スキル:招集
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
世田谷ダンジョン3層、薄暗いエントランス。
ひよりは、新調したばかりの黒い防刃スーツのタイピンを指先で整え、深く息を吐き出した。
新宿の店で買ったばかりのこの服は、まだ少し体に馴染んでいない気がするけれど、今のひよりにとっては大切な「鎧」だった。
(よし……一週間に一度のチャンス。今の俺のMPで、最高の『組織』を作るんだ)
現在のひよりのMPは65。
ジョブが『チンピラ』から『構成員』へとランクアップしたことで得た新スキル【招集】。
それは、自分より下位の職、つまり『チンピラ』を影から呼び出す異能だった。
新規召喚や昇格は「7日に1回」という厳しい制約があるが、一度呼び出せば影への「返還」と「再召喚」は自由。
ひよりは、自分のMPを計算し、精神を集中させた。
「――【招集】」
ひよりが唱えると、足元の影が重油のようにどろりと波打ち、そこから二人の男がせり上がってきた。
一人は眉上に傷跡があり、タレ目がちだが鋭い眼光を放つガタイのいい男(消費MP40)。
黒シャツの胸元を大きく開け、柄物のジャケットを羽織った、いかにも「街の兄貴分」という出で立ちだ。
もう一人は金髪を後ろに纏め、野犬のよう雰囲気の若い男(消費MP20)。
グレーのタンクトップに派手なスカジャン。
ダボッとしたオレンジ色のパンツの、典型的なチンピラスタイル。
スーツ姿でビシッと決めた「上の人間」であるひよりとは、服装からして明確な立場の差があった。
二人は実体化し、自分たちの実体を確かめるように拳を握りしめると、次の瞬間、ひよりの前で直角に頭を下げた。
「「お疲れ様です、ボス!!」」
「……っ! ぼ、ボス……!?」
ひよりは、鈴の鳴るような声を裏返らせて驚いた。
Vシネマそのままの、地を這うような野太い挨拶。それが自分一人に向けられている。
彼らはまだ個別の名前も、豊かな自我も持たない。
システムの呼び出した「チンピラ」という記号に過ぎないはずだ。
だが、その忠誠心だけは、本物の人間以上に強固なものとしてひよりに伝わってきた。
(MPは残り5……。でも、これで形になった。俺一人の力じゃなくて、みんなで戦えるんだ)
ひよりが「おいで!」と呼ぶと、待機していた二人の「側近」が、音もなく姿を現した。
新緑色の肌に鋭い眼光を持つ、敏捷特化のフウ。
岩のような筋肉を誇り、盾と巨大な棍棒を担ぐ、筋力特化のライ。
かつて1層でひよりと盃を交わしたゴブリンたちは、今やこの「いかついお兄さん」たちすらも圧倒するほどの、禍々しくも頼もしいオーラを放っていた。
フウは新入りの二人を値踏みするように睨みつけ、ライは「俺が教育してやる」と言わんばかりに不敵に笑って棍棒を肩に担ぎ直した。
「フウくん、ライくん。この二人と協力して、3層の攻略をお願い。……いい?」
ひよりの言葉に、フウは無言で頷き、ライは拳を打ち鳴らして不敵に笑う。
新入りの「兄貴分」と「若手」も、ひよりの指示を聞き逃すまいと、鋭い目つきで前方の闇を睨み据えた。
特殊なゴブリン進化個体と、ガラは悪いが忠実なチンピラたち。
ひよりを中心としたその光景は、もはや単なる探索者パーティの枠を超え、一つの「組織」……いいえ、「ファミリー」の誕生だった。
「……よし、行こうか。修行の続きだ」
ひよりが静かに歩き出す。
黒いスーツの裾を翻し、影から現れ、影へと消える変幻自在の軍団を引き連れた少年。
その背中は、3層の闇の中へ、吸い込まれるように消えていった。
残されたエントランスには、彼らが放っていた「異質さ」の余韻だけが漂っていた。
この日、3層に潜っていた探索者たちの間で、一つの噂が駆け巡ることになる。
『黒スーツの美少年が、チンピラみたいな連中とバケモノを引き連れて、魔物を蹂躙している』と。
仲間に誇れるようにと願って進む、静かな反撃の始まりだった。
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