緊急招集 思いがけない宣戦布告
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
探索庁東京本部――世田谷支所。その最上階。
強化ガラス越しに街を見下ろす会議室には、重苦しい緊張が漂っていた。
円卓を囲むのは、世田谷支所の支所長、探索庁本部から派遣された視察官、そしてこのエリアで名を馳せる上位探索者たち。
形式上は「意見交換会」。だが実態は、ある一人の探索者を査問するための場だった。
議題の中心――三上ひより。
6層から7層にかけての魔物が、まるで嵐にでもさらわれたかのように消失している。
通常なら複数のパーティが奪い合うはずの狩場が、最近は“空白”になっているという事態が報告されたからだ。
資料をめくる役人たちの表情は、苛立ちと警戒が入り混じっていた。
円卓の一角には、赤城凛の姿がある。
幼少期のひよりの写真を見て心を撃ち抜かれ、今やその熱に拍車を掛けている理解者となった剣姫だ。
そして、その隣には不動剣陣のリーダー・龍崎剛。
掲示板の片隅で「煽り虫」を見守っていた、もう一人の古参が静かに腕を組んでいた。
「……遅いな」
視察官の一人が、いかにも不愉快そうに呟く。
「たかが『チンピラ』一人を呼び出すのに、これほど時間をかけるとはな。最近の若い探索者は、立場というものを理解していない」
嘲りを含んだ声が、会議室に転がった。
その瞬間――扉が静かに開く。
空気が、目に見えて変わった。
現れたのは、漆黒のスーツを纏った青年。
三上ひより。
その背後には立たない。だが、まるで見えない影が連なっているかのような錯覚を、全員が覚えた。
彼が席に着いた瞬間、会議室の温度が一段下がる。
支所長は咳払いをし、用意していた資料を広げた。
「三上くん。君が6層から7層にかけて行っている行動について、説明を求めたい。魔物の殲滅速度、通常規模を逸脱し、探索者達に圧を掛けるような随伴人数……それらは探索庁として看過できない」
視察官が言葉を引き継ぐ。
「本来、パーティは4名が原則だ。それにも関わらず、君は10名以上の人間を連れ回している。しかも全員、正体不明。さらに言えば、君のジョブは――」
一瞬の間。
「――『構成員』。かつて嘲笑の対象でしかなかった、チンピラ系のユニーク職だ。正直に言おう。我々は危険視している」
その言葉が終わる前に、凛が立ち上がった。
「――そこまでにしなさい」
冷たく、研ぎ澄まされた声が会議室を切り裂く。
「ひよりさんは、ただ“優秀”なだけ。狩場を奪われた無能な探索者の泣き言を真に受けて、世田谷の至宝を潰す気?」
「剣姫、言葉が過ぎる。しかし……」
支所長が言い淀んだ、その時。
龍崎剛が、巨体を揺らして机を叩いた。
「俺は認めているぞ、煽り虫。三上が低層を掃除してくれてるおかげで、どれだけ事故が減ってると思ってる」
その呼び名に、ひよりの目がわずかに見開かれた。
(……やっぱり)
彼は察する。龍崎もまた、あの場所で、自分を見ていた一人なのだと。
「……凛さん、龍崎さん。ありがとうございます」
穏やかな笑み。
だが、その瞬間――『威圧 Lv.8』が、爆発的に解放された。
見えない圧力が会議室を押し潰し、役人たちの顔から血の気が引く。
椅子の軋む音だけが、やけに大きく響いた。
「分かりました。ご迷惑をおかけしているのなら、今日限りで地下7階までの攻略は卒業します」
淡々とした声。
「次に進みます。その代わり――これから先、僕たちが成果を出した時は。正当な評価を、お願いしますね?」
天使のような微笑み。
その裏に潜む絶対的な重圧に、支所長は脂汗を浮かべながら頷くしかなかった。
「それと……仲間たちは、僕のスキル【招集】で呼んだ家族です。正式な書類もなしに個人情報を求めるのは、マナー違反だと思いますが」
ひよりは首を傾げ、穏やかに続ける。
「それでも開示を求めるなら、僕も“相応の対応”を考えなければなりません。……どうしますか?」
沈黙。
政府の書類も効力を持たない領域に足を踏み入れていることを、庁の人間は本能で理解した。
「……結構だ」
「よかった。なら結構です。……あっ」
ひよりは立ち上がり、出口へ向かう。だが扉の前で、ふと足を止めた。
「ほかのダンジョンも、見たほうが勉強になるかな?」
無邪気な一言を残し、彼は去っていった。
室内に残されたのは、重く沈んだ沈黙。
「……今のプレッシャー、本当にレベル20台か?」
「かっこいい……今日のひよりさんも、最高に『ボス』でした……っ!」
うっとりする凛の隣で、龍崎は誇らしげに胸を張った。
「あいつが最後に言った意味が分かるか? 世田谷に戻らなければ、とんでもない損失だぞ」
龍崎はスマホを取り出し、スレに書き込む。
『【速報】イッチ、探索庁の重鎮どもを完全論破。マナー違反(笑)を実力でねじ伏せる』
三上ひより、レベル28。
“公認”という名の免罪符を手に、彼はさらに高みへと進撃を開始した。
ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。




