指先で回してホルスターに収めた。
「よし、帰ろっか。妃那さんに報告しなきゃ。……きっと、驚いてくれるよね」
若きボスと、進化した漆黒の軍勢。
彼らが神楽坂の10層を突破したという事実が、神楽坂ダンジョンの評価を上げることになった。
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