自動レベリングってチートですよね?
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
2025年5月、ゴールデンウィーク。
世田谷の自宅を出発し、乗り換えを経て、ひよりが降り立ったのは大田区・蒲田駅だった。
駅前は休日を楽しむ家族連れや、観光客で溢れかえり、街全体が浮き足立ったような活気に包まれている。
羽根付き餃子の香ばしい匂いが漂う中、ひよりは周囲の喧騒から少し距離を置くように、左手の薬指に鈍く光る【主従の指輪】をそっと撫でた。
(今日で、なんとか目標まで近づけたいな……)
その指輪の中には、今のひよりにとって最強の矛であり、盾でもあるフウとライが眠っている。
そして、ひよりの足元に長く伸びる影の中には、この数ヶ月でコツコツと【招集】し続け、ついに20名という大帯に膨れ上がった「チンピラ」たちが、主の命令を今か今かと待ち構えていた。
ひよりの現在のレベルは35。
遠征先であるここ蒲田にコツコツと通っていたひよりは、着実に成長していた。
目標とするレベル40まで、あと5レベル。
一般の探索者なら数ヶ月、あるいは半年はかかるであろうその距離を、ひよりは今日一日で詰めようとしていた。
蒲田にあるダンジョンの入口を潜る。
ひよりは周囲に他の探索者がいないことを慎重に『察知』で確認すると、静かに指を鳴らした。
「――みんな、出てきて」
足元の影が爆発したかのように広がり、そこから這い出すようにして20名のいかつい男たちが次々と現れる。
さらに指輪から魔素の光と共に実体化したフウとライ。
総勢22名の「軍団」が、薄暗いダンジョンの広場に整然と整列した。
その光景は、もはや探索者のパーティというより、どこかの広域暴力団の出陣式に近い。
「今日は新しいことを試そうと思うんだ。……効率を上げるために、二手に分かれてほしい。フウくん、こっちの10人をお願い。ライくんは、残りの10人を連れていって。……それぞれ別ルートで、8層を探索してきて」
ひよりの提案は、軍団の「分隊運用」だった。
「チームA:フウ+チンピラ10名」と「チームB:ライ+チンピラ10名」。
それぞれが独立して魔物を狩り、あるいは「精神的屈服」によって魔素を徴収する。
配下が獲得した経験値は、組織の長であるひよりに自動的に還元される。
これが成功すれば、ひよりは戦いの中心に身を置かずとも、通常の何倍もの速度で成長できるはずだった。
フウとライは言葉を発さず、ひよりの意図を汲み取って力強く頷いた。
一方、チンピラたちはボスの新しい試みに興奮を隠せない様子で、拳を打ち鳴らした。
「了解です、ボス! この層の魔素、根こそぎ搾り取ってきますぜ!」
「ウチのボスのレベル上げだ、気合入れろコラァ!」
威勢のいい、だがガラは最悪の返事を残し、二つのチームは迷路のような通路へと消えていった。
一人残されたひよりは、ひんやりとした岩場に持参したレジャーシートを広げた。
そして、母・華世が「外で食べるならこれね」と持たせてくれた、特製のお弁当の包みを開ける。
「……うん、美味しい。本当なら、みんなで一緒に食べられたら一番いいんだけどな」
おにぎりを頬張りながら、ひよりは目の前に展開したステータス画面を注視する。
ほどなくして、視界の端でログが猛烈な勢いで流れ始めた。
【配下が魔物を屈服させました。経験値を獲得します】
【配下が魔物を屈服させました。経験値を獲得します】
【配下が……】
【配下が……】
止まらない。
「精神的屈服」――それは相手に恐怖を植え付け、敗北を認めさせることで魔素を奪う、チンピラ職特有の勝利条件。
今、ダンジョンの奥深くでは、20名以上のいかつい男たちが、「ウチのボスに捧げる魔素だ、根こそぎ出せコラァ!」とリザードマンやスケルトンたちを物理的・精神的に詰めまくっているに違いなかった。
「……すごい。これ、僕が戦うよりずっと早いよ」
ひよりはお茶を飲みながら、ピクニック気分でログを見守る。
レベル35だった数値が、みるみるうちに上昇していく。しかし、喜びと同時に、ひよりの胸には一つの大きな懸念が膨らんでいた。
(これ……もし他の探索者に見られたら、完全に事件だよね。抗争がダンジョンで始まったって思われちゃうかな)
影の部下たちは、ひよりの前では捨てられた仔犬のように従順だ。
だが、一歩主の目を離れれば、彼らは「ガラが悪い」という言葉では生ぬるいほどの圧を放つ本物の「チンピラ」なのだ。
早くレベル40になり、上の職に就いて、彼らを「話をつけられる、礼儀正しい構成員」へと昇格させなければならない。
今のままだと、いつか全ギルドや警察からマークされかねない。
(早く、もっとちゃんとした『ボス』にならないと。みんなを、胸を張って地上でも連れて歩けるような組織にしたいんだ)
そんな決意を新たにしながら、最後のおかずである玉子焼きを口に運ぶ。
お弁当を食べ終え、一息ついた頃には、ひよりのレベルは35から一気に37へと跳ね上がっていた。凄まじい効率だ。
遠くの通路から、足取りも軽やかに戻ってくる二つのチーム。
フウとライは汚れ一つない涼しい顔だが、後ろに続くチンピラたちは、返り血を浴びてさらに凄みを増していた。
「おかえり。……みんな、お疲れ様。トラブルはなかった?」
ひよりが駆け寄ると、金髪のチンピラの一人が鼻をすすり、ニコニコしながら報告してきた。
「はい!途中で通りすがりのパーティに『ヤ、ヤクザの集団だぁーッ!?』ってなったんすけど、師匠…ライさんが威圧で蹴散らしてたっす!証拠隠滅はバッチリっす!」
「……次は、もう少し優しくしてね?できれば、脅かさない方向で」
ひよりは引き攣った笑顔で、22名の配下を指輪と影に回収した。
効率は最高。だが、組織の規律の難しさ、そして「見た目」の重要性を痛感した、ゴールデンウィークの昼下がり。
ひよりは少しだけ重くなった気がした体――満たされる魔素――を感じながら、夕暮れの蒲田の街へと戻っていった。
ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。




