主従の指輪
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
若者の熱気と、ダンジョン由来の魔素が入り混じる街――渋谷。
スクランブル交差点を行き交う人々の喧騒の中、大学の午後の講義を終えた三上ひよりは、探索者御用達の専門店が立ち並ぶ一角へと足を運んでいた。
今日のひよりは、いつもの防刃スーツ姿ではない。
清潔感のある黒のセットアップ。街に溶け込むための、あくまで「普通」の服装だ。
それでも、線の細い女性的な顔立ちと、どこか浮世離れした雰囲気は隠しきれない。
すれ違う人々の視線が、無意識のうちに彼の背を追っていく。
「……あ、ここだ」
ひよりが立ち止まったのは、都内でも有数の品揃えを誇る探索者専門店――
『アウル・トレード』。
重厚な扉を押し開けると、店内には魔導具特有の、金属と魔素が混ざった匂いが漂っていた。
ひよりが迷いなく向かったのは、テイマー(従魔師)専用アクセサリーのコーナーだ。
ガラスケースの中央に鎮座する、鈍い輝きを放つプラチナの指輪。
【主従の指輪】
テイムしたモンスター、召喚体を亜空間に収納し、常に連れ歩くことができる高位魔導具。
テイマーなら誰もが一度は夢見る逸品だ。
そして――
今の法整備の中で、ひよりがフウとライを「外の世界」へ連れ出せる、唯一にして合法の方法。
「これ、ください」
ひよりは静かに、しかし迷いなく指を差した。
近づいてきた店員は、ひよりの若い外見を見て一瞬だけ言葉に詰まる。
(……金額、分かってるのかな)
そんな疑念が浮かんだのだろう。
だがそれも一瞬だった。
ドロップ品の売却。
ダンジョン内での効率的な「徴収」。
ひよりが積み上げてきた資金は、もはや一般家庭の感覚では測れない額に達している。
「一括で」
そう告げて、支払いを済ませる。
その所作には、本人の自覚とは裏腹に、数多の命運を背負ってきた「ボスの余裕」が滲んでいた。
「ありがとうございます……」
指輪を受け取った瞬間、ひよりの表情がふっと緩む。
「……早く、迎えに行かなきゃ」
左手にはめた指輪を、宝物を見るように見つめてから、ひよりは渋谷の喧騒を後にした。
世田谷ダンジョン、1層。
初心者探索者たちがゴブリン相手に悪戦苦闘する様子を横目に、ひよりは慣れた足取りで、壁の一角に手を伸ばす。
隠し扉が、音もなく開いた。
そこは、ひよりが最初に見つけた「隠し部屋」。
ボスの遠征中、この場所を任されていた二体の存在――
フウとライが、そこにいた。
言葉は、ない。
だが、ひよりが足を踏み入れた瞬間、
座り込んでいた二つの巨体が、弾かれたように立ち上がる。
「ギィ……!」
短く喉を鳴らし、深く、深く頭を下げる。
それは、主への忠誠そのものだった。
「フウくん、ライくん。ただいま」
ひよりは二人の肩に、そっと手を置く。
フウは嬉しそうに鼻を鳴らし、ライは、ひよりの姿を確かめるように、じっとその顔を見つめていた。
「待たせてごめんね」
静かに、しかしはっきりと告げる。
「もう、お留守番しなくていいよ。いままでごめんね。これからは……外の街も、他のダンジョンも、ずっと一緒に行ける」
左手を掲げ、指輪に意識を集中させる。
すると、フウとライの体が柔らかな光の粒子となり、指輪の宝石の中へと吸い込まれていった。
指輪越しに伝わってくる、二体の感情。
驚き。
そして、それを上回る歓喜。
彼らは言葉を持たない。
だが、この絆は、どんな契約文よりも強固だった。
「……よし。帰ろうか」
影の中に宿る14人の構成員。
指輪の中に眠る、2体の双璧。
計16名の気配を携え、ひよりは満足げに微笑んだ。
その日の三上家の食卓。
蒲田で買ってきた餃子が並ぶ中、ひよりの左手の指輪からは、主の帰還を喜ぶ二つの鼓動が、静かに、しかし確かに響いていた。
三上ひより、レベル35。
「組織」は今、指輪という“力”を得て、さらなる高みへと、確実に歩みを進め始める。
■ 三上 ひより レベル:35 職業:構成員
HP: 330 / MP: 175
筋力: 168 / 器用: 178 / 耐久: 168
敏捷: 246 / 魔力: 0 / 知力: 180 / 運: 80
・スキル
威圧 Lv.9 / かつあげ Lv.8 / 逃げ足 Lv.5 / メンチを切る Lv.3 / 言いがかり / 因縁をつける / 指切り / 察知 Lv.5 / 盃を交わす / ケツ持ち Lv.4 / 招集
・装備
鬼灯 (筋力+12 / 器用+5)
防刃クロムスーツ(耐久+6)
防刃シャツ(耐久+6)
漆黒のネクタイ(器用+5 / 耐久+1)
魔銀のタイピン(筋力+3)
・実質ステータス(補正込)
筋力: 183 / 器用: 183 / 耐久: 181
敏捷: 246 / 魔力: 0 / 知力: 180 / 運: 80
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