表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】  作者: 道雪ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/125

自動レベリングってチートですよね?

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

 2025年5月、ゴールデンウィーク。


 世田谷の自宅を出発し、乗り換えを経て、ひよりが降り立ったのは大田区・蒲田駅だった。


 駅前は休日を楽しむ家族連れや、観光客で溢れかえり、街全体が浮き足立ったような活気に包まれている。


羽根付き餃子の香ばしい匂いが漂う中、ひよりは周囲の喧騒から少し距離を置くように、左手の薬指に鈍く光る【主従の指輪】をそっと撫でた。


(今日で、なんとか目標まで近づけたいな……)


 その指輪の中には、今のひよりにとって最強の矛であり、盾でもあるフウとライが眠っている。


 そして、ひよりの足元に長く伸びる影の中には、この数ヶ月でコツコツと【招集】し続け、ついに20名という大帯に膨れ上がった「チンピラ」たちが、主の命令を今か今かと待ち構えていた。


 ひよりの現在のレベルは35。


 遠征先であるここ蒲田にコツコツと通っていたひよりは、着実に成長していた。


 目標とするレベル40まで、あと5レベル。


 一般の探索者なら数ヶ月、あるいは半年はかかるであろうその距離を、ひよりは今日一日で詰めようとしていた。


 蒲田にあるダンジョンの入口を潜る。


 ひよりは周囲に他の探索者がいないことを慎重に『察知』で確認すると、静かに指を鳴らした。


「――みんな、出てきて」


 足元の影が爆発したかのように広がり、そこから這い出すようにして20名のいかつい男たちが次々と現れる。


 さらに指輪から魔素の光と共に実体化したフウとライ。


 総勢22名の「軍団」が、薄暗いダンジョンの広場に整然と整列した。


 その光景は、もはや探索者のパーティというより、どこかの広域暴力団の出陣式に近い。


 「今日は新しいことを試そうと思うんだ。……効率を上げるために、二手に分かれてほしい。フウくん、こっちの10人をお願い。ライくんは、残りの10人を連れていって。……それぞれ別ルートで、8層を探索してきて」


 ひよりの提案は、軍団の「分隊運用」だった。

 「チームA:フウ+チンピラ10名」と「チームB:ライ+チンピラ10名」。


 それぞれが独立して魔物を狩り、あるいは「精神的屈服」によって魔素を徴収する。


 配下が獲得した経験値は、組織の長であるひよりに自動的に還元される。


 これが成功すれば、ひよりは戦いの中心に身を置かずとも、通常の何倍もの速度で成長できるはずだった。


 フウとライは言葉を発さず、ひよりの意図を汲み取って力強く頷いた。


 一方、チンピラたちはボスの新しい試みに興奮を隠せない様子で、拳を打ち鳴らした。


「了解です、ボス! この層の魔素、根こそぎ搾り取ってきますぜ!」


「ウチのボスのレベル上げだ、気合入れろコラァ!」


 威勢のいい、だがガラは最悪の返事を残し、二つのチームは迷路のような通路へと消えていった。


 一人残されたひよりは、ひんやりとした岩場に持参したレジャーシートを広げた。


 そして、母・華世が「外で食べるならこれね」と持たせてくれた、特製のお弁当の包みを開ける。


「……うん、美味しい。本当なら、みんなで一緒に食べられたら一番いいんだけどな」


 おにぎりを頬張りながら、ひよりは目の前に展開したステータス画面を注視する。


 ほどなくして、視界の端でログが猛烈な勢いで流れ始めた。


【配下が魔物を屈服させました。経験値を獲得します】

【配下が魔物を屈服させました。経験値を獲得します】

【配下が……】

【配下が……】


 止まらない。


 「精神的屈服」――それは相手に恐怖を植え付け、敗北を認めさせることで魔素を奪う、チンピラ職特有の勝利条件。


 今、ダンジョンの奥深くでは、20名以上のいかつい男たちが、「ウチのボスに捧げる魔素だ、根こそぎ出せコラァ!」とリザードマンやスケルトンたちを物理的・精神的に詰めまくっているに違いなかった。


「……すごい。これ、僕が戦うよりずっと早いよ」


 ひよりはお茶を飲みながら、ピクニック気分でログを見守る。


 レベル35だった数値が、みるみるうちに上昇していく。しかし、喜びと同時に、ひよりの胸には一つの大きな懸念が膨らんでいた。


(これ……もし他の探索者に見られたら、完全に事件だよね。抗争がダンジョンで始まったって思われちゃうかな)


 影の部下たちは、ひよりの前では捨てられた仔犬のように従順だ。


 だが、一歩主の目を離れれば、彼らは「ガラが悪い」という言葉では生ぬるいほどの圧を放つ本物の「チンピラ」なのだ。


 早くレベル40になり、上の職に就いて、彼らを「話をつけられる、礼儀正しい構成員」へと昇格クラスアップさせなければならない。


 今のままだと、いつか全ギルドや警察からマークされかねない。


(早く、もっとちゃんとした『ボス』にならないと。みんなを、胸を張って地上でも連れて歩けるような組織にしたいんだ)


 そんな決意を新たにしながら、最後のおかずである玉子焼きを口に運ぶ。


 お弁当を食べ終え、一息ついた頃には、ひよりのレベルは35から一気に37へと跳ね上がっていた。凄まじい効率だ。


 遠くの通路から、足取りも軽やかに戻ってくる二つのチーム。


 フウとライは汚れ一つない涼しい顔だが、後ろに続くチンピラたちは、返り血を浴びてさらに凄みを増していた。


「おかえり。……みんな、お疲れ様。トラブルはなかった?」


 ひよりが駆け寄ると、金髪のチンピラの一人が鼻をすすり、ニコニコしながら報告してきた。


「はい!途中で通りすがりのパーティに『ヤ、ヤクザの集団だぁーッ!?』ってなったんすけど、師匠…ライさんが威圧で蹴散らしてたっす!証拠隠滅はバッチリっす!」


「……次は、もう少し優しくしてね?できれば、脅かさない方向で」


 ひよりは引き攣った笑顔で、22名の配下を指輪と影に回収した。


 効率は最高。だが、組織の規律マネジメントの難しさ、そして「見た目」の重要性を痛感した、ゴールデンウィークの昼下がり。


 ひよりは少しだけ重くなった気がした体――満たされる魔素――を感じながら、夕暮れの蒲田の街へと戻っていった。

ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>平和(?)なダンジョンに893の集団が!? 間違ってないんだけど間違ってるんだよなぁ…ww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ