意識の変化
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「みんな、今まで本当にありがとう。と言っても2層に行くときはここを通るから会えるんだけどね」
世田谷ダンジョン1層。
ピカピカに磨き上げられた広場には、数十匹のゴブリンが整列していた。 ひよりが2層への決意を伝えると、彼らは悲鳴にも似た声を上げたが、その中から2匹のゴブリンが、ひよりのズボンの裾を掴んで離さなかった。
「……えっ? 俺についてきたいの?」
「ギギッ、ギィ!」
彼らは、ひよりに徹底的にお掃除を叩き込まれ、同時に恐怖と慈悲を一番近くで見てきた個体だ。
ひよりは少し困ったように笑い、彼らの頭を撫でた。
「……分かった。じゃあ、一緒に行こう!」
ひよりを先頭に、2匹のゴブリンが荷物持ちのように後ろを歩く。その奇妙な「パーティ」の一行は、ついに2層へと足を踏み入れた。
2層に降りてすぐ、鋭い殺気が走った。
「ガウッ!」
暗がりから飛び出したのは、俊敏な魔物「コボルト」の集団だ。
「危ない!」
ひよりが身をかわした瞬間、背後にいたゴブリンの1匹が、コボルトの爪によって肩を深く切り裂かれた。
「ギャッ!?」
苦悶の声を上げ、倒れ込むゴブリン。
「大丈夫!?」
ひよりは慌てて駆け寄る。
昔から、地元でも学校でも、ひよりはいつも喧嘩の仲裁役だった。
争う声が聞こえれば放っておけず、ボロボロになりながらも両者の間に割って入る。
そんな彼の「善意」が、目の前の光景に激しく反応した。
「……ひどい。喧嘩はダメだって……仲良くしたいだけなのに……っ!」
ひよりは立ち上がり、眉間に精一杯のシワを寄せて凄んだ。
「――やめろって、言ってんだろ……っ! 仲間を傷つけるやつは、ダメだ……! おらぁ!!」
【威圧 Lv.4】発動。
精一杯凄んでいるが、どこか柔らかさが残るひよりの怒声。 だが、その背後に潜む「チンピラ」の威圧感が、コボルトたちの動きを数秒間だけ完全に停止させた。
しかし、2層の魔物は1層ほど甘くない。
威圧を振り払い、コボルトたちが再びひよりへと襲いかかる。
その牙が、負傷したゴブリンを執拗に狙っているのを見た瞬間、ひよりの脳内に、今までになかった冷徹な意識が芽生えた。
(……そうだ。喧嘩を止めるだけじゃ、この子たちは守れない……)
『仲間も守れないで、本当の友達になんかなれない』
その瞬間、ひよりのシステムログに真っ赤な文字が走った。
『スキル「察知」の習得待機。習得条件:討伐を開放します』
「……行くよ!」
ひよりが新武器『鬼灯』を抜いた。
ひよりは、戦意を失い、恐怖で縮こまった1匹のコボルトに対しては、優しく峰打ちを食らわせた。 【かつあげ Lv.4】発動。
精神を屈服させた魔物から、魔素を吸い上げる。
だが、依然として牙を剥き、負傷した仲間を狙う残りのコボルトに対しては、ひよりの手は迷わなかった。
「……ごめんね。でも、もう無理だと判断したよ」
優しさと冷酷さ。
閃光のような一撃。
『鬼灯』の刃がコボルトの喉元を正確に捉え、一閃。
戦意を捨てないものに対しては、徹底的な「討伐」をもって制裁を下す。
それが、ひよりの選んだ「仲間を守るため」のスタイルだった。
数秒後。 通路には、戦意を喪失して震えるコボルトと、力尽きた魔石だけが残されていた。
「……あ。そうだ、薬、薬……」
ひよりはすぐに刀を納め、負傷したゴブリンにポーションをふりかける。
「痛かったよね、ごめんね。俺がもっと早く気づけばよかった」
ゴブリンは傷が癒える中、ひよりの顔を見上げ、その瞳には以前とは違う「絶対的な忠誠」が宿っていた。単なる恐怖ではなく、自分たちのために怒り、戦ってくれた「親分」への敬愛だ。
そんな光景を、岩陰から凛が震えながら撮影していた。
(……あぁ、ひよりさん……。仲間のために、あの『おらぁ!』という凄み……そして容赦のない討伐…………。かと思えば、慈悲深いポーション…………ッ!)
凛は顔を真っ赤にして、連写を続ける。
(……守るべきもののために、迷わず武器を振るう……。あなたは、なんて……なんて罪深いほど、かっこいい人なの…………!!)
「よし、レベルも上がったみたいだ。……俺、なんだか少しだけ、自分の役割がわかってきた気がするよ」
ひよりは、自分についてくる2匹のゴブリンを連れて、さらに奥へと進む。
その足取りは、もはや迷いのある新人探索者のものではなく、少しずつ「組織の長」としての風格を帯び始めていた。
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