目指す場所
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
リビングでは、鉄が腕を振るった料理と、庭から次々と運ばれてくる焼きたての肉を囲み、女子たちが賑やかに華を咲かせていた。
「みんな、楽しんでる?」
ひよりがその輪に混ざろうと歩み寄ると、和やかだった空気が一変した。
誰がひよりの隣に座るかという、静かだが苛烈な「場所取り合戦」が勃発したのだ。
結局、参謀である透がひよりの片側に座り、反対側は希望者が順番に座るという「交代制」に落ち着いた。
「三上先輩、さっきお聞きして驚いたんですけど……寧々さんって、あの『百傑』だったんですね」
穂乃が少し緊張した面持ちで口を開くと、隣の栞が明るく続けた。
「最初は独特な雰囲気で怖かったけど、話してみたら栞、仲良くできそうな気がしました!」
「……ふふ、栞は寧々とどこか似た部分があるからな。意外と波長が合うのかもしれないね」
透の言葉で、リビングに笑いがこぼれていると、新たな来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
出迎えた透が連れてきたのは、仕事終わりの妃那だった。
「ひよりさん、今日はお招きいただきありがとうございます」
「妃那さん、来てくれて嬉しいよ! 美味しいものを用意したから、ゆっくり楽しんでね」
ひよりが座るように促すと、構成員の1人が、流れる動作でグラスと飲み物を用意した。
「あら、今日は鉄さんは?」
「テツなら今、庭でみんなと肉を焼いているよ。そうだ、紹介したい人たちがいるんだ!」
ひよりは妃那を促し、賑やかな庭へと連れ出した。
「妃那さん、俺の家族のフウくんとライくん。それと新しく家族になった寧々だよ。……みんな、この人は神楽坂ダンジョンの職員をされている西川妃那さん。これからもお世話になるからね」
「初めまして、西川妃那と申します。今後とも……」
丁寧な挨拶をしかけた妃那の思考が、目の前の光景を前にして真っ白にフリーズした。
見たこともない高位個体であろうモンスター二体。
そして、Currentを騒がせているあの百傑・枢木寧々が、「家族」として紹介されたからだ。
特に、百傑であるはずの寧々が、フウにまるでお気に入りのぬいぐるみのように抱っこをされている状況は、神楽坂職員としての常識を根底から揺さぶるものだった。
困惑する彼女をよそに、ライが重厚な足取りで近づき、挨拶として巨大な拳を妃那の前に突き出した。
「……初めまして。ねね、です」
フウの腕の中で、寧々は妃那を見つめていたが、彼女の纏う「大人」の、あるいは特別な空気を感じ取ったのか、わずかに表情を曇らせた。
そこへ、リビングから一人の構成員が慌ただしく寧々を呼びに来た。
「チキンの仕上がりを確認してくだせぇ!」
「……わかった」
どうやらメインのチキンを仕込んだのは寧々だったらしく、彼女はフウの腕からピョンと飛び降りると、キッチンへと向かっていった。
残された妃那は、爆ぜる炭火の音を聞きながら、「ひよりさん、あなたの『家族』は……一体どうなっているの?」と、言葉にならない問いを夜空に投げるしかなかった。
………
用意された色とりどりのスイーツをすべて平らげた頃、賑やかだった宴も心地よい余韻を残して終盤へと差し掛かっていた。
リビングには、庭から戻った涼や鉄、そして寧々やフウ、ライまでもが集まり、温かな光の下で全員が円を作るように腰を下ろした。
「せっかく揃ったんだ。……みんなの、来年の目標を聞かせてもらえないかな?」
ひよりの提案に、最初に口を開いたのは妃那だった。
彼女は手元のグラスを愛おしそうに見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。
「私は、ひよりさんたちが切り拓いてくれたこの神楽坂を、もっと盛り上げたい。今、皆さんの背中を追って攻略を進める探索者が増えています。職員として、その波を支えるのが私の目標です」
続いて、サンフラワーの浅野が力強く頷いた。
「俺たちは、まず5層以上の攻略だ。……正直、三上の背中は遠すぎるけど、できる限りその後を追いかけて、いつか肩を並べて戦えるようになりたい」
穂乃、栞、瑠奈の三人も、決意を込めた瞳でひよりを見つめた。
「……私たちの目標は、新宿ダンジョンへの挑戦。それでいいね、ひよりん?」
透が眼鏡を押し上げ、確信に満ちた声を出すと、ひよりは静かに、だが深く頷いた。
「うん。まずは年が明けたら、池袋ダンジョン。その後に六本木に遠征してからだね。……正直、今の俺たちならすぐにでも新宿に行ける。けれど、神楽坂のようにスキルを封じられる階層もあるはずだ。あらゆる事態に対応できるよう、まずは経験を積みたいんだ」
その慎重かつ確固たる方針に、直参の三人と寧々、そしてフウとライたちが音もなく頷き合う。
その光景は、もはや単なるパーティではなく、一つの強固な「組織」の威厳を放っていた。
「俺が探索者としてデビューしてから、もうすぐ一年が経つ。……来年は、天辺を取りに行くよ」
ひよりは堂々と、その場にいる全員の目を見て宣言した。
ふと、周囲を見渡せば一年前、たった一人で「Lv.1チンピラ」という職業を背負い、誰からも笑われ、蔑まれていた自分の姿が遠い昔のように思えた。
バットを持って逃げていた探索者は、今や「闇王」として名を馳せ、これほどまでに愛すべき家族と仲間に囲まれている。
「来年も、ひより組とサンフラワー。みんなで上を目指して頑張っていこうね!」
ひよりの清々しい言葉と共に、聖夜の祝祭は幕を閉じた。
ゲストたちを見送り、静まり返った拠点。
窓の外には、冬の澄んだ星空が広がっている。
ひよりは、遠くの新宿ダンジョンを見つめた。
蔑まれていた過去は、もうない。
あるのは、守るべき家族の体温と、王として歩むべき果てしない道のりだけだ。
ひよりの瞳には、既に次なる戦場――新宿の最深部が映っていた。
これで第一部が完となります。
第二部も4月中に再開いたしますので、ご愛読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




