打ち合わせ
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
12月23日、冬休みを目前に控えた大学内。
色々と重なるこの時期、キャンパスは独特の殺伐とした空気と、長期休みを待つ浮ついた熱気に包まれていた。
「やっと……終わった……」
ひよりは講義棟のロビーで、魂が抜け出したような声を漏らした。
透のの管理が要らないほどに忙しい日々だった。
探索になど行けるはずもない「地獄」のような学生生活が、ようやく一つの節目を迎えたのだ。
だが、ひよりを疲弊させていたのは学業だけではない。
カメック亀井によってCurrentに投稿された「あの写真」の影響は凄まじかった。
廊下を歩けば「ダークロードだ!」「三上さんですよね!?」と学生たちが群がり、食堂では質問攻めに遭い、挙句にはサインまでねだられる始末。
ひよりの精神は限界まで削られていた。
「……お疲れ様。災難だったな、三上」
すぐ傍らで、同期であり、パーティ『サンフラワー』のリーダーでもある浅野が、心底から同情しきったような憐れみの目でひよりを見つめていた。
「浅野……。ああ、浅野もお疲れ様。助かったよ、さっきの囲みから逃がしてくれて」
「お前に比べたら大したことないからな。まあ、周りは就活だのインターンだので必死になってる時期だが……俺とお前は、もう将来が決まっているようなもんだしな」
浅野は皮肉っぽく笑いながら、周囲の騒がしい学生たちを眺めた。
ひよりはその言葉に、ふと顔を上げた。
「ってことは……」
「せっかくサンフラワーを組んだんだ。卒業後も、俺は探索者を続けるよ。迷いはもうない」
「そうか……! よかった、これからも切磋琢磨していこうな!」
戦友の頼もしい言葉に、ひよりの表情にようやく明るい色が戻った。
そんな彼を見て、浅野は思い出したように言葉を繋いだ。
「そういえば、サンフラワーで思い出したんだが。……明後日って、予定空いてるか?」
「明後日? 25日のこと?」
浅野の話では、メンバーの女子3人――穂乃、栞、瑠奈が、クリスマスくらいは探索のことなど忘れてパーティーがしたいと騒いでいるのだという。
「うちも鉄がパーティーをしたいって透に言ってたな。……もしかして、合同でやりたいってことか?」
「ああ。そっちの拠点でやるなら、俺たちもお邪魔させてもらおうかと思ってな」
「ちょっと待ってね、透に聞いてみる」
ひよりは即座にスマホを取り出し、拠点で待つ透へメッセージを送った。
『浅野たちが合同パーティーをしたいって言ってるんだけど、いいかな?』
数秒後、通知音が鳴る。
「お、早いな。……『OK。楽しみにしてる』だって! 了解だよ!」
「助かるよ! あいつら、教えたら飛び跳ねて喜ぶぞ。……じゃあ、詳細は追って連絡する。また当日な!」
浅野と拳を軽く合わせ、別れるひより。
ようやく手に入れた冬休み。だがその裏で、ひよりの心には温めている「ある決意」があった。
………
神楽坂、ひより組拠点。
大学での喧騒を潜り抜け、ようやく帰宅したひよりを待っていたのは、いつものように玄関まで出迎えに来た鉄と涼だった。
「「ボス、お疲れ様です!!」」
弾んだ声で一礼する二人に、ひよりは安堵の息を漏らして微笑んだ。
「ありがとう。……二人とも、パーティーの話はもう聞いた?」
「はい。そのことで、追加でお伝えしたいことがございまして」
涼が表情を引き締め、言葉を繋いだ。
「剣姫が、正式に『百傑』入りを果たしたそうです」
「凛さんが!? 凄い……年内には絶対に入りたいって言ってたもんね。よし、ちゃんとお祝いしないと!」
「透ちゃんが、明後日のパーティーに招待したらしいんすけど、予定が入ってるそうで後日になりそうっす」
「……忙しそうだね。とりあえず、ここじゃ立ち話もあれだからリビングに行こうか」
リビングへ足を踏み入れると、ソファでタブレットを操作していた透が顔を上げた。
「お疲れ様。……大変だったね。しばらくゆっくり……と言ってあげたいところだけど、そうもいかないみたいだ」
透はひよりに向け、少し苦笑いを浮かべた。
「浅野たちの件は、急に決めてごめんね」
「賑やかでいいじゃないか。不動剣陣は忙しいらしいし、どうせなら妃那嬢にも連絡しないとね」
ケッケッケッ、と透がいつもの不敵な笑い声を上げる。
「……お願いします。もう、透には敵わないな」
ひよりは苦笑して応じたが、ふと表情を曇らせた。
三人の直参を前に、言い淀むように、けれどもしっかりと重い口を開く。
「……自分の撒いた種なんだけどさ。……寧々ちゃんから、DMが結構来てるんだ」
その一言に、透と涼が「やはりか」と顔を見合わせた。
「内容は、なんとなく予想がつくね。寂しさが限界を超えた……といったところかな。で、どうするんだい?」
透の問いに、ひよりは真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて返した。
「明日、彼女に会って……この問題を解決させようと思う」
「案はあるの? 正直、今の彼女の状態をまともに解決するのは、不可能に近いと思うがね」
ひよりは、考え抜いた案を、静かに三人に伝えた。
それを聞いた瞬間、涼の顔から血の気が引いた。
「そ、それはダメです、ボス! ボスに何かあれば、俺たちは一体どうすればいいのですか!」
「涼兄の言う通りだ」
透の声も、かつてないほど低く、鋭い。
「確かに、彼女を抑える究極の解決策にはなるかもしれない。でも、それはあまりにも危うい諸刃の剣だ。何かあればひよりんまでただでは済まないんだよ?」
「……わかってる。でも、俺が『約束』を守ればいい。ただ、それだけのことだよ。これなら、みんなを、家族を守れる」
ひよりの言葉には、迷いがなかった。
沈黙がリビングを支配する。
涼も透も、主の瞳に宿るその強固な決意を前に、次の言葉が出ない。
沈黙を破ったのは、鉄だった。
「……ボスが決めたことなら、俺は従うっすよ。ボスがみんなを守りたいって言うなら、俺はそれを支えるだけっす。出来ることは、なんでもやりますから!」
鉄の真っ直ぐな言葉に、涼も深く息を吐き、覚悟を決めたように膝を突いた。
「……承知いたしました。確かにボスの案ならば、あのような異質な存在とも道を繋げるかもしれません。俺も、全力でお供させていただきます」
最後に残った透は、眼鏡の奥で激しく葛藤していたが、やがて短く溜息をついた。
「……わかった。明日は私もついて行くわ。口は出さないと約束するけれど、何かあればその場でもいい、私を頼って」
「ありがとう。……心強いよ。よろしく頼むね」
ひよりは、三人との絆を改めて噛み締めた。
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