三上家の朝
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
2層での激闘、そして負傷したゴブリンを守るという覚悟を決めたあの日から、さらに探索を続けて帰宅した翌朝。
ひよりが目を覚ましたのは、土曜日の午前10時を過ぎた頃だった。
「んん……よく寝た……」
カーテンの隙間から差し込む日差しが、前夜の探索で酷使した体に心地よく染みる。 新しく習得したスキル【察知】が、階下で家族が動く賑やかな気配を伝えてくる。
ひよりは大きく背伸びをして、寝巻きのままリビングへ降りていった。
「あ! ひよちゃん、やっと起きた! 遅すぎだよー」
ソファでテレビを見ていた妹の小春が、ポニーテールを揺らしながら振り返った。陸上部の中学生らしく、朝練ですでにひと仕事終えたような、快活なオーラを放っている。
「おはよう、小春。昨日はちょっと……帰りが遅くなっちゃって」
「もう、ひよちゃんが寝てる間に私、5キロも走ってきちゃったんだからね。お父さんもお母さんも、ひよちゃんが疲れてるからって起こしちゃダメって言うんだもん」
ダイニングテーブルでは、新聞を広げていた父の慶一郎が穏やかに笑っていた。 大手企業の重役として、平日は冷徹な決断を下す彼も、休日の一軒家では「娘と息子に甘い父親」でしかない。
「おはよう、ひより。いいじゃないか、土曜日くらいゆっくり寝ればいい。……あまり無理をするなよ。お前が頑張りすぎると、母さんが心配して料理の量が増えすぎちゃうからな」
「あら、そんなことないわよ、あなた」
キッチンから顔を出したのは、母の華世だ。ふわりとした雰囲気を纏った彼女は、ひよりの顔を見ると、どこか誇らしげに鼻を動かした。
「おはよう、ひより。見て、この前のあの綺麗な小瓶……やっぱり凄いわ。今日、お部屋の空気を入れ替えるついでにシュッとしたんだけど、なんだかお家の中が清々しい気がしない?」
華世が手に持っていたのは、凛から震える手で渡された、一本数十万円はする高級ポーションの瓶だった。
「母さん……。それ、やっぱり香水として使っちゃったの? それ、普通に買ったら数十万円はする高級なポーションだよ……」
「ええ!…でも、とってもいい香りだし、なんだかお肌もツヤツヤになる気がして。ついでに小春の部活の靴にも一吹きしちゃった」
「ひよちゃん、お母さんのそれ凄いよ! 私の靴ピカピカなの!」
「あはは……。まあ、みんなが喜んでるなら、それが一番かな……」
一回の噴射でいくら飛んでいくかはわからないが、ひよりは遠い目をして笑った。
この「価値のあるものを、惜しみなく家族のために(天然で)使う」華世の気質こそが、ひよりの「魔物を更生させて仲間にする」という非常識な優しさの源泉なのだ。、慶一郎も苦笑しながら見守っていた。
「……あ」
ふと、【察知】に違和感が混じった。 門の外、電柱の陰に、いつもひよりを尾行している「世田谷の剣姫」の気配。 (凛さん……。察知を習得してからわかるようになったけど、見守ってくれてたのか。次に会ったら大変だからもう大丈夫って伝えないと)
「ひよちゃん、どうしたの? ぼーっとして。早くトースト食べなよ!」
「あ、うん。ありがとう、小春」
ひよりは、華世が焼いたトーストを頬張った。
家族の笑い声、高級ポーションの清らかさに満ちた一軒家。
思い出したように、ひよりは食後に何気なくスマホを手にした。
掲示板のみんなに、昨日の探索話を報告しようと思って――。
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