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【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】  作者: 道雪ちゃん


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解放と新たな武器

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

「……あの、お兄さんたち。もう大丈夫ですよ」


ひよりが、地面に額を擦り付けて泣きじゃくる田中と鈴木に、優しく声をかけた。


広場は見違えるほど綺麗になっている。かつてないほど丁寧に瓦礫が片付けられ、埃一つ落ちていない。


「お掃除、ありがとうございました。お二人とも、とっても熱心に手伝ってくださって……。なんだか、俺たちの仲が深まった気がします」


「い、いや……そ、そんな……」


田中は、実体を取り戻した左手の小指を震えながら見つめていた。黒い霧が晴れた後の解放感は、麻薬のように脳を痺れさせる。彼らにとってひよりは、もはや「解析対象」ではなく、一言で自分たちの存在を消し去る「神」か「魔王」にしか見えていなかった。


「もう二度と……二度と、あなたに嘘はつきません。逆らいません……。ですから、どうか……」


「ふふ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。……『嘘をつかなければ』、おまじないは怖くありませんから。……では、俺はこれで失礼しますね」


そう言って、ひよりはヒビだらけのバットを肩に担ぎ、軽やかな足取りで広場を後にした。残されたエージェント二人は、しばらくの間、ひよりが去った方向を拝むように見送っていた。



ダンジョンを出て、ロビーまで戻ってくると、そこには頭の大きなリボンをなびかせた少女が立っていた。世田谷の有名探索者、「世田谷の剣姫」こと赤城凛だ。


「あ! あの時の……高級なポーションをくださった方ですよね!」


ひよりが嬉しそうに駆け寄ると、凛は一瞬、肩を跳ねさせた。


「あ、あの……。前回はきちんとお礼も言えず、申し訳ありませんでした。俺は三上ひよりといいます。今は大学2年生で、20歳です」


ひよりが丁寧にお辞儀をしながら自己紹介をすると、凛は真っ赤になりそうな顔を必死に抑え、クールな仮面を被り直した。


(……二十歳……。大学生……。あぁ、年上の可愛い男性…………)


「……私は、赤城凛。18歳……高校3年生です。……と言っても、探索者としての活動がメインなので、学業は免除されていますが」


「18歳!? 高校生なのにプロの探索者なんですか、すごいなぁ。赤城さんは……えっと、凛さんとお呼びしてもいいですか?」


「……ええ、お好きに。……ひより、さん」


凛の脳内で、「凛さん」という響きが反響する。内心では鼻血が出そうなほど興奮していたが、表面上は「剣姫」らしい冷徹な美しさを保っていた。


「凛さん。これ、ポーション代です。返させてください」


「……いえ。あれは私が勝手に贈ったものです。それより、ひよりさん。そのバット……」


凛の視線が、ひよりの持つ鉱石バットに注がれる。 それはもはや武器とは呼べないほど、ボロボロに朽ち果てていた。


「なら、いつか別の形で返させてください! これなんですけど、わかりますか? 実はこれ、もう寿命みたいで……。それで、ショップで新しい武器を探そうと思っているんですけど、俺、武器のことなんて全然詳しくなくて。……凛さんが持っているような剣に、ずっと憧れがあるんです」


ひよりは少し照れくさそうに笑った。 「俺、小さい頃はヒーローに憧れていて……。いつか、そのヒーローが持っていたような刀を使いこなせるようになりたいなって思ってるんです。でも、俺なんかに扱えるでしょうか」


(……刀……!! ヒーロー…………ッ!!)


「……宜しければ、私が、お供しましょうか。……ひよりさんの武器選び。私も、今日はもう暇ですので」


「本当ですか!? それは心強いです! プロの凛さんについていただけるなら安心です!」



二人はダンジョンに併設されたショップへと足を踏み入れた。 店主のオヤジは、ひよりの連れている「剣姫」を見て目を見開いたが、ひよりの持つボロボロのバットを見て、さらに深く溜息をついた。


「……おいおい、坊主。こいつぁ、もう一振りでもすればポッキリだぞ」


「すみません、使い方が荒かったかもしれません……」


ひよりが苦笑いしながら、店内を見渡す。 そこには無骨な斧やロングソードが並んでいたが、ひよりの目は、隅の方に無造作に置かれていた一振の刀に釘付けになった。


「あの、あれは……?」


店主が顔をしかめて、その刀を手に取る。

「あぁ、それか。どこからか流れてきたもんだが、とにかく癖が強くてな。重さは普通なんだが、地味だし誰が持っても『これじゃない』って突き返される、全然売れない厄介者だよ。物はなかなかいいんだがな」


店主がカウンターに置いたのは、渋い赤茶色の鞘に収まった和刀。 「名前は『鬼灯ほおずき』。見ての通り、地味なもんだ」


「鬼灯……。いい名前ですね。……あの、一度持たせてもらってもいいですか?」


ひよりがそっと、その柄に手を触れた。 その瞬間。 パキィィィィィィン!!


ひよりがそれまで持っていた鉱石バットが、役目を終えたかのように足元で砕け散った。


「……えっ!? バ、バットが……!」


驚くひよりを余所に、ひよりが『鬼灯』を握りしめると、これまでのどの武器よりも手に吸い付くような、異常なまでの馴染みを見せた。華奢なひよりでも、まるで自分の腕の延長であるかのように、恐ろしいほど軽く感じられる。


凛は背後でその光景を確信を持って見つめていた。


「……店主さん、これにします! 俺、これなら頑張れそうな気がします」


ひよりは、これまでコツコツと貯めてきたバイト代と探索の報酬、全額をカウンターに置いた。


決して安くはなかったが、ひよりの表情は、念願のヒーローの武器を手に入れた子供のように輝いている。


「……はぁ。まあ、売れ残りが捌けて俺も助かるが……大事にしろよ、坊主」



「見てください凛さん! かっこいいなぁ……。俺、ついに刀持ちですよ! これで俺も、少しはヒーローに近づけたかな」


ショップを出たロビーで、ひよりは大切そうに『鬼灯』を抱え、うきうきと小躍りせんばかりの様子で歩いている。 そんな彼の後ろを、凛は一歩遅れて歩きながら、静かにスマホを取り出した。


(……うきうきのひよりさん。……刀を抱いて微笑むひよりさん。……光り輝く、私の…………)


カシャ、カシャカシャッ。


無音カメラのシャッター音が、凛の指先から高速で刻まれる。

「ひよりさん、もっとこちらを向いて笑ってくださってもいいのですよ……?」

「えっ、あ、はい! 刀、本当に嬉しいです!」


ひよりは自分の写真を隠し撮りされていることなど1ミリも気づかず、満面の笑みを凛に向けた。 凛は内心で鼻血を吹き出しそうになりながら、その笑顔をしっかりと「聖域フォルダ」へと保存するのだった。

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