温かい場所
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
12月25日、神楽坂、ひより組拠点。
空は雲ひとつない冬晴れ。朝から拠点内は、かつてない活気に包まれていた。
昨夜の緊急ミーティングで決まった役割分担のもと、ひよりたちは慌ただしく買い出しや飾り付けに勤しんでいた。
「せっかく広い庭があるのに、使わないのはもったいないっすよ!」
という鉄の活きのいい提案が採用され、今日は庭で涼が炭を熾して肉を焼き、室内では鉄が腕を振るった豪華なオードブルを楽しむという、贅沢な二段構えのパーティーとなった。
ひよりが脚立に乗り、リビングの天井にガーランドを飾り付けていると、買い出しリストをチェックしていた透がふと話しかけてきた。
「ひよりん、人形姫のことなんだがね。……早速、連絡をよこしてきてね」
「寧々ちゃんから? 何て?」
「拠点に来る時に困るから、住所を教えてほしいと言われてね。さっき教えておいたよ」
「そっか、ありがとう。俺、飾り付けに夢中でスマホ見てなかったから、透の方に連絡したのかもね」
「ふふ、いい傾向だよ。私を頼ろうとしてきている。彼女なりに、家族の一員になろうと努力している証拠だね」
透は満足げに頷き、自分の「支配下」に置けつつある状況に余裕の笑みを浮かべていた。
……だが、その余裕が崩れるまでに、一時間もかからなかった。
ピンポーン、と。
パーティーの開始時間にはまだ早すぎる時間に、玄関のチャイムが激しく鳴り響いた。
「おっ、もう来たっすかね! 俺が出てくるっす!」
鉄が勢いよく玄関へ向かう。
だが直後、廊下から「えっ!!」という裏返った絶叫が響き渡った。
「テツ? どうしたんだよ」
慌ててひよりたちが玄関へ駆け寄ると、そこには大きな荷物を抱え、期待と不安の入り混じった瞳を潤ませる寧々が立っていた。
「き、今日からお世話になります……。よ、よろしくお願いします!」
その一言に、ひより組の四人は凍りついた。
「……えっと、寧々ちゃん? 」
ひよりが恐る恐る尋ねると、寧々は不思議そうに首を傾げた。
「ひよたん、ねねが家族になったんだし……。ねねもみんなと一緒にいられるように、おうちに行っていい? って聞いたら、マエストロは『構わないよ』って言ってくれたよ?」
静寂が、玄関を支配した。
ひより、涼、鉄。三人の視線が、一斉に隣で石像のように固まっている透へと突き刺さる。
(……嘘でしょ? 「遊びに来ていい」じゃなくて、「住んでいい」の方で取られたの!?)
透の脳裏で、昨夜の自分の軽率な発言がリフレインする。
だが、既に寧々は「家族」としての居場所を見つけた喜びに満ち溢れている。
今さら「勘違いだ」と突き放せば、それこそ昨日結んだ信頼関係が崩壊しかねない。
「あ……あぁ。……た、確かに言ったね。うん」
透は、引き攣った笑顔に滝のような汗を浮かべながら、必死に言葉を絞り出した。
「ひよりん……後で、ちゃんと話すから。まずは、そう、寧々を歓迎しよう。それがいいさ。あははは……」
「とりあえず、上がってね。テツが、部屋を案内するから、荷物をおいてきたらリビングに来てね」
ひよりが諦めたように寧々の荷物を受け取ると、寧々は「ありがとう!」と花が咲くような笑顔で家の中に飛び込んでいった。
………
神楽坂、ひより組拠点のリビング。
鉄が寧々の膨大な荷物を抱え、彼女を二階の空き部屋へと案内しに席を外した瞬間、リビングには重い沈黙と、頭痛を堪えるような溜息が満ちた。
「……ひよりん、本当に申し訳ない。私は、まさか『住む』なんて考えに達するとは思っていなかったんだ。完全に私の落ち度だよ」
透は眼鏡を外し、目頭を押さえながら消え入るような声で謝罪した。
「いや、俺もあの言葉でそこまで勘違いするとは思わなかったよ。透だけの責任じゃないから。……二人で招いた結果だよ、これは」
ひよりは透を責めることなく、むしろ自分たちの「甘さ」を共有するように苦笑いを浮かべた。
策士であるはずの透が、これほどまでにうなだれている姿は珍しい。
「ボス。起きてしまったことは、もはや仕方がありません。……枢木……いえ、寧々のために、ここは腹を括って歓迎してあげるのが、最善なのではないでしょうか」
揺らぐ二人を繋ぎ止めるように、涼が静かに、だが力強く提言した。
「彼女を今さら拒絶すれば、それこそ昨日結んだ絆は断絶し、最悪の結果を招きます。ならば、ここを彼女が本当に落ち着ける『居場所』として差し出すべきです」
涼の言葉は、今のひより組にとって唯一の正解だった。
「……涼の言う通りだね。わかった。なら、ここを寧々ちゃんの居場所にできるように、温かく迎えよう」
「すまない……。私も、そのつもりで接する。……でも、まさかひよりんレベルの天然……いや、天然地雷が現れるなんてね。情報過多だよ、本当に」
透は力なく笑いながらも、ようやく顔を上げた。
そこへ、案内を終えた鉄が、どこか満足げな寧々を連れて戻ってきた。
「案内完了したっすよ!」
「わぁ……飾り付け、可愛いね。ねねも、手伝うよ」
リビングの華やかな装飾を見渡し、寧々の瞳がキラキラと輝く。
「寧々ちゃん、ありがとう。……でもその前に、ひより組の緊急ミーティングをしようか。透、いい?」
ひよりの視線を受け、透は軍師としての、そして「家族の長女」としての顔を作り直した。
「よし。寧々がひより組の家族になったということで、役割分担を決めたいと思う。寧々、いいかい?」
「家族……」
寧々はその言葉を噛みしめるようにうっとりと呟き、深く頷いた。
「私はひより組の管理。涼兄はひよりんの護衛、テッちゃんは料理担当兼雑用。……それで、寧々、君は何ができる?」
「ね、ねねも、料理ができるよ。あとは……お人形を作ること」
「そ、そうか。……まあ、人形作りも大事だね。じゃあ、まずは鉄と一緒に料理担当をよろしく」
透の適当な流し方に、寧々は少しだけ頬を膨らませて首を振った。
「ち、違うの、マエストロ。お人形を作って遊んでるんじゃないんだよ。……ス、スキルで、『代替人形』ってものがあるの。これをみんなに持たせたら、何かあった時に私の人形でダメージを身代わりできるから……」
その説明を聞いた瞬間、ひよりの目が輝いた。
「安全第一のひより組には、これ以上ない助けだよ! ありがとう、寧々ちゃん!」
「えへへ……。……ひよたん。もう家族なんだから……『ねね』って呼んで?」
ひよりは少し照れながらも、彼女の真っ直ぐな想いを受け止めるように頷いた。
「わかったよ、寧々」
「うん! ……み、みんなもよろしくね。涼兄、テッちゃん、と、透ちゃん!」
その呼び方の変化に、涼は静かに目を細め、鉄は照れくさそうに鼻を擦り、透は「透ちゃん、ね……」と苦笑した。
張り詰めていた空気は、一気に和やかな「家庭」のそれへと溶けていく。
「さて、それじゃあ準備を再開しようか! みんな、配置について!」
透の号令で、各々がパーティーの準備へと動き出す。
気持ちを切り替え、数時間後に迫る宴を楽しもうとする一行だった。
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