片鱗
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
世田谷ダンジョン2層は、かつてない異常事態に見舞われていた。
「……いた。フウくん、ライくん、お願い!」
「「オオォッ!!」」
ひよりが指を差した瞬間、緑の残像が爆ぜた。
フウが目にも止らぬ速度でコボルトの群れを翻弄し、その急所を的確に突いていく。
漏れた個体が牙を剥こうとすれば、黒鉄の巨躯・ライがその前に立ち塞がり、一撃で地面に叩き伏せた。
ひよりは刀を抜くことさえない。
だが、二人が魔物を倒すたび、スキル『盃を交わす』の契約を通じて、二人が獲得した経験値がそのままひよりの元へも流れ込んでくる。
(……すごい。二人が頑張ってくれるたびに、体がどんどん軽くなっていく……!)
二人の舎弟が暴れれば暴れるほど、レベルの伸びが悪いでも、加速的に上昇していく。
これこそが、チンピラ職の真の力――「組織による絶対的成長」だった。
やがて一行は、2層の最奥。フロアボスが鎮座する大部屋へと到達した。
そこには、周囲の魔物とは一線を画す巨体を持つ『オークリーダー』が、何者かの侵入を阻むように咆哮を上げていた。
「あれが、ここの一番強いモンスターだね。……ごめんね、俺たち、もっと下に行かなきゃいけないんだ」
ひよりが静かに告げると、オークリーダーが巨大な棍棒を振り上げた。
だが、それが振り下ろされるより速く、フウが背後に回り込み、ライが正面からその腕を掴んで固定する。
「今です、親分!!」と言わんばかりの二人の完璧なサポート。
ひよりは、腰の『鬼灯』を抜き放った。
「――ごめん!!」
閃光一閃。 新武器の性能と、爆速で上がったレベルによるステータス上昇。その全てが乗ったひよりの一撃が、オークリーダーの巨躯を両断した。
『フロアボス:オークリーダー、討伐完了』 『経験値を獲得。レベルが19に上昇しました』 『新スキル:【ケツ持ち Lv.1】を習得しました』
「ケツ持ち……? ああ、みんなの責任を持つ(守る)ってことかな?」 スキルが発動した瞬間、フウとライの全身に淡い光の膜が張り、そのステータスがさらに底上げされる。
その圧倒的な「ボスの瞬殺劇」を、部屋の影から震えながら見ていた探索者たちがいた。
「……おい、嘘だろ。オークリーダーが……一撃かよ」
「あの真ん中にいる美少年……なんだよ。あんなイカつい魔物を二体も侍らせて……」
「あれは世紀末の子じゃないか……」
ひよりは【察知】で彼らの存在に気づいていたが、今は時間が惜しかった。
「フウくん、ライくん。行こう、3層へ」
彼らが階段を降りて消えた直後、世田谷ダンジョンの攻略掲示板に激震が走る。
【世田谷】ダンジョン総合攻略スレ
562:名無しの探索者 【緊急速報】
今、世田谷2層のボス部屋にいたんだけど、とんでもないものを見た。 写真アップする。
[画像ファイル](※フウとライを従え、オークリーダーの死骸の前に立つひよりの隠し撮り写真)
563:名無しの探索者
は? なんだこれ。コラ画像だろ? こんな魔物、世田谷にいたか?
564:名無しの探索者
いや、これマジだぞ! 俺もいた! その美少年が「ごめん」って言った瞬間に、オークリーダーが真っ二つ。 取り巻きの黒い巨漢と緑の影が、完全にその少年に跪いてて……。
565:名無しの探索者
……待て。この少年の服、どこかで見たことあるぞ。
別のスレで騒がれてた「チンピラ」の子じゃないか?
566:名無しの探索者
嘘だろ!? あの可愛い子が、こんなバケモノ連れて歩くわけ……。 でも、よく見ると顔が完全に一致してる。
567:名無しの探索者
修行してくるって言って消えたのなんて最近だろ!? 爆速でボス瞬殺するし「子分」作ってきたのかよ。
おい、アンチのせいでマジで「修羅」が爆誕しちまうんじゃねーか……。
3層。 さらに暗く、険しくなったフロアに足を踏み入れたひよりは、ふと足を止めた。
「……あ、ここ。……誰か、困ってる人がいる気がする」
【察知】が捉えたのは、さらに強力な魔物の群れに囲まれ、絶望している探索者たちの気配だった。
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